一刀両断!!!!!
サンディ様の強烈な斬撃と、幼女の予測不可能な”魔術”攻撃が衝突し合い、その衝撃で個室部屋が粉砕され、二人は外のホームに移動します。
常に攻撃の手を止めないサンディ様と幼女は、互いに違う意味で笑みをこぼしておりました。
「あはははは! きしのおねぇちゃん、であいがしらにめったぎりなんてして、とってもぶっそう~!」
「いいじゃないの! ここはアンタが作った亜空間。誰にも邪魔されないのなら存分に力を振るえるってモンよ!」
そんなやり取りをしつつ、両者一歩も引かない攻防を繰り広げます。
まるで台風のような乱闘に、私めは呆気に取られました。
(す、凄まじい……。ですが、そんなことをしてしまったら周囲に影響……ってあれ?)
一応ここは他の乗客も乗っている筈の汽車の仲。普通であれば、異変に気付き騒ぎが起きてもおかしくないのですが、
(いつの間にか周りに誰もいない……? まさかサンディ様の言葉通り、知らない間に異空間に飛ばされたと?)
確か幼女が手に持つ<黒樺の杖>は、”次元魔術”を扱えるモノ。それなら、ある一定の空間だけを切り取り、別の場所に移し替えてもなんら不思議ではありません。
「つまりあの子は、<黒樺の杖>を自在に扱えるということですか? やはりあの杖に封印されていただけのことはありますね」
そんな時、ひとしきり暴れ終えたサンディ様が側に転がり込んできます。
「やっぱりアイツの話を聞いちゃったか」
「はい、<黒樺の杖>に封印されたとかなんとか」
私めは続け様に、サンディ様と幼女の関係性をお聞きします。
「アイツの名は深淵。遥か千年前、<黒樺の杖>の中に閉じ込められた大悪党よ」
「サンディ様はその深淵と面識が? 『五年前、共に死闘を繰り広げた仲』と仰っておりましたよね?」
「その通りよ」
サンディ様曰く、アメルダ先生が所有していた元屋敷の地下室に<黒樺の杖>を封じ込めた際、初めて顔を合わせたそうです。
「事前にアメルダから、『<黒樺の杖>には良からぬ怨念的何かが封じ込められてる』なんてどうにもふわふわした説明をされてたの。だからあの当時、いきなり小さい女の子が現れてビックリしたわ」
そこで深淵と対峙したサンディ様は、相当の実力者であったのにも関わらず、完膚無きまでに叩き潰されたそうです。
「その時のワタシは未熟で弱かったってのもあったけど、あそこまでプライドを折られたのはアレが最初で最後だったわ。アイツから受けた屈辱、一日たりとも忘れたことは無い」
「過去にそんなことが。では何故、先生はそんな危険極まりない深淵のことを伏せていたのでしょう?」
「恐らく、アメルダ自身があの深淵の存在を認識出来ていなかったのよ」
「!? それはどういう意味です?」
「そのことについては、あたしがせつめいするね」
悠長にサンディ様と言葉を交わしていると、目の前の空間が急に歪み、そこから深淵が姿を現します。
彼女はまるで待ってましたと言わんばかりに、嬉々とした表情で自分のことを語り始めます。
「あたしはね、えらばれたひとにしかみえないの! とうぜん、そのえらばれたひとっていうのがどんなひとかはわかるよね?」
「まさか……魔力に恵まれなかった者?」
「すっご~い! せいかいだよ、おねぇちゃん!」
深淵は笑顔で手を叩きます。
その反面、サンディ様は機嫌が悪そうに口元を曲げます。
「”魔術”の才が乏しいってだけでも厄介なのに、どうしてオマエみたいな面倒な奴をも視界に入れないといけない訳? 勘弁してよ、マジでさ」
「それはこっちのせりふだよ。あたしは<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんとだけたのしくおはなししたかっただけなのに、きしのおねぇちゃんがわりこんできたんだもん」
「無茶言わないでよ。ワタシも生まれ持った魔力が少ないんだからさ」
「なにいってるの? きしのおねぇちゃんは、ほんらいえらばれたがわのにんげんじゃない。だってきしのおねぇちゃんは、ぜろではなく、いちをもったそんざいなんだしさ」
深淵の含みのある発言に、サンディ様は眉を釣り上げます。
「0? 1? それは魔力の有無のことを言っているの? それで言うならワタシは、限りなく0に近い1の場所にいるわ。何故なら……」
サンディ様はいきなり剣を振りかざし、深淵に斬りかかります。
「現に今まで”魔術”を込めた攻撃をしてないじゃない?」
サンディ様は続け様に回転し、その遠心力で斬り込みますが、深淵は既の所でそれを回避します。
「たしかにそれもそうだね。だけども、きしのおねぇちゃんはまじゅつをつかえるのにつかわないだけなんじゃないの? じゃあやっぱり、きしのおねぇちゃんと<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんはどんなことがあってもわかりあえないね」
「何が言いたい……?」
「<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんをほんとうのいみでりかいし、そしてすくえるのはあたしだけってこと。だからどうしてもゆるせないんだ。きしのおねぇちゃんがかってに、よけいなあどばいすをしたのがさ」
