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<無魔力の忌み子>エメルダと主従契約関係.①

 ※主観はエメルダ視点に戻ります。


 またこの話にて、<水の大精霊>編は終了となります。ここまでの読了、ありがとうございました。時間がかかるかもしれませんが、次章でまたお会いしましょう。

 『()()()


 これから雌雄(しゆう)を決しなければならない相手――<海神(かいしん)>ポセイン様の口から突然そんな言葉が(ささや)かれたものですから、(わたくし)め含め、その場にいたアメルダ先生(師匠)とディーネも思わぬ事態に目を(しばた)かせておりました。


(合格、ということですから、何かしらの試験を課せられていたのでしょうか? 一体どんな、そして一体いつからそのような話に?)


 そんな疑問に(さいな)われる私め達に対し、ポセイン様は納得がいかないといった具合に小首を傾げます。


「何だい何だい? せっかくこのアタイからのお墨付きだっていうのに嬉しくねぇのかよ?」

「待て待て、全く状況が掴めぬのじゃが? これから(わらわ)達は其方と死闘を繰り広げる流れじゃなかったのかえ?」

「そうだし、そうだし! ウチも俄然(がぜん)やる気になってたんだから、その威勢を削ぐようなことしないで欲しいし!」

「死闘~? 威勢~? 面白れぇこと言うなぁ、お前さん()。その気持ちをポッキリ折っちまう形で悪いが、アタイは元々最初から戦う気なんて微塵(みじん)も無かったのだが?」

「どういうことじゃ? つまり、こうして対峙すること自体が茶番だったなんて言わぬじゃろうな?」

「それ以外にどう表現すりゃいい? ()()()()()()()()()程、冷めちまうお遊びはねぇってモンさ」

「「は?」」


 ポセイン様の挑発じみた一言に先生(師匠)とディーネは目尻(めじり)を釣り上げます。

 その態度がとても愉快だったのか、ポセインは豪快に高笑いを上げます。


「そりゃそうだろ? まさか本気で勝つ気でいたのかよ? <大魔女>も<水の大精霊>もそりゃスゲー力を持ってるんだろうが、どっちもまだまだ未熟だ。到底神には(かな)いっこないっての」

「やってみなければ――」

「わかるからこそ、わざわざアタイの口から休戦要請を提言してやったんじゃねぇか。それにアタイはどちらかという荒事は苦手でな。気乗りしないことはやんない主義なんだよ、アタイは」

「じゃあ今までの悪行の数々の理由はなんだし!? エメっちとアマっちを危険に(さら)したことだけは絶対に許せないし!」

「まぁそう慌てんなって。これには深~い事情があったんだよ」


 ディーネの怒りはもっともです。

 ですが、ポセイン様にはその辺も含めての思惑(おもわく)があったようです。


「アタイはよ、最初からお前さん達の覚悟――<無魔力の()み子>がもたらす世界の厄災に立ち向かう気概(きがい)を問うために暗躍してたんだ。つまりアタイは、お前さん()を試してたってこったな」

「だからこその『合格』という発言ですか?」

「あぁ。<無魔力の忌み子>と<大魔女>と<水の大精霊>の本気の目に感銘(かんめい)を受けたからな、アタイの方からはもう意地悪はせんよ」

「ちなみにその要因は、つい先程尋ねられた問いに対する答えに納得したからでしょうか?」

「その通り!」


 ポセイン様は嬉しそうに指を鳴らします。


「と言っても、実はもっと以前からアタイの結論は決まり切ってたんだがね。ぶっちゃけた話、そこのエメルダの嬢ちゃんがディーネの隣に立ってアタイに立ち向かおうとした段階で、こっちの戦意は消失してたんだな、これが」

「! そんな些細(ささい)なことで良かったのですか!?」

「そんな些細なことで充分なのさ。だがそんな小さなことでもエメルダ、お前さんにとっちゃ大きな大きな一歩に違いねぇ。よくもまぁ、その意思をアメルダ抜きで導き出したもんだ。まるで誰かの後押しがあったみてぇに力強い言葉だったぜ?」

「あ~、えっと~……実はそうじゃないのですが、話がややこしくなるのでそういうことにしておいてください」


 例え神であるポセイン様であっても、自称<空虚で何者でも無い存在>こと<ヴォイド・ノーバディー>さんについては伏せておくことにします。


(それでも、あの言葉は決して<ヴォイド・ノーバディー>さんに強制された物では御座いません。ディーネの隣に立ち、自分の運命に抗い、立ち向かうと決めたのは私自身の感情に他ならないと自負しております。少しズルいですが、全て私めの功績(こうせき)にしてしまいましょうか)


 私めがポセイン様のお褒めの言葉を真摯に受け止めていると、アメルダ先生(師匠)の顔色がどうにも優れていないことに気が付きました。


「そりゃ何とも溜飲(りゅういん)が下がらぬの。其方はエメルダの命を奪うことに本気であったじゃろ? じゃが、最初からこういう結果になるのなら元よりそんな剣呑(けんのん)な話をするでないわ」

「いや、<無魔力の忌み子>の返答次第じゃそういう結末も十分に有り得たさ。もしエメルダがしょうもねぇこと――例えば『自分が死んで全てが丸く収まるならそうする』とか、『<大魔女>や<水の大精霊>の後ろに隠れてビクビク生き続ける』とか、『自分独りだけで頑張る』とかほざいたら、今頃首と胴体はバイバイしてただろうね」

「しれっと末恐ろしいこと言うでないわ!? しかし、だからこそ()せん。<無魔力の忌み子>であるエメルダを消す意欲も力もある其方が簡単に手を引いたことが。何か裏があるのではないかえ?」


