深淵と<????>
一万文字と短いですが、今回の話で一旦の区切りとなります。
どちらかというとメインの話ではなく、繋ぎの章という位置づけでしたが、大きなターニングになっているのは確かです。今後の展開にご期待下さい。
また、章の締めということで、タイトル通りこの話は、散々話を引っ掻き回した深淵視点となっております。その点ご了承の上、お楽しみ下さい。
「ふふんふふ~ん♪」
あたしは陽気な口笛を鳴らしながら、ずんずんと大手を振って、どこかわかならい土地を歩いていた。
「じっゆう♪ じっゆう♪ あたしはじっゆう♪ や~ぁと、だれにも、じゃまされないっ!」
今のあたしは、とてつもなく陽気に楽しげに見えるだろう。……と言っても、普通の人間にはあたしの姿は愚か、そこにいる気配すら感じられないだろうけど。――一部の素質ある者達を除いて。
「それにしてもざんねんだったな~。うまくいけばいまごろ、<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんとたのしいせかいをつくってたはずだったのに~ッ!」
それもこれも全部<陽光の剣士>のおねぇちゃんがいなければ成立していた話だった。
「まさかまたしてもあたしのけいかくがそしされるなんて。もしかしてこれがうんめいのいとってやつ? やだな~、それだったら<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんとだけつながってたかったよ~」
けれど、そう愚痴をこぼした所で現状を打破する力はない。
長年、<大魔女>と呼ばれる女性から<黒樺の杖>を通じて力を吸われ|(それも無自覚の内に)、今じゃほとんどの能力は発揮できないでいる。
かろうじて身体になじむ<黒樺の杖>を使えばどうにか……となっていた矢先、その杖も<陽光の剣士>による一刀両断でお釈迦に。最終手段として蓄えていた魔力も、<陽光の剣士>から逃亡する時に浪費してしまい、今じゃガス欠状態だ。
「はやいところ、うしなったまりょくをかいふくさせないとな~。どっかにてごろなごはんあってよ~」
実際にお腹が鳴ることはないが、空腹感には苛まれる。このままエネルギー補給がままならなければ、いずれ歩けなくなるだろう。
あたしは神経を研ぎ澄ませ、魔力の匂いを辿る。すると――
「んん~? むこうのほうからよんしゅるいのまりょくのにおいがするぞ~? それにのうど、しつ、ともにじょうしつだぁ~。まさかこんなじょうだまにありつけるなんて、すっごくらっき~♪」
あたしは嬉々とした表情で、その魔力が感じられた場所へ駆け込む。
匂いの感覚通り、そこには四人の女の人がいた。
そこへ近付くあたしは、涎をじゅるりと流す。
(どうせあたしのこえとすがたはさとされないし、ごうかいにいこ~と!)
「いっただきま~す!」
そして、一番近くにいた日焼け跡をくっきり残している女性に齧り付いた……ものはよかったものの、
「べぇ~! なんでくちのなかが、おみずでいっぱいになってんの!?」
何故かわからないが、何かを食べるというより飲んだという感覚に陥り、思わず驚愕とした。
もしかしてこのおねぇちゃん、普通の人間じゃない?
「じゃ、じゃあこっちのおねぇちゃんは!」
今度はどこか眠そうにウトウトとしている女性に突撃する。
「ぐぇ~! つぎはじょりじょりして、つちたべちゃったみたい~!」
二回連続でこんな不愉快な気持ちになることがあるのだろうか?
「さ、さんどめのしょうじき~」
あたしは続けて、喉の調子を整えるように発声練習|(でも全然聞くに堪えない。ぶっちゃけた話、相当音痴だ)をしている女性に飛び付く。
「ふわぁ! さっきのふたりよりはぜんぜんましだけど、まったくおなかがみたされない! くうきじゃん、これ!」
二度あることは三度ある、なんて言葉は本当に存在するらしい。
「で、でもさ! のこりものにはふくがあるってことばもあるよね! おわりよければすべてよし、だよっ!」
あたしは最後の大一番として、四人の中で一番目線が鋭く、そして誰も寄せ付けないような強者のオーラを漂わせる女性に全ての命運をかける。だが、例によって例の如く……
「あっつ! あつつつつ! これほのお!? それにふつうのかんじがしない! このねつりょう、もしかして……ッ!」
間違いない。今口の中に広がる炎の感触は、あたしの故郷である【獄園】由来の物に違いあるまい。まさかこんな形で同郷の者と鉢合わせすることになるとは。
恐らく四人の中でこのおねぇちゃんが一番ヤバい。そう思い、一歩後退した時であった。
「……おい、そこに誰かいるのか?」
「!?」
わざわざ説明されなくても、この言葉はあたしに向けられたものだろう。
炎の味がしたおねぇちゃんの言葉に、水の味がしたおねぇちゃんが反応を示す。
「ちょっとちょっと! どしたし? もしかして、幽霊とか視えちゃってる系?」
その後続けて、土の味がしたおねぇちゃんと、風の味がしたおねぇちゃんも言葉を挟む。
「ん~、むにゃむにゃ。そんなことないと思うけどなぁ……」
「何言って゛る゛ん゛た゛か゛? そ゛ん゛な゛気配無い゛け゛と゛?」
三者三様に否定された炎の味がしたおねぇちゃんは溜息を漏らす。
「……ならいいのだけどな」
そう納得しても、何故かあたしから視線を外さない炎の味がしたおねぇちゃん。
その行動に恐怖を覚えたあたしは、
「こりゃ、いまのままじゃどうしようもないかも……」
こんな呟きを残しつつ、ゆっくりとその場を後にするのだった。




