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<大魔女>と<黒樺の杖>

 今や二本に分かたれた<黒樺(くろかば)の杖>を前にした<杖技師>クリエルは、状況を整理すべくゆっくりと口を開く。


「まず杖の性能についておさらいしやしょうか。この杖は使用者に強大な魔力を与えやす。それも二年前【コミティア】に堕ちた隕石群を()ぎ払ったくらいに。……まぁ、<黒樺の杖>の現遣い手を前にして、その能力についてことさらに説明する必要はないでしょう。<黒樺の杖>がただの魔力ブースター()()の存在でないことは、<大魔女>殿が一番良く分かっているのでは?」

「確かにの……」


 クリエルの問いに妾は神妙な顔を返す。


「……<黒樺の杖>の本質は、千年前世界を深淵で覆った諸悪の根源を封印している所にあるでの」


 『――遥か大昔、世は深淵が支配する光無き混沌だった』という書き出しと共に語られる史実。その時世界に起きていた出来事と<黒樺の杖>は深い関係性があるのじゃ。


「その当時の話は今や子供に読み聞かせる昔話……いや、正確にはその時闇を払うべくして戦った一人の剣士――頭に百獣の王たる獅子(ライオン)の被りモノをし、手には<陽光の剣>を握る<陽光の剣士>の武勇伝として語られることが多いが、その裏では()()()()、その剣士を支えた立役者がおるでの」

「左様でありんす。あっしと<大魔女>殿の一番最初の前任者に当たる初代<杖技師>クリエルと初代<黒樺の杖>の用い手でありんすね」


 クリエルの言葉通り、最悪の暗黒期と呼ばれていた現実に抗った英雄は<陽光の剣士>だけではなかった。

 今でも歴史上最強の剣士と名高い初代<陽光の剣士>であっても、流石にたった独り(孤軍奮闘)で戦うにはちょいと無理があった。かの者は剣術のプロフェッショナルであったが、”魔術”の分野には全く精通していなかったと聞く(まるで今のサンディみたいじゃの)。だからこそ初代<陽光の剣士>は、自身が出来ぬことを初代<杖技師>クリエルと初代<黒樺の杖>の用い手に任せたのじゃ。


「ですが、それは<陽光の剣士>にとって苦肉の策当然でした。何せ敵自体を打ち滅ぼすことは叶わず、封印以外の手立てがないと諦めた上での判断だったのですから」

「じゃが賢明ではあった。最適案とは言わずとも、悪意の権化を封じ込めることに成功したのじゃからな」


 その時、杖に閉じ込めた存在こそ『<黒樺の杖>に封じ込められている怨念(おんねん)的何か』の真の正体であった。

 ちなみにこの事実はあまり語られぬ所か、逆に()()されておる。

 ついさっき、千年前の出来事は御伽噺(おとぎばなし)になっていると説明はしたが、その中での話の終着点は真実とは全く異なるのじゃ。


「実際起きていたことだとは言え、遙か前の事象を良いことに歪曲され過ぎておるでの。確か、初代<杖技師>クリエルと初代<黒樺の杖>の用い手など全く登場せぬまま、<陽光の剣士>が一人で世界を救ったことになっておるんじゃったか?」

「そうでありんすね。勿論そんなことはないことを当事者(後継者)であるあっしらは知っておりやすが、だからこそ世間のために本当のことを隠し通そうとした初代達の想いも頷けるってもんでさぁ」


 クリエルは妙に納得した仕草で首を縦に振る。

 では何故、歴史は改ざんされることとなったのか? その答えは<黒樺の杖>に閉じ込めた<()()>の存在を(おおやけ)にしないためであった。


「あっし自身、親方(先代)から又聞きをしただけで詳しいことは存じ上げやせん。本当にかの<大魔女>ですら、杖の中で(うごめ)いていた<何か>を感知出来ずにいたんですかい?」

「恥ずかしいことにの。じゃが、はっきり()()()()()()ことだけはヒシヒシと感じ取れたでの。その<何か>は確かに<黒樺の杖>の中で息を潜めており、復活の時を常に見計らっておった。それも杖の所有者である妾の寝首をかいてでも……という殺気を見境なく剥き出しにしていたくらいにの」

「そうでありんすか。つまり<何か>の魔の手は完全に消えておらず、下手をすれば千年前の暗黒期が再来する可能性もあると……。それなら尚更(なおさら)、『実は倒したと思っていた敵は倒されておらず、この先また生き返るかもしれない』なんて口が割けても言えやせんね」

「あぁ、そんなこと言おうもんなら世界は永遠に恐怖に怯えなければならなかったからの。じゃからこそ、<何か>を封印した過程――つまり初代<杖技師>クリエルと初代<黒樺の杖>の用い手の活躍は()えて無かったことになったのじゃな」


 このことはある意味で優しい嘘なのかもしれぬ。事実、その嘘のお陰で多くの者に平和と安息を与えたのだからな。


(じゃが、仮初めのその平和を妾は……)


「クリエル、今回の失態は完全に妾の落ち度じゃ。妾がちゃんと<何か>に目を背けず、毅然(きぜん)と立ち向かっておれば、<何か>を世に放つこともなかったであろう。そのせいで再び世界に闇が覆ったとあれば、妾はどう償えば……」

