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”竜王決定戦”⑤

 オイラの眉間にまで迫ったセツナの斬撃。反応する間も与えられず回避する間も与えられなかったが、何故かその刀はオイラには届かなかった。

 その理由は一目瞭然(いちもくりょうぜん)。オイラの顔とセツナの刀の間に、また別の刀が割り込んできたからだ。

 二刀の刃が交じり合い火花を散らした(のち)、互いが互いを弾く。

 その様子にオイラは失望に満ちた嘆息を漏らす。


「余計なことしてくれたじゃねぇか、サムライ。あのまま受けたって”キイヒョウソウ”で防ぎ切れたってのによ?」

「おや? そうでゴザったか? てっきり絶体絶命だ~と内心泣いていたかと思っていたで(そうろう)

「あぁ? 誰がそんなしょうもないことをすっかよ? 兎に角、オイラはサムライに護られる程、(やわ)じゃねっての!」


 オイラは、突然要らぬ手助けをしたサムライとちょっとした口論を繰り広げる。

 そんな一悶着(ひともんちゃく)(はた)から見ていたルフが絶叫を上げる。


『ちょ!? ちょっと二人共! なーに、しょうもない口喧嘩してんのさ!? 勝負はまだ――敵はまだ健在だよ!? ……って言ってる側から来ちゃった!』


 ルフがそう叫んだのと同時に、二つの影――セツナの連れ添いである二人の剣士が眼前まで襲い掛かってきた。

 さっきのセツナ程じゃないが、この二人も中々の曲者。オイラとトールとルフだけじゃ相当手を焼く相手だが……


「運が悪かったな。オメェらが今相手してるのは<ひよこ組>随()と随()の武闘家であるオイラ達だぜ!」


 そう言い放つと同時にオイラとサムライは、息が合いに合った挟撃(きょうげき)で迎い撃ち、(くだん)の二人をいとも簡単に撃破した。

 圧倒的な実力を見せ付け余韻(よいん)に浸っている中、何故かサムライはムッとした表情を向ける。


「随一に随二? ちなみにどっちがどっちで候?」

「そりゃ当然オイラが一で……って! 急に斬り掛かってくるなや!」

「訂正しろでゴザル。拙者の方が一だと!」

「あん? どうしてだ? どこからどう見たってオイラの方が強ぇ~じゃねぇか?」


 ニタリと八重歯(やえば)を見せ付けて微笑むとさらにサムライは激昂(げきこう)する。


「何を根拠に!? 何なら今ここで決着を付けるで候?」

「良いぜ? 元よりそのつもりだったろ? だがその前にやるべきことがあるよな?」


 向かい合って話すオイラとサムライそれぞれの視線の先には因縁の相手が立っている。互いにその者に向かって歩き出し、背中を見せ合う。


「サムライはオイラにやられる大役を背負ってんだ。その務めを果たす前にやられんじゃねぇぞ?」

「その言葉そっくりそのまま返すでゴザル」


 そう言葉を交わしたオイラはトールを連れてグレンと相対(そうたい)する。


「トールの話はそこのセツナから聞いた。その上でオイラはこんな仮説を立てた。オメェはきっとそんなトールを”ヤシャケ”から遠ざける為にわざと追放してその行方を(くら)ませたって所か?」

「渋々決断……」

「まぁ状況を見るにやりたくてやった訳じゃねぇのも(うなず)ける。……だが! これとそれとは話は違う! あの出来事のせいでオイラ達の人生はズタボロになった! 蹴落とされた! 自尊心を傷つけられた! だからこそ今日の今日まであの日受けた屈辱を忘れたことは一時(いちじ)たりともない! 例えどんな事情があるにせよ……例え最愛のトールを護る為だったにせよ、オメェから受けた(あだ)を返さなきゃ気が済まねぇ! ――勝負だ、グレン! 今ここでオメェに勝ってあの時の落とし前を付けて貰うぞ!」


