<無魔力の忌み子>と<水の大精霊>
先程まで話していた<ヴォイド・ノーバディー>さんと入れ替わる形で海から出てきたディーネ……さん。
とても慌てた様子で私を見つけるや否や、顔色を歪ませてこちらの肩を力強く掴んできました。
「エメっち、ごめんだし! エメっちのお姉ちゃんのこと助けられなかったし……」
「! やはり先生が私めを海中から掬い上げて下さったのですね! もしやディーネさんは先生がどうなったかをご存じなのですか?」
「うん……。ウチ自身も何がどうなったのかは全然わかんないけど、理解出来る範囲で状況を説明するし」
ディーネ……さんは、私めが謎の掌に攫われた後の話をして下さいます。
どうやらあの後、先生とディーネ……さんは私めを救うため、一度別行動を取ったそうです。
そして何やら秘策がある感じで浜辺に残った先生が突然、まるで私めと位置を入れ替わる形で海の上に瞬間移動したというのです。
(まさか先生にそんな力があろうとは……。恐らく数km離れてたと思ってましたが、その距離を一気に縮めてしまうなんて本当に<大魔女>様は凄いです……)
ですが、その”魔術”で力尽きてしまったのか、ディーネ……さんに私めの保護を頼み、先生は海へと沈んでいったのだとか……。
「では先生は今……?」
「うん……今やウチの感知すら届かない遠い場所に沈んじゃったし……。けれど微かに”まりょく”の残滓は感じ取れるから死んではないと思うけど……」
そう説明をするディーネ……さんは終始苦々しいお顔をしておりました。
「ごめん、エメっち……。ウチが未熟なばっかりに、エメっちの大事な人を助けられなかったし……」
ディーネ……さんは私め以上に悔しそうな顔をして、地団駄を踏みます。
「どうして! どうして……だしッ! なんでこんな大事な時に限って、にんげんの助けになれないし!? ……じゃあこんな誰の役に立てないウチは何のために生きていけばいいし……ッ!」
「ディーネ……さん……」
理由は定かではありませんが、今のディーネ……さんは明らかに自我を保てていないご様子でした。
そしてとうとう感極まってしまったのか、その場で膝をついてしまいます。
そんな彼女を不憫に思った私めも腰を落とし、ディーネ……さん――いや、ディーネと視線を合わせます。
「ディーネ、心配しないで? 先生はまだ生きてるんでしょ? あの人はそんなやわじゃない。でも助けが必要なのは確かなの。私め一人じゃこの海を渡れない。だからどうか力を貸して!」
私めの強い想いを受け取ったディーネだったけど、彼女はバツが悪そうに首を横に振るだけでした。
「……エメっちには悪いけど、ウチにその資格は無いし。エメっちのお姉ちゃんを危険に晒したのはウチのせいなんだし……」
「ディーネは何も悪くないよ。さっき先生とは別行動で私めを救うために動いてくれたって言ってたでしょ?」
「ううん、ウチがもっと上手くやれてたらそもそもエメっちのお姉ちゃんの出る幕すら無かったし。だからこの事態はウチが招いたとも言えなくもないし……」
「そんな自分を責めないで。あの海で無事でいる方が大変だと思うよ? だからディーネだけでも戻ってきてよかった」
下手をするとミイラ取りがミイラになる可能性もあったわけで、私めのせいでディーネも犠牲になってたかもしれないと思うと、気が気でなくて仕方がありませんでした。
そんな私めの安堵感を知らないディーネは手で顔を覆ってしまいます。
「あぁ~! こんな全ての元凶たるウチが生き残ったってどうしようもないし。元はと言えば、ウチさえいなければ【シールス】に異常気象をもたらすこともなかったし!」
『なんと大袈裟な……』と冷や汗を流さざるを得ない私めに、ディーネは焦燥感たっぷりの顔をしておりました。
「ねぇ、エメっち。今起きてる【シールス】の問題はどうして起きたと思ってるし?」
「? それは単なる自然現象ではないの? 先生は少々警戒しておりましたが、こんなことは広い世界では日常茶飯事なんじゃないかと思うんだけど?」
「アハハ、世界広しと言えど、ここまで大事にはならないし。こういう場合は大体人為的な所業だって相場が決まってるし」
「その言い方……まさかこの一連の出来事はディーネが?」
この時ばかりはそうあって欲しくなくないと切に願いましたが、残念ながらその願望は叶いませんでした。
「アレもコレも全部ウチのせいだし。ウチがあの銃に見定められた瞬間から何もかも全部おかしくなったし」
ディーネはそう呟きつつ、両手に一丁の長い銃を顕現させます。
その銃の見た目は蒼色の綺麗な銃で、表面に水が流れているような眩い輝きがとても印象的でした。
しかし、気になるのはそれだけではありません。私めにとって気掛かりだったのは――
(何ですか、この目の前にしたものを全て飲み込まんとする威圧感はッ……!? まるでアメルダ先生の元愛用の杖であった<黒樺の杖>を彷彿とさせます。そんな銃をどうしてディーネが?)
「この銃が何だか凄いことはエメっちにもわかるみたいだね。そう。これこそ、ここ【シールス】の秘宝たる……」
ディーネは一度落ち着いて呼吸を整えると、どうにも釈然としない態度でこう言いました。
「<海神>ポセインって言うカミサマが使ってた<神具>”トライデンタル”ってヤツなんじゃね?」
ディーネの何ともはっきりとした発言に私めは首を曲げます。
「どうにもハッキリとしないね? 普通の銃ではないことは何となく察せられるけど、あくまで【シールス】の<海神>ポセイン像が持っていた<神具>”トライデンタル”は模造品でしかないでしょ?」
「いや、それは違うし。正確には、真の遣い手の前以外では銃自体が偽物に擬態してたんだし」
「擬態? じゃあその真の遣い手であるディーネの前では<神具>”トライデンタル”が本来の姿を示したってこと?」
「うん。信じられないと思うけど、<神具>”トライデンタル”は信じられないくらいウチの”まな”と同調してるし。まるでウチの――いや、銃のためにウチが生まれたんだと思い知らされるレベルだし」
「銃のために生まれた? そんなことは……」
何とも信じ難い話を切り出すディーネに難色を示しますが、彼女は首を横に振ります。
「ううん、あるし。実はウチ、こう見えて生まれた時の記憶がないし。そんなウチがかろうじて覚えている一番最初の記憶は、この銃を持ってポツンと海の真ん中に放り出された時の光景だったし」
「記憶が無い? いつの間にか<神具>”トライデンタル”を持っていた? もしかして、今【シールス】を賑わす<神具>泥棒ってディーネのこと?」
「アハハ……ウチにそんな悪行をする程の勇気は無いし……。記憶が無い事、何の前触れも無く手元に握られていた強大な力を秘めた銃、そして妙にウチに合った”まな”を持った”トライデンタル”。そこから導き出せる答えは一つしかないし」
「………」
なんだかこの先の話は耳を塞ぎたくなりますが、ディーネの本音を無視してはいけないと心が叫びます。
私めは唾を飲み、ディーネの言葉を待ちます。
「何せウチは<神具>から放たれる”まな”を元に身体が構築されたんだし」
「!? ”マナ”が身体を作った!? それではまるで……」
思わずドキンと心臓を震わせる私めに、ディーネは澄んだ目でこう応えました。
「エメっちのご想像通り、ウチはにんげん達が言う所の<水の大精霊>って呼ばれる人成らざるバケモノの内の一人なんだし」