 そう言って先生(師匠)は杖の先をポセイン様に向け、いつでも対抗出来るように構えを取ります。

 ですがそれでも、ポセイン様は一歩も退(しりぞ)く気配を見せませんでした。


「確かに<無魔力の忌み子>が世界にとって脅威、そして生かすことが相当の危険行為であることについては違いあるまい。こうしてる間にも世界各国では”マナ”の乱れは続いてる。だからこそ今ここでエメルダを消し飛ばせば、世界が抱える(うれ)いのほとんども一緒に無くなるだろうね」

「それを理解した上で放置か?」

「放置じゃねぇよ。そこの嬢ちゃんは<無魔力の忌み子>ではあるが、同時に一人の人間でもある。なら神としてその人間の意思は尊重してやんなきゃ筋は通らんだろ? という訳で、現状アタイは傍観(ぼうかん)を決め込むとするよ。ってか、アタイの手を(わずら)わさなきゃ何したって構いやしないさ。良い方に世界をひっくり返してくれりゃいいから、精々頑張んな!」


 それこそ放置なのではないでしょうか……と思いつつも、私めはポセイン様に対し苦言を挟みます。


「その進む先が凶と出る吉と出るかは定かではありませんよ? それでもよろしいのですか?」

「もしや悪い方向に導くのか? 違うだろ? ……それにお前さんには頼もしい仲間がいる。そいつ()が隣に居りゃ、無限の可能性を引き出せるんじゃないのかい? だろ、お二人さん?」

「「当然じゃ(だし)!」」


 先生(師匠)とディーネが図らずとも同時に放った返答にポセイン様は満面の笑みを浮かべます。


「いい返事だ。ならお前さん達の未来に幸あれってことで、この<海神>ポセイン様が特別に仲人(なこうど)として<無魔力の忌み子>エメルダと<水の大精霊>ディーネの”主従契約関係”を認めてやるよ!」




 ●




「”主従契約関係”!?」


 ポセイン様が突然口にした単語に、私めは声を張り上げます。


(”主従契約関係”というのは確か、アメルダ先生(師匠)の元愛用の杖である<黒樺(くろかば)の杖>に封じられていた深淵(ダークネス)が私めと結ぼうとした(ちぎ)りのことでしたっけ?)


 とは言え、その契約をした場合にどうなるかまでは知りません。良い機会ですからポセイン様に尋ねてみると、講義風に答えて下さいました。


「世界にはな、<四大精霊>のように直接的な人間の姿を形どるとまでは行かなくとも、”マナ”の集合体である言わば<精霊>っていう存在はたくさんいんだわ。”魔術師”って呼ばれる者達の中には、その<精霊>の力を借りてより強力な”魔術”を用いる者も少なくはない。だろ、<大魔女>?」

「勝手に妾も一括(ひとくく)りにするでない。確かにそういう場合もあるが、妾は誰とも”主従契約関係”は結んでおらぬ。それなりに面倒じゃったりリスクもあるからな。……互いの同意に()るものとは言うが、()()()の関係に過ぎぬこともままあるぞ? それをエメルダとディーネに打診(だしん)する其方の気が知れぬわ」

「そりゃ悪いことばかりを考えすぎだ。機能的には<精霊>と変わらないディーネとの”主従契約関係”はエメルダにとって有効に働く筈だぜ? 確かに現段階じゃただの仲良し小好(こよ)しの関係でしかねぇが、エメルダははっきりとその交わりを深めると言った。なら今はその言葉に期待を寄せようじゃないか」

「……本当にエメルダが契約を結ぶべきかの? 間接的に妾が結ぶのも一つの手じゃよ?」

「それだとエメルダのためにならんだろ? 今はまだその時じゃねぇが、いずれディーネの力がエメルダにとって必要になる時が来るだろうからな。これから起こり得る事態は<無魔力の忌み子>自身がどうにかすべきこと。なら<無魔力の忌み子>が主体で動くべきだ。<大魔女>と<四大精霊>がその支援に回るからこそアタイはエメルダに手を加えないってことをゆめゆめ忘れんなよ? ってな訳で、そういう話の流れで構わないかい、お二人さん?」


 その問いを受けディーネと目を合わせた私めは、彼女と一緒に大きく頷きを返します。


「おっし! じゃあ二人共、左手で握手しろ。その暁として”主従契約関係”を結んだ証を贈呈してやろう」


 ポセイン様に言われるがままディーネと手を重ねるのと、その周囲に光が放たれます。

 そして輝き続けた光が消え去ると、いつの間に左手の親指に指輪がはめられていました。

 この現象に驚きを隠せなかった私めは、まじまじとその指輪を観察し始めます。


「それにしても綺麗な(あお)色の指輪です……が、見た所四分の一部分しか色が付いていませんね? もしかして残り三か所は……?」

「ご名答。残り三人の<四大精霊>との契約を果たし、その指輪――<集いし四霊力の指輪フォース・オブ・ザ・リング>を完成させな!」

「――必ずや、私めの使命を全うさせて頂きます。どうかご期待下さいませ!」


 凛とした声でこう答えると、アメルダ先生(師匠)はふと目を(つむ)ります。


「むぅっ! そういえばずっと天気が悪かったの。エメルダの言葉と同タイミングとは正に()()みたいじゃ」


 そんな先生(師匠)に釣られ真上を見上げると、今までずっと曇天だった【シールス】の空に切れ目が生じており、そこから輝かしいばかりの太陽が顔を出していたのでした。

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