深淵は一息間を開けると、<黒樺の杖>の先端をゆっくりサンディ様に向けます。
「……もってるがわのにんげんが、<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんをまどわせないで。――だからさっさときえちゃいなよ、じゃまだからさ」
「!」
深淵の言葉に一瞬気を取られたサンディ様は体勢を崩します。
その隙を見逃さなかった深淵は<黒樺の杖>を振るい、サンディ様の周辺に時空の裂け目を発生させます。
ポッカリと歪に開いた空間の穴がサンディ様の服の袖に触れた時です。その部分が音もなく消滅したのでした。
「うぉ!? マジ!?」
触っただけでその物質を消し去る深淵の包囲網を、サンディ様は驚異的な身体能力を以て間一髪抜け出しました。
ギリギリだったと言わんばかりに、サンディ様は額に滝の様な汗を流します。
「反則でしょ、それ……。今までは全力じゃなかったってこと……?」
肩で荒い呼吸をするサンディ様に向かって遠慮なしの猛攻を仕掛ける深淵。
先程は耐え凌げたサンディ様でしたが、徐々に余裕を奪われ、とうとう剣を握っていた右手を損失させてしまいました。
その拍子に金色の剣が地面に落ちます。
「大丈夫ですか、サンディ様!?」
「……うん、取り合えずはね。痛みや出血が全くないのが唯一の救いかな」
絶体絶命の危機に瀕したサンディ様は苦笑を漏らすと、深淵の方を向きます。
「オマエはさっき、エメルダちゃんを救えるのは自分だけだって言ったわよね? なんでそう言い切れるのよ?」
「あたしだったら、<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんにさいこうのちからをあたえられるからだよ」
深淵が言うには、<黒樺の杖>には”魔術”を扱えない者に特別な能力を授ける性質があるそうです。だからこそ<黒樺の杖>は本来、<無魔力の忌み子>である私めにこそ相応しいとのことです。
「じゃあもし仮に、エメルダちゃんがオマエの要望を受け入れた場合、彼女に何をさせる気?」
「あたしはとくになにもしないよ。なにをするかきめるのはおねぇちゃんしだいだし」
「そう。なら今度はエメルダちゃんに質問。仮定の話としてアイツを受け入れた場合、アナタは何をしたい?」
「な、何をしたいと言われましても……使うのを我慢し続けるとしか言い様がありません……」
「嘘だよね、それ」
「!?」
サンディ様の鋭いご指摘にたじろいでしまいます。
「エメルダちゃん、ここで自分を偽るのは禁止。汽車の中でも言ったけど、ワタシとアナタは似た者同士。だから少なからず、世間に対して抱く気持ちも同じなんじゃない? 怒らないから本音を言って欲しいな」
サンディ様はまるで聖母のような優しいお顔を見せます。
そこに後光を錯覚した私めは、ゆっくりと口を開きます。
「正直な所、魔力が無いというだけで、私めに酷いことをした方々のことを心底恨んでいました。少々物騒ですが、復讐できるものならしたい……と考えたこともあります。申し訳ありません……本当なら冷静でいないといけないのに……」
「いいのよ、その感情は正常なモノなんだからさ。かくいうワタシだってそうだったんだしね」
すると深淵は堂々と鼻を高くさせます。
「ならあたしはおあつらえむきだね! おねぇちゃんがそれをのぞむのなら、ぞんぶんにおてつだいするよ!」
「その通りかもね。エメルダちゃんが<黒樺の杖>を手に取れば、この娘は願望全てを叶える力を得られるでしょう。それも、ワタシやアメルダを凌駕しちゃう程のね」
「そうでしょ、そうでしょ! だからこそ、<むまりょくのいみこ>のおねぇちゃんにてをさしのべられるのはあたしだけなんだからっ!」
小さい胸を張り、勝ち誇った素振りを見せる深淵。
サンディ様はそんな彼女を見つめた後、私めに目配せします。
「……だってさ。どうする? エメルダちゃんにとっては願ったり叶ったりの提案なんじゃない?」
そんなサンディ様の問いかけを、私めは鼻で笑いあしらいます。
「……サンディ様、ご冗談はお止め下さい。私めがどうお答えするか等、もう決まり切っているじゃないですか?」
「やっぱりそうよね~。ついつい意地悪なこと聞いちゃったわ。なれば、ワタシ達がやるべきことは一つ。――消えるのはオマエの方だ」
サンディ様は地面に落ちている剣を左手で拾い上げ、居合の構えを取ります。
「ねぇ、深淵。ワタシに左手を使わせたことを後悔なさい」
「? なにをいっているの?」
「すぐにわかるさ」
そう言ってサンディ様は”魔術”詠唱を口にします。
「”陽光を司るマナよ、我に闇をも打ち払う力を与えたもれ”」
その後、黄金の剣が輝かしく発光し、
「――”絶・一閃”!」
そこから一筋の光が伸びた刹那、
『パキン……ッ!』
という音と共に、<黒樺の杖>が真っ二つに一刀両断されます。
そんな華麗な奥義を見せたサンディ様でしたが、
「……悪いわね、アメルダ。アンタとの約束、果たせなかったわ」
そう呟き、悔しそうに顔をしかめるのでした。