「……まぁ、そうでありんすね。<黒樺の杖>に抑え込まれた<何か>の力をガス抜きする一環として定期メンテナンスを勧めておりやしたが、見事にそれを全部すっぽかしやしたよね? ならこの結果になっても仕方ないのでは?」

「ぐぬ……」


 そう申し訳なさそうに顔を伏せると、クリエルは、


「ですが」


 一言否定の言葉を挟む。


「その処置をした所で何になるって言うんですかい? あっしらがすべきなのはちゃちな延命措置ではなく、徹底的な解決でありんす。どうせ<杖>の邪気をいくら取り払おうが、遅かれ早かれ<何か>が解放されていたことでしょう。ならあっしらがすべきことは一つ」


 クリエルはふと、凛とした堂々たる表情を見せる


「千年前果たせなかった屈辱を我々が晴らしやしょう」


 まるで盲目的な夢物語を語るクリエルに、妾は冷や汗を流す。


「……出来ると思うのかえ? 相手は目にも見えぬ脅威であるぞ?」

「そう悲観する必要はありやせんよ。現状は<大魔女>殿が思っているよりは好転しておりやすし。しかも二つの意味でね」

「? 二つとな?」


 そう率直な疑問を口にすると、クリエルは指を二本立てる。


「一つ目は、<大魔女>殿が健在のこと。先程、寝首をかかれる程の威圧があったと仰っておりやしたが、それは裏を返せばいつでも生殺与奪(せいさつよだつ)の権利をずっと握っていたということでは? もちろん<大魔女>殿が必死に抑え込んでいたのも存じておりやすが、結局手に余り<陽光の剣士>殿に預けることにしたのでしょ? そこまで圧が迫っていたということは、下手すりゃ<大魔女>殿の身体が乗っ取られていてもおかしくなかった……とあっしは予測しておりやす」

「もしやその可能性もあったやもしれぬの」

「そうなっていたら本当に手が付けられなかったでしょうから、そんな最悪の事態にならなくてホント良かったでありんす」

「……確かにそれは好機とも言えるの。して、二つ目は?」

「二つ目は、<陽光の剣士>が<何か>にキッチリとした傷跡を残せたことでありんす」

「む?」


 クリエルの言葉に思わず矛盾(むじゅん)を感じた。


「その言い方、まるでサンデ……いや、<陽光の剣士>が<何か>と直接接敵したかのような言い方じゃの。<陽光の剣士>本人からはそんな話一言も聞いておらぬが?」


 嘘か本当か定かではないが、<黒樺の杖>が壊れた当時の話をサンディに問い詰めた際、彼女ははっきりとした返答をしなかった。


(確かサンディは『()()()()()()()()の手に杖が渡ろうとした』と言っておったかの。その部分については間違いは無さそうだが、その正体がまさか<何か>とは言わぬじゃろうな?)


 妾の疑心を察したクリエルはゆっくりと首を縦に振る。


「残念ながら<黒樺の杖>の中に潜んでおった<何か>が<陽光の剣士>殿に襲い掛かったのは確定事項でさぁ」

「どうしてそこまではっきり言える? 其方には何か確信があるのかえ?」

「……その点についてはあまり公言したくはねぇのですが、太客(ふときゃく)中の太客である<大魔女>殿の信頼を損ねるのもアレですからお伝えしやすが、これでもあっし、()()からその杖の使用状況が推し量れるんでありんす」

「匂いじゃと?」

「えぇ、どうやらあっしは魔力の源たる”マナ”の匂いを察知できるみたいで、この特異体質については親方も珍しがっておりやした」


 彼女(いわ)く、それはただの性癖(せいへき)ではなく、杖の正確な状況を見極めた上で、適切な修理・制作をする<杖技師>において正に神スキルなのだという。


「なので、修繕の分野だけで言えば、親方……いえもっと言えば初代<杖技師>クリエルよりも優れているとのことです。あまり自覚はありませんが」

「それは凄い事ではないか。では、その匂いとやらで<黒樺の杖>の状態が事細やかに判るというのじゃな」

「はい。いつもなら直接鼻に当て全力で嗅覚を使う所ですが、そんなことをしなくてもいいくらい、今の<黒樺の杖>からはとてつもない()()が時間が経った今でもしております。そこから推測するに、<黒樺の杖>を奪った張本人は<大魔女>殿よりも遥か上の練度と殺意を(もっ)て”魔術”を行使した形跡を残していったと言っていいでしょう。だからこそ、<何か>の力を増長させる<黒樺の杖>を斬ったのはベストだと言えやす」

「じゃがそれでも、<何か>が抜け出たのは確かじゃろ?」

「えぇ、<陽光の剣士>殿が杖を折り<何か>の力を削いだことは確かですが、現状その行方を追える者は皆無。<何か>がまた力を取り戻す前に手を打たねばなりません。だからこそ、<何か>を滅ぼすか封印するかはともかくとして、杖の再構築が忙がれやす。ですが今現在、杖の材料はこの世に存在しておりません。なので一から原料を調達せねばなりませんからその協力を<大魔女>殿に頼んでも?」

「何でも言ってくれ。元はと言えば全ての原因は妾にあるからの」

「そうですかい、なら――」


 クリエルはふと真面目な面持ちをし、妾にこんな提案をしたのじゃ。


「この世の地獄と名高い【獄園(ごくえん)】に(おもむ)き、<黒樺の杖>の原料となる<黒樺の木>を<四大精霊>の力を借りることで成樹(せいじゅ)させて下せぇ」

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