<眠り姫>
今話より新章開幕です。前章と同じく新キャラ目線で物語スタートです。
「――ん~んぅ~……?」
ボクはふと心地良い眠りから目を醒ました。
その拍子に大きな欠伸と大きな伸びをしつつ、ふと斜め上を見つめる。
「むにゃむにゃ、ディーネ……?」
寝起きで意識がハッキリとしない最中でも口から出た一人の少女の名。その人物ことディーネは、ボク達にとってかけがえのない同志の一人であった。ではどうしてその内の一人の名がポッと口から出たのか? その理由は、僕が感じた違和感の方向とディーネが現在根城としている――確か【蒼き都】なんちゃらだったか――場所とが一致していたからである。
「なんか変な感じ……。いつの間にか”マナ”の流れが穏やかになってる……。もしかしてディーネの身の周りで何かが起きたのかな……? でもそんなことどうでもいいや。あくまでボクには関係ないことだしぃ……」
友達とは言え、あくまでボク達は互いに干渉し合わないことを一つのルールとして定めている。ディーネにはディーネなりの、ボクにはボクなりの、そして残り二人には二人なりの流儀がある。その領域を犯さないのも、人間なりの気遣いだと最近知ったばかりである。それに……
「ふわぁ~! そんなことよりも断然眠いからもう一回寝よぉ~……」
ボクは友人の周囲の変化よりも眠気を取った。それだけボクにとって”眠る”という行為は何よりも優先すべき行動なのである。
特に疲労が溜まっている訳でもなく、またつい数秒前に起きたばかりだというのに今一度ベッドの上で横になったボクは、瞬く間に夢の中の世界へと埋没するのだった。
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「――なんてことを許すとお思いですか、姫? そんなに寝てばかりでは身体が凝り固まってしまいますよ? 最終的にそれを解すこちらの身にもなって下さいませんか?」
「痛ッ!?」
せっかく心地良い感じで二度寝をかまそうと思ったのに、それを誰かからによる脳天チョップで阻止されてしまった。
その犯人は他でもないボクの召使いの少女――アイ。彼女は人間が言うところの家事使用人が着服している白と黒を基調とした衣服をキッチリと身に付けており、正にメイドのお手本のような人物であった。
ボクはベッドから起き上がりつつ、痺れを起こすおでこを擦る。
「もぉ! 出鼻を挫かないでよ、アイ~! せっかくいい夢見られそうだったのにぃ……」
「姫にとっての睡眠が生き甲斐そのものであることについては存じ上げておりますが、それにしても度が過ぎておりますよ? もう少しご自身の身分について自覚を持ってください」
「えぇ~……。それについて全然興味がないことはアイが一番良く知ってるじゃん……。本人が嫌がることを強要しちゃいけないんだよぉ……?」
「そんなこと知りません。姫にとっては残念な事実なのかもしれませんが、特別で異質な力を持つことに関してはそれ相応の覚悟が必要となるのです。せっかく類稀なる性質をお持ちなのですから、もっと胸を張って下さい」
「好きでこんな身体になったんじゃないんだけどな……。全く……こんな大変なことを押し付けるなら事前に伝えて欲しかったよぉ……」
自分で言うのはアレだが、ボクは相当の面倒臭がりだ。
極論を言えば運動や食事は勿論のこと、息をするのさえ億劫に感じることもある。だからといって気軽に命を絶ちたいとは思ったことは無い。あくまでボクは、起伏がある日常に嫌気が差しているだけである。そういうこともあり、詰まる所ボクは睡眠――つまり何もしなくても済む行為が大好きなのである。
(一度寝てしまえば、ボクはボクのことで悩んだり考えたりしなくていい。その時間だけが唯一安らぎを得られるんだ。それを知らないアイじゃないのに、ホント意地悪だなぁ……)
どこか不機嫌そうにアイのことを見つめるが、彼女はボクの不満については百も承知だと言わんばかりにこう告げた。
「ともかく、そんなまるで出無精みたいな姫を<彼女>に前にさらけ出すことは断じて許しません。<彼女>はもう既に動き始めております。距離的に<彼女>の次の狙いがここである可能性は高いですから、構えておくのも一興かと」
「えぇ~、やだ~。こんなボクなんて放っておいてくれればいいのにぃ~……」
「<彼女>にとってはそうは言ってられないでしょう。<彼女>も<彼女>で必死なのですよ」
「ウソ~、勘弁してよ~……。じゃあ、やっぱりボクが感じた違和感に間違いはなかったってことじゃん~……。もぉ、ディーネってば簡単にほだされちゃってからにぃ~!」
でも仕方ないか。あのディーネだし。
それよりも、<彼女>はその二つ名に恥じぬ<悪魔の子>であるというのなら、きっとボクの安息を汚す者に違いあるまい。そういうことならちょっと本気を出そうかな。
「アイ、そういうことならあの小槌を引っ張り出しておいて。このボク――<眠り姫>たるノムゥの安寧を妨げる者に鉄槌を下さないといけないみたいだからさ……ッ!」
ボクはそう呟いて、久方振りに大きく目を見開いたのだった。




