一息吐く間も無く舞台は進む
――ひょんなことから<四大精霊>と呼ばれる高次元の存在達との契約の任を課せられた<無魔力の忌み子>である私め。
運良く<四大精霊>の一人がいるとされる蒼の都こと【シールス】への旅行券を手にし、<大魔女>アメルダ先生と共にかの地へと赴きました。
しかしながら私め達が向かった【シールス】は最近天候が荒れに荒れ、高波や嵐が吹く異常気象に見舞われておりました。その原因に<四大精霊>が関わっていると推測した先生と共に現地調査を始めた所、ディーネと名乗る現地案内人の少女と出逢います。
なんやかんやあり、ディーネと仲良くなり?(正確にはむこうからグイグイ来る感じでしたが……)、【シールス】の海での遊びを満喫していると、例の悪天候が発生します。
吹き荒れる【シールス】の海の底から謎の声がして、まるで意識を持った波によって私めはそれに攫われることとなります。
その危機についてはアメルダ先生の身を削った”魔術”によって難を逃れ、その後私めを助ける為に海へと潜ったディーネと合流を果たします。そしてその後、彼女の口から衝撃の真実が告げられます。
なんとディーネこそが、私めが追い求めていた存在――つまり、<四大精霊>が一人<水の大精霊>だったのです。
さらに彼女を生み出したのは、【シールス】を創り出したとされる<海神>ポセイン様の武具たる<神器>”トライデンタル”から溢れ出た”マナ”によるものらしく、ディーネが<神器>の力を上手く制御できなかったからこそ【シールス】の天候が悪くなったというのです。
そういうことから、ディーネは自分は出来損ないと卑下しますが、私めは首を横に振ります。
何故、私めだって魔力を一切宿さない<無魔力の忌み子>という欠陥品なのです。それでもやれることはあると信じなければこの先に道は拡がらない。それを自覚していたからこそ、私めはディーネに『二人で力を合わせれば何とかなる』と彼女を鼓舞したのです。
そんな話をしている内に再び海が荒れ、先程私め達を襲った元凶たる<海神>ポセインが姿を現します。
色々とディーネを馬鹿にする発言をするポセインに対し、私めとディーネは立ち向かう意思を向けます。
きっと壮絶なぶつかり合いになると思ったが決して逃げないと決意した矢先、ポセインはただ『合格だ』とニタリ笑ったのです。
どうやらポセイン様は最初っから私めの覚悟を測りたかっただけらしく、私めがディーネと共に進む意思を見せた時点で彼女から及第点を得れていたらしいです。
何はともかく、ポセイン様からお墨付きを頂戴した私めは彼女から餞別品として一つの小さな指輪を授けられます。
その指輪の名は<集いし四霊力の指輪>。
四分の一部分だけ蒼く輝くのが意味しているのは、ディーネと”主従契約関係”を結べた証。
人生で初めて出来たディーネという友人。この出来事は私めにとって大きな一歩でしたが、それで終わりではありません。あくまでこれは始まりに過ぎない。まだ三人の<四大精霊>が残っています。その者達と契約を果たさぬ以上、私めの使命は完遂されません。
まるで一息吐く間も無く舞台は進むかの如く、私めの過酷な運命は廻り続けるのです――
●
そんなこんなあり【シールス】でのちょっとした休暇を終えた私めとアメルダ先生は【コミティア】へと続く一本道を歩いていました。
その最中、
「…………」
先生は終始何かを考えているご様子で、帰路の途中はずっとこんな具合でした。
何か深刻なことを考えていらっしゃるのは一向に構いませんが、少し心配になってしまいます。
私めは何度目かの声掛けを試みます。
「あの先生、何をずっと考え込んでいらっしゃるのですか? もうそろそろ【コミティア】に帰れるのですよ? 故郷に戻ってもずっとそんな顔をなさるおつもりですか?」
「むっ、それもそうじゃな。……スマヌ」
「もぉ、先生らしくありませんね。先生のことですから『もっとあそびたかったのじゃぁ~!』と駄々をこねるかと思いましたよ」
「へぇあ!? 何じゃその妾像は!? まさかエメルダにはそう思われてるのかえ!?」
「はい、失礼ながら」
「ガビーンじゃ!?」
先生は分かり易い感じで落ち込み肩を落とします。その後、涙目になりつつもこう仰ります。
「こう見えて妾、ずっと真剣に考えておったのじゃよ? 今後の<四大精霊>対策についてな。もし仮にディーネの言葉が本当なら次も厄介な相手になるやもしれぬ」
「<土の大精霊>ノムゥ……。確かディーネの話だと……」
『――ウチ等<四大精霊>はみんな、生まれも育ちも性格も好きなことも得意なことも全部違うけど、たった一つ共通してる部分があるし。それはいかにしてニンゲンのことを理解しようかと試行錯誤してる点にあるし!』
人間のことを理解したい。
その想いについてはディーネの口から直接聞いており、その強さについては嘘はありません。
ですが問題はその先。<四大精霊>が人間を理解しようとするのに用いる手段が重要なのです。
