異端審問
深淵との邂逅。
<大賢者>様から聞かされた金貨百枚分の借金の話。
そして、その負債を補填するために持ち出されたサンディ様の提案。
そんな濃密な出来事が重なりましたので、本来の目的が薄れ気味になっておりました。
私めは元々、世界の首都――【神都】へ向かい、世界に災いをもたらす<無魔力の忌み子>として異端審問を受ける予定だったのです。
なので、【神都】の大宮殿と呼ばれる場所に連れられた私めは今――
「――これより<無魔力の忌み子>に対する尋問を行う。くれぐれも質問には素直に応えることだな。さもなくばわかっているであろう?」
「はい……」
ここより高い場所に座る数人の大人達から見下されておりました。
その脇には<大賢者>様とサンディ様|(自身の正体を隠すように、<陽光の剣士>の象徴である獅子の被り物をしております)がいらっしゃいます。
そんな状況の中、中央に座る男性が物々しい声を投げかけます。
「……まずは自分が犯した罪をちゃんと意識しているか?」
罪、というのは勿論、【コミティア】に隕石を降らせたあの大事故のことでしょう。
その件については嫌と言う程骨身に沁みております。なので、ゆっくりと首肯を返しました。
「よろしい。その問題の処遇についてだが、前々から通達しているように、意図的ではなく不可抗力で起こった事象であると共に、運良く死者が出なかったことから、すぐさま重罪を負わせることはしなかった。その代わりに猶予期間を与え、君の動向を静観することにした。つまり、【コミティア】の再建にどれだけ尽力したかを判断させて貰った。その決を取ったのが<陽光の剣士>の部下であるサンディ率いる視察団であったのだが、首尾は如何程であったか?」
そう言いつつ、男性は<陽光の剣士>様の方を向きます。
彼女は、まるで他人かのように、サンディ様のことを語り出します。
「わざわざ上官であるワタシから話を聞かなくても、サンディから事前に報告書は提出されてたでしょ?」
「【コミティア】に赴く前に出された書面に何の説得力がある? 一切の調査無しで書かれた調査書等、前代未聞であるぞ? 貴女の部下はどうかしている」
いつの間にか非難された<陽光の剣士>様は、全然気持ちが入っていない謝罪をします。
「ごめんなさいね。あの娘、過度の面倒臭がりなのよ。でも、結果オーライじゃない? 結局【コミティア】の復興具合は想像の遥か上を行ってたみたいだったしね。……と言うかそもそも、アンタ達にサンディのことは悪く言う資格がある? アメルダと無意味ないざこざを起こさぬよう、旧知の仲である彼女を有無も言わさず派遣させたのはどこの誰だったかしら?」
「…………」
<陽光の剣士>様の反論が強く響いたのか、それ以降サンディ様に対する苦言は止まりました。
その代わりに、男性の矛先は再びこちらへ向きます。
「確かに、君の【コミティア】への働きかけは素直に評価すべきだろう。がしかし、それで君の存在全てが許された訳ではない。中には――当然私も含まれるが――例えどれだけ幼い少女であろうと、<無魔力の忌み子>が世に現存していることを良しと考えない者は多い。出来ることなら、今直ぐにでも処分したい所なのだが……」
男性がそう言いかけた刹那、
「そんなこと許さないぞ?」
「そんなこと許さないわ~」
と、サンディ様と<大賢者>様が口を挟みます。
「……とこんな具合に、君に対する処罰を反対する者が<大魔女>アメルダを含め三人おる。流石にこの三人からのひんしゅくを買ってまで、強行手段には出られん。だからといって、無害放免というのもそれはそれで問題だ。そんな君の処遇を考えあぐねていた時である。なんと君のせいで【コミティア】に……」
「あ~、残念だけどその話はもうバレてるわよ~」
「!?」
<大賢者>様の横槍に、男性はギョッとした顔を見せます。
「何故それが知られている!? 最重要機密事項であった筈だぞ!?」
「そんなもの関係ないわ~。だから、一々ドヤ顔で重大発表しなくて結構よ~」
「ぐっ! <陽光の剣士>といい<大賢者>といい、何故我々の神経を逆撫でするような真似をする!?」
そんな風に激昂する男性へ、<陽光の剣士>様と<大賢者>様はボソリと呟きます。
「そりゃアンタ達が嫌いだからな」
「そりゃあなた達が嫌いだからね~」
その言葉が男性の耳に届いたかは定かではありませんが、彼は自暴自棄気味に私めを指差します。
「知っているのなら、単刀直入に聞こうではないか! <無魔力の忌み子>、お前のせいで【コミティア】に多大な負債が発生した! この落とし前どう付ける?」
どうやら、ついにあのことを伝える時が来たようです。
私めはサンディ様との事前の打ち合わせ通り、こう申しました。
「――<四大精霊>と契約を結ばせて戴きます」
「「「…………」」」
その瞬間、この場にいた全員が固まり、数秒後嘲笑に満ち溢れた小汚い笑いがドッと湧き立つのでした。




