<大賢者>
――魔力や魔術、魔法といった超常現象が今や当たり前となったこの世界で私めは<忌み子>として人々から忌み嫌われておりました。
なにせ私めはそんな世界において決して数は多くない魔力を宿さぬ<無魔力>の異端児なのでございますから。
そんな私めが<流星の街>【コミティア】に隕石を落としてしまった大惨事から約二年の月日が経過しました。
少しずつではありますが、元の姿を取り戻してきた【コミティア】の復興具合を視察すべく、世界の首都――【神都】からサンディ様と呼ばれる女性がやって来ました。
どうやらその女性は、私めの保護者兼先生である<大魔女>アメルダ様と昔からの知り合いらしく、また<黒樺の杖>の封印を施した人物でもありました。
サンディ様は、自分の管理外で杖を持ち去ったアメルダ先生を咎めるのと同時に、<無魔力の忌み子>である私めの連行のために【コミティア】を訪れたのです。
しかし、そんな剣呑な雰囲気を醸し出していたサンディ様でしたが、その性格は太陽の如く暖かく、先生にも私めにも穏便な態度を貫き(先生には少々当たりが強い部分がありましたが……)、まるで優しいお姉さんみたく、私めを【コミティア】の外に連れ出して下さったのです。
……ですが、やはり私めはとことんトラブルを巻き込むらしく、【神都】へと向かう汽車の中で深淵と呼ばれる幼女――<黒樺の杖>に封印されていた人物が突如襲来。
<黒樺の杖>お得意の”次元魔術”を用いた深淵によって異空間に閉じ込められた私め達でしたが、サンディ様が<陽光の剣士>としての力を発揮し、<黒樺の杖>を一刀両断。
そのお陰で危機を脱しましたが、一難去ってまた一難。
一息つく間も無く、新たな問題が浮上したのでした――。
●
突如現れた<大賢者>と呼ばれる女性の一言に、私めとサンディ様はほぼ同タイミングで同じ言葉を吐き出します。
「「金貨百万枚分の借金!?」」
どうにも驚きを隠せぬ私め達の叫び声を<大賢者>様は制止なさります。
「ちょっとちょっと~、流石に声が大き過ぎるわ~。詳しい話をしたいから個室の中に入れてくれる~?」
どうするべきかサンディ様を見ると、彼女は首を縦に振ります。
「エメルダちゃん、招き入れちゃっていいわ。見た目やオーラは怪しさ満載だけど、最低限ワタシ達の敵じゃないから」
「かしこまりました」
そうして部屋の中に入ってきた<大賢者>様は顔と全身をフードで隠しており、サンディ様が仰っていた通りの風貌で御座いました。
そんな<大賢者>様は部屋に入るや否や、私めと握手を交わします。
「始めまして、<無魔力の忌み子>ちゃん~。会えて嬉しいわ~」
そのどうにも謎に満ちたお姿とは対照的に、<大賢者>様は子供の様にはしゃぎ声を張り上げます。
「ふむふむ~、そこの<陽光の剣士>とは違って、本当に一切の魔力が通ってないのね~! ”魔力”が無いことが身体の構造にどう影響するか、興味が尽きないわ~! 隅々まで解剖しちゃいたいくらい~!」
「ひぇ!?」
「おい、<大賢者>! エメルダちゃんに何かしてみろ? このワタシが許さないからね?」
「あらあら~、相変わらずの凄みだけども、女の子に膝枕されながら言われちゃなんの説得力も無いわよ~?」
「ぐぬぅ!?」
正論をぶつけられ、思わず口を噤んでしまうサンディ様に<大賢者>様は失笑を漏らします。
「何故だかわからないけど、相当お疲れのようね~。もしかして<陽光の剣>でも使っちゃったのかしら~?」
「……そんなワケないでしょ? 冗談も程々にして頂戴」
どうやらサンディ様は深淵との一件を口外しないようです。
しれっと嘘を言われた<大賢者>様でしたが、特段気にする様子は見せませんでした。
「ふ~ん。じゃあその体勢になってるのは、ただ単純に甘えたかったからってこと~? へぇ~、まさかあなたにそんな性癖があったなんてね~」
「はぁ!? ワタシにそんな趣味は無いわ! そもそも頼んだのはワタシじゃないしさ……」
「でも凄く気持ちよさそうよ~?」
「それは違……くはないけど、決して下心丸出しのやましい感じじゃなくて……」
膝の上からでもわかるくらい、サンディ様の頭の温度が急上昇しております。
(それにどこか反論にキレが無く、ごにょごにょと言い淀んでいるように見受けられます。やはり先の戦闘の疲労が残っているのでしょう)
ですが、それを説明してしまったら元の子もありません。ではどのように説明をすれば? そう考えを巡らせました時、<大賢者>様はクスリと笑います。
「ふふ~、ごめんなさい~、ちょっとからかっただけよ~。日々あなたに疲れが溜まっているのは重々承知の上だから、それを少しでも癒したいというのは至極当然の話だわ~。……だからそのままでいいから、本題を聞いてくれる~?」
本題、というのは一番最初に告げられた借金のことに違いありません。
私めとサンディ様は真剣な表情で<大賢者>様の言葉に耳を傾けるのでした。