 オイラは”キイヒョウソウ”を(まと)わせた二双の戦斧(せんぷ)を構える。


「……確かにオラを助けてくれたことは……感謝してるし……グレンの気持ちも……分かる……。……けれども見方によっては……オラが自分の身を自分で護れなかったのも……原因の一つ……。……そのせいでスモーにとばっちりを与えたのも……事実……。……だからこそ今ここで証明する……オラ達はもう庇護(ひご)されるだけの存在じゃないと……オラ達二人ならどんな敵も倒せると……ッ!」


 トールもトールで覚悟を決めたのか、珍しくキリッと凛々しい顔で槍を手に持ちグレンと戦う意思を見せる。

 そうだ。トールの言う通りだ。オイラ達はもう里から爪弾きにされた弱い小人(ドワーフ)族じゃない。それをグレンに嫌という程思い知らせてやる! 


「……強敵認定。挑戦承諾! 尋常勝負!」


 オイラ達の強い気持ちが届いたのか、グレンもグレンで拳を握り締め、”キ”を最大限に高める。

 そしてオイラ達の一世一代の決闘が幕を開けた。




 ●




「――おらぁ!」


 気合の入ったオイラの一撃をグレンはことごとく防ぎ切る。それだけグレンの”ジュウリョクマジュツ”の防御性能が高いことが(うかが)える。


(斧の通りが悪ぃ! まるで厚い壁に覆われてるみたいだ! もしや単純な力勝負じゃ分が悪いか?)


 強大な力同士がぶつかり合った場合、そりゃ当然圧が強い方が押し勝つに決まってる。もし仮にオイラの”キ”を細く鋭利にさせて一点集中されれば話は別だが、残念ながらそんな繊細な”キ”の操作はままならない。


(こりゃサムライに脳まで筋肉(脳筋)って馬鹿にされる訳だ。だがやれないものはしょうがない。オイラはただただ力で圧し潰すのみ。力が足りねぇったら増やすまでだ!)


 ギリッと奥歯を噛み締めながら力を込めた為、口内に血が溢れる。


「うがぁ~ッ!」


 オイラだって小人(ドワーフ)族の(はし)くれだ。相手が里一番の強者だろうが、力勝負で負けるのは(かん)(さわ)る。だからこそ全力全開でグレンを押し込む。


「くっ!」


 それが功を成し、グレンの足がほんの少し地面にのめり込む。

 ほんのちょっと押し退けただけだがそれで十分だ。決してオイラは一人で戦ってるんじゃない。オイラには頼りになる妹がいる!


「トール! 一撃を叩き込め!」

「……任せて……ッ!」


 グレンが体勢を崩した一瞬の隙を見逃さず、トールが槍の一閃を仕掛ける。

 どちらかと言うと繊細な槍を扱うトールの方がグレンに決定打を与えられる可能性は高い。それに両手がオイラの攻撃を防いでいる以上、今のグレンの身体はがら空き状態。これならいける!


「ぐ……ぐおぉ~!」


 案の定、グレンの身体はトールの槍によって貫かれ大きく吹っ飛び、瓦礫(がれき)の山に放り込まれる。


「「…………」」


 『これで終わりじゃない』。

 決して警戒心を解かないオイラ達に見守られること数秒、いきなりグレンが飛び込んだ瓦礫が四方八方に飛び散る。まさか”キ”を発散させて飛ばしたってか!?