「ディーネは友好。一人は魅了。一人は武力。そして肝心のノムゥは……」
「――支配。誰とでも仲良くなりたいとするディーネとは完全に真逆の思想じゃな」
「ではその方法については如何でしょう? ディーネが教えてくれた情報が正しければ……」
「あぁ、仮にノムゥがディーネの言葉通りの力を秘めておれば、簡単に人間の尊厳を奪えるであろうな。まぁ直接その実力や能力を見ておらぬから現段階では半信半疑ではあるがの。とは言え用心に越したことは無い。<四大精霊>の裏に<神>の存在が仄めかされてもいるからな」
ディーネの話から推測するに<四大精霊>の発生は<神>が持つ<神器>に依るものです。もしその話が本当なら先生の懸念が正しいことを意味します。
「ではまた<神>と対峙する可能性が?」
「あぁ。しかももう一つ問題なのは、もしかすると次相対する<神>は妾の知り合いやもしれぬ」
「えっ!? 先生は<神>にもお知り合いが? とても広い繋がりをお持ちなのですね?」
私めの驚きに先生は苦そうな顔をなさります。
「……好きで知り合いになったわけではあるまい。どちらかというと因縁深い相手じゃ」
そう零す先生の額に汗が流れるのが見て取れました。
珍しく先生が困った様な表情をしていたことに胸が締め付けられた私めは、はっきりこう告げます。
「ご心配なさらないで下さい、アメルダ先生! この私めが付いております!」
「エメルダ……?」
私めが急に真面目なことを言いましたから先生は思わず立ちすくんでしまわれます。
「今までは私めは護られるべき存在であったことに違いはありません。――しかし、今はもう違います! たかが四人の内の一人、されど四人の内の一人! 私めは<四大精霊>と”主従契約関係”を結べました! だからこそ、私めはもうか弱く無力な<無魔力の忌み子>だとは思わないで下さい! なのでどうかこれからは私めのことを大いに頼って下さりませんか? そうしてくれたら全力で支援させて頂きますよ!」
端から見れば、かの完全無欠と名高い<大魔女>アメルダ様に助力するなんていう無謀極まりない行為に思われるかもしれませんが、私めはそうとは思いません。
何故なら今や私めは、先生ですら成し得なかった偉業である<四大精霊>との契約を果たしたのです。なら、<大魔女>様の隣に立てる資格は十分にあると思いますが、如何でしょう?
……何はともかく、私めの力強い言葉を聞き入れた先生は、いきなり私めの頭を両手で豪快に撫で回します。
「エメルダ……ッ! お主はどうしようもないくらい立派な成長を遂げたのぉ~ッ! 全く! エメルダが心身共にどんどん大きくなっていくのをすぐ側で見守れる妾は、とても幸せ者じゃ~ッ! そういうことなら存分にお主の力を借りるとするか!」
「わっ! わっ! ちょ、ちょっと、先生!? そんなに髪をクシャクシャさせないで下さいよ! もうそろそろそういった子ども扱いをして欲しくはないのですが!?」
「そう釣れぬことを言うでない。良いでは無いか! こうして愛情を注げる時に注いでやらねばいつか後悔すると思っておるからの。現に妾はもうこうしては貰えぬからな……。あの時の悲しさだけはお主には感じて欲しくないわい」
「え……?」
どこか寂し気に遠くの方を見つめる先生の何とも哀愁漂う感じがする横顔に、どこか不穏な空気感があるのは気のせいでしょうか?
(時々先生はこういった顔をなさるのですよね……。特に過去のことを匂わせる時は顕著にその傾向が強く出る様な気がします)
そもそも先生は昔のこと――特に生まれてから<大魔女>と呼ばれる様になるまでの経緯についてはほぼ語って頂いたことはありません。
当然気にはなりますが、話す気が無いのなら無理に聞くのは野暮とはいえ……
(気軽に過去の話を話してくれない以上、それはそれでまだ完全には信頼されていないことを意味しているでは?と思うと多少モヤッとはしますが、致し方ありませんね……)
それについてはあくまで先生のお気持ちが主体。
いつか昔の話を笑い飛ばすかのように聞かされる日を待ち望みつつ、【コミティア】への帰路を進み、ようやく街の形を捉えられる場所にまで到着しました。
「おや? もうそろそろ【コミティア】に着きますね。どうします、すぐに家に直行したいですが……」
「まずはポセインから貰ったこの魚の土産をどうにかするのが先での。流石のお主でも生魚を捌くのはまだ無理じゃろ? じゃから【ヴァルハラ】におるキューレイに調理を頼もうぞ」
「はい、それが良いかと!」
そんな会話をしつつ、私め達は故郷である【コミティア】に戻って来ました。
「「?」」
しかしその後、私め達は街中に漂う違和感に悪寒を覚えます。
良くは判りませんが、今の【コミティア】はまるで誰しもが寝静まり返ったかのような静寂が立ち込めており、ただ一人として住民を目の当たりにすることがなかったのでした。




