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<冒険者>登録

 スモー様とトール様が冒険者になる為には、他の<ひよこ組>の誰かも一人<冒険者>にならなければならない。そんな無理難題を押し付けられた(わたくし)め達に救いの手を差し伸べたのは意外や意外、<四大精霊>が一人<風の大精霊>こと……


「ルフ!?」


 でした。

 あまりにも予想外の所から降ってきた言葉に私めは瞠目(どうもく)します。

 するとルフは苦笑を漏らします。


『あはは……エメエメ、そんな露骨な反応しないでよ。そんなに変かな? あーしが<冒険者>になりたいっていうのはさ?』

「そ、そんなことはないけど、いきなりだったからついね。……でも大丈夫なの? もしかして無理して立候補とかしてない?」


 私めの心配を余所(よそ)にルフはケロッとした態度を顔を返します。


『そんなことないよ! そもそも、あーし自身<冒険者>っていう職業に興味湧いてきたし!』


 ルフが続けて言うには、<風神>ゼピュローヌ様に自由を奪われ、<歌姫>として以外の生き方を許されなかったルフにとって、やりたいことをやりたいだけやる<冒険者>の存在は眩しく見えたみたいです。


『それにさ、”竜王決定戦”……()いては次の”竜剋祭(りゅうこくさい)”はあーしに活躍の場ができそうだし、今の内に力を付けるに越したことはないんじゃない?』


 確かにルフは<四大精霊>の中で最も肉弾戦を得意とする人物。また”竜王決定戦”の規則にある『”魔術”による遠隔攻撃の禁止』の中、戦えるのは足具の<神器(じんぎ)>である”タラリアン”の使い手であるルフの他思い当たりません。


『それに理由はその二つだけじゃない。スモーとトールはあーしと……いや、あーし()と同じだからこそ連携し合えると思ってね。――でしょ、フルル?』


 ルフがそう問いかけた瞬間、ルフの身体が突然分裂を始め、私めよりも深くて濃い緑色の髪をしていた女性が姿を現します。


『久し振りだな、子猫ちゃん♪』

「フルル! 本当にいつ以来だろう!?」


 フルル。彼女は<風の大精霊>ルフの片割れであり、ルフのお姉ちゃん的存在です。

 【天空城】での一件ではルフと姉妹喧嘩(といっても、互いが互いを大切に思う故の行動でしたが)をしましたが、今ではもう仲良し。ルフとの合体を経て、密かにルフと私めを見守ってくれていました。

 その再会を密かに喜んでいる中、ルフは言います。


()しくもあーしもフルルという姉を持つ姉妹だ。なら同じ境遇同士、スモーとトールとも仲良くやれるんじゃない?』

『それで構わないかい? 小人(ドワーフ)族のお二人さん?』

「別に構わんよ。逆にオイラ達に協力してくれるってんだから願ったり叶ったりだ!」

「……よろしく……ルフにフルル……」


 どうやらルフ姉妹とスモー様姉妹の相性は抜群。何も問題は無さそうです。

 それにルフが口にする理屈は全て至極的を得ています。

 他に良い案が思い浮かばない以上、今回はルフに頼ってもいいかもしれません。


「……そういうことならお願い出来る、二人共?」

『まっかせて! 必ずや成果を上げてみせるよ!』

『何だかいつの間にか大事(おおごと)になってるみたいだし助力は惜しまんよ』

「セレナ教授、これで構いませんか?」


 私め達は『スモー様とトール様以外にも<冒険者>になれ』という条件を提示したセレナ教授の方を向きます。

 そんな風に詰められたセレナ教授は未だ納得がいかず眉間にシワを寄せながらも渋々ながら首を縦に振ります。


「そこまでされてまだごねぇる程、あちしはワガママじゃない。……許可しよう、スモー、トール、ルフ、ちみ達が<冒険者>になることを! その代わり、絶対にグレンに勝てるだけの力を身に付けろ!」