「うおぉっと!?」


 紙一重でそれを(かわ)すと、今度はこっちがその隙を突かれる。


「トール!」


 どうやらグレンの狙いはトールにあった。グレンはトールの頭を容赦(ようしゃ)なく掴み、そのまま地面に叩き付けるとお得意の”ジュウリョクマジュツ”の力場をその手の周囲に発生させる。


「~~~~~ッ!」


 きっと頭に強烈な圧が掛かったに違いない。トールは声にもならない悲痛を上げる。


「トールから離れやがれ!」


 当然すぐさま妹の救出に走るオイラ。しかし、まるで四年前と同じ様にただ(にら)まれただけで”ジュウリョクマジュツ”が炸裂し、オイラはいとも簡単に地面に叩き付けられた。


「グヌヌ~ッ!」


 あの時と同等……下手すりゃそれ以上の力で押し込まれ、やはり指の一本すら動かせない。


(ふざけんな! あの時と何も変わらねぇってか! そんな筈……そんな筈ねぇ!)


「ぐぎぎぎぎぃ!」


 まるで過去の自分を否定するかのように渾身の力を込めて立ち上がろうとする。だが残念ながら、相変わらず体のどの部分もピクリともしなかった。

 その様子を見てグレンは冷徹な言葉を浴びせる。


「抵抗終了? 無様敗北?」


(な訳、無いだろ!)


 オイラは必死に”キ”を全身に巡らせ、今一度”キイヒョウソウ”を着込む。キョージュも言ってたじゃないか! これがグレンの”マジュツ”に抵抗し得る唯一の手段だって! ならとことんそれを突き詰める!

 オイラは集中力を一気に高め、”キ”を全身に巡らせる。それが功を成し、幾分(いくぶん)かオイラに伸し掛かる重圧が(やわ)らぐ。


「うおおおぉぉおぉ~!」


 そしてその勢いのまま立ち上がることにも成功し、地面に押し潰された際に手から離れた戦斧を拾うことなく、ただの素手でグレンと立ち向かう。


「トールから離れやがれ!」

「喧嘩上等!」


 グレンはオイラの突発的な行動を嘲笑(あざわら)う所か、逆に意気揚々とオイラの拳に自身の拳を重ねる。

 慣れない素手での戦闘に四苦八苦(しくはっく)しながらも、意地でも”キイヒョウソウ”を維持し続ける。そのお陰か何度もグレンの攻撃を受けても致命傷までには至らなかった。だがこちらとて決定打がある訳じゃない。オイラとグレンは所謂(いわゆる)泥仕合を繰り広げた。

 殴っては殴り返さされ、殴られては殴り返す。言わば単純明快なステゴロ……根性と根性のぶつかり合いをオイラとグレンは繰り返す。


「だらぁ!」

「鉄拳制裁!」


 徐々に徐々に消耗が激しくなり”キイヒョウソウ”が()がれていき、身体の芯にまで痛みが走り始める。それでもオイラは倒れない! 血で赤く染まる視界の中、グレンをしっかりと捉え、オイラもグレンに対して一撃一撃を確実に見舞う。そして、


「「――――」」


 同時に地面にへたり込む。

 肩で息をしながらも互いが互いを物凄い形相(ぎょうそう)(にら)み付ける。


「……スモー……ッ!」


 限界寸前のオイラの元にトールが心配そうに駆け寄るが、オイラはそれを制止する。


「平気だ。まだやれる。テメェもだろ、グレン!」

「至極当然!」


 オイラとグレンはフラフラながらも立ち上がり、拳を胸の前に構える。


(正直次の一発が限界だな……。まぁ、そりゃ向こうも一緒だろうが)


 まさかこんな泥臭い戦いになるとは思いもしなかったが、そんな過程はもはやどうでもいい。最終的に勝った奴が正義だかんな。


「行くぜ、グレン……正真正銘最後の勝負だ!」

覇者不嬢(はしゃふじょう)!」


 底の底に残る一滴まで気力を振り絞り、オイラは拳を振りかざす。

 それはグレンも同じでオイラとグレンの拳は丁度交差し、互いの顔面にのめり込む。

 強烈な打撃。それには(たま)らずオイラもグレンも片膝を付きそのままうつぶせで倒れる。その数秒後、唯一立ち上がる者がいた。一体どちらが勝者となったのか?

 立ったその者の名は――

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