<陽光の剣士>サンディ
――遥か大昔、世は深淵が支配する光無き混沌だったそうです。
太陽の光すら届かないその世界で、人々は希望も未来も抱けずにいました。
そんな中、その邪悪な闇を払うべく立ち上がった剣士が一人。
その剣士は頭に百獣の王たる獅子の被りモノをし、手には<陽光の剣>が握られていたのです。
その剣士が持つ剣には太陽の光の加護が秘められており、ただ一度振るうだけで、辺り一面に陽光が差し込みました。
剣士は聖なる剣で人々を苦しめる悪意を斬り続け、そのまま諸悪の根源を断殺。結果的に世界に光を取り戻したのでした。
そうして世に光が戻った後も、剣士が育んだ剣技と技術は脈々と後世に受け継がれ、その後継者たちは”魔術”が主流の世の中であったのにも関わらず<最強の剣士>の称号を欲しいがままにし続けたのです。
そして現代。この時代にも現存しているその剣士の名は――
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「――<陽光の剣士>様……ッ!」
ワタシは<大魔女>アメルダ先生愛用の杖――<黒樺の杖>を真っ二つに一刀両断した剣士を見つめます。
(まさかこんな近くに伝承で語り継がれる伝説の剣士がいらっしゃったとは……ッ! これはなんという巡り合わせでしょう!)
そんな羨望の眼差しに晒された女性はバツが悪そうに頬をかきます。
「あちゃ~、やっぱりバレちゃったか~。ワタシとしちゃ、お伽話で済まして欲しい所なんだけども、あまりにも信憑性が高過ぎるから無理な話かもね」
サンディ様は『どうかこのことはご内密に!』と手を合わせ、懇願なさります。
すると、
「あ~あ~、やっぱりきしのおねぇちゃんは、そんなきょうだいなちからをもってたんじゃん。まんまとだまされちゃったな~」
その声の主は、サンディ様の斬撃を目の当たりにし暫しの間呆けていた深淵。
サンディ様は彼女に唾を吐き捨てます。
「騙したなんて人聞きが悪い。そもそもはオマエがエメルダちゃんに手を出したのが原因よ」
「なにそのいいぶん、おうぼう~」
深淵は不満げに口を膨らませると、サンディ様が手に持つ剣を疎ましそうに指差します。
「そのけんはあきらかにふつうじゃない。そのつかいてもね」
「でしょうね、そんなのワタシが一番良くわかってるわよ。だからこそ、これに頼らざるを得ない状況が嫌で嫌で仕方ない。ワタシからしてみれば、<陽光の剣士>なんて二つ名はクソ喰らえだわ」
「なにそれ? じゃあなんでそのちからをたよったの?」
「そりゃオマエがワタシの右手を潰したからでしょ? この剣は左手でしか扱えない訳だしね」
サンディ様が仰るには、彼女の魔力は左手にしか宿っておらず、その左手を極限まで鍛え上げていく中で<陽光の剣>に認められる<陽光の剣士>になったそうです。
「だけど別にそれは望んじゃいなかった。だって<陽光の剣>なんてブツは、”魔術”に頼らず高みを目指しているワタシに対する冒涜だもの。だからこそ……」
このように言い掛けるサンディ様は私めの頭を優しく撫でます。
「ワタシはあくまでこの娘と同じ無魔力を貫き通すわ」
この時、深淵は不機嫌気味な表情をしていました。
「……<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃん、きしのおねぇちゃんはそういってるけど、ちからにさがあるのはれきぜんだから、ぜったいにわかりあうことはない。それでいいの?」
その問いかけにサンディ様が割込みます。
「くどいぞ、深淵。エメルダちゃんがこれからどうするべきか決めるのはエメルダちゃん次第だわ。他人がどうこう言う話じゃない」
「ならきしのおねぇちゃんこそよけいなおせわなんじゃない?」
「それは筋違いってモンよ。だってワタシと同じ様にして欲しいなんて微塵も思ってないもの。ワタシが言いたかったのは、”魔術”の才が有るとか無いとかで人の価値は決められないってこと。それこそ、魔力量に固執してるオマエの方がエメルダちゃんの価値を狭めてるんじゃない?」
「は?」
何かが深淵の琴線に触れたのか、彼女は手に握っていた<黒樺の杖>の残骸を乱雑に地面へ放り投げます。
「なんだかつまんなくなっちゃった! もうおねぇちゃんたちとあそぶのやーめた!」
その瞬間、深淵の周辺に黒色の霧が立ち込めます。
それは言うまでも無く逃げの合図。サンディ様がそれを見逃す筈はありません。
「待て!」
サンディ様が即座に振り下ろした<陽光の剣>は見えない何かに防がれてしまいます。
「!?」
「これいじょうはしないっていったでしょ? それにほんきをかくしてたのはきしのおねぇちゃんだけじゃないんだからね?」
刹那、サンディ様はそのまま見えない何かによって吹き飛ばされます。
「チッ!」
「またいつのひかさいかいしましょ。そのときまでに<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんのきもちがかわっていることをせつにねがってるわ。それじゃあね~」
結果的にサンディ様の追撃をいなした深淵はゆっくりとその身を闇に沈めます。
すると、周辺の空間が歪みだし、私め達の感覚をグラリと揺れ動かすのでした。