「わかってらぁ! それが本来の目的だしな、必ずや成し遂げる!」

「……覚悟は既に……決まっている……。……<ひよこ組>に勝利を……」

『やるからには妥協はしないよ。元超人気歌手の意地見せてあげる!』

『ルフ、無理しないで程々にな~』


 かくして打倒<成竜組>に向けて動き出した<ひよこ組>。いつもと変わらぬ波乱万丈振りですが、これでこそ<ひよこ組>といった具合です。何はともあれ、目の前に立ち塞がった壁を何が何でも突破しなければならないという一点の目標を胸に、私め達は着実な一歩を踏み出すのでした。




 ●




 時と場所が変わること【神都(しんと)】の中心街。

 休日に特別外出許可証を発行して貰い私め達が訪れたのは【神都】内にある【冒険者総合組合事務所】。<冒険者>を生業(なりわい)とする方々に仕事の斡旋(あっせん)をしたり、報酬の受け渡しをする<冒険者>にとって無くてはならない場所に私め達はいました。

 本日ここを訪れた理由はただ一つ。<冒険者>になる前に必須となる登録作業を行う為です。

 一応<冒険者>は年齢性別問わず希望すれば誰でもなれるとはいえ、最低限の審査を合格する必要があるようです。私めは今、スモー様・トール様・ルフがそれを受け終わるのを待っていますが……


「……そういえばルフって有名な歌手なのをすっかり忘れてたよ。それにスモー様の実力も以前の”竜剋戦”で広く知れ渡りましたし、そんな二人が<冒険者>になるというのは案外騒動になってもおかしくありませんよね……」


 そう【冒険者総合組合事務所】の端でぼやいた通り、今事務所内はちょっとした盛り上がりを見せており、熱気に満ち溢れていました。

 その原因を作っているのは他でもない<歌姫>と名高いルフと、前回の”竜剋戦”で圧倒的な快勝をもぎ取ったスモー様に他なりません。現在かの二人は<冒険者>になることを猛烈に歓迎させられており、言わば祝杯すら上げられている始末。それには唖然(あぜん)の一言しか漏れません。


(ヴァレット教授が(おっしゃ)っていた通り、どうやら【学院(カレッジ)】の生徒が<冒険者>になることは相当求められていることのようですね。それだけの評判を作り上げたグレン様には頭が上がりません)


 なんやかんやありルフとスモー様・トール様の登録作業は卒がなく終了。晴れて三人は<冒険者>になりました。

 ルフは誇らし気な顔で<冒険者>の証である”冒険者証”を私めに見せ付けます。


『エメエメ! いぇ~い! <冒険者>になったぞ~』

「おめでとう、ルフ。それにスモー様とトール様も」

「まぁな。だがこれはあくまで始まりの始まりだろ? 重要なのはそこで成果と<冒険者>としての名を上げて最終的にグレンに勝つことだ。そこまで気は抜けねぇな」

「……だから早速仕事を……請け負った……。……一番簡単なやつだけど……大事な依頼……。……頑張る……」

『ってな訳で早速あーし達は【神都】の外に出て(はげ)むよ。エメエメはどうする?』

「どうするも何も私めには<冒険者>になる資格は無いよ。それに私めが付いて行ったって足手まといになるだけだし、今回は三人に任せるよ」

『そう? なら吉報(きっぽう)を待っててよ。必ずいい報告を持って帰るからさ♪』


 そう言って可愛らしく片目を閉じるルフ。正直彼女達なら何の問題も無いということで、私めはその背中を笑顔で送り出すのでした。




 ●




 ルフ達が<冒険者>になってから早数日。

 ”竜王決定戦”そして次の”竜剋戦”が間近に迫る中、とある<冒険者>達が破竹の勢いで活躍している報道をよく目にする様になりました。そこに名を連ねるのは他でもなく、


「ルフちゃんにスモーちゃんにトールちゃん、(またた)く間に有名になっちゃったね。<冒険者>界隈(かいわい)の中ではグレンちゃんに次ぐ新星の登場だって騒がれてるみたい。あっという間にグレンちゃんと同じ<A級冒険者>の仲間入りだってさ」


 そう新聞を開きながら興奮気味に話すのはヨゾラちゃん。

 彼女が口にした<A級冒険者>というのは所謂(いわゆる)<冒険者>としての格付けで、下はF

級、上はS級まであるのだとか。

 なのでA級というのはつまり、上から二番目の位に位置するということ。話によれば相当強く、そして相当実績を積まなければその域に達するのは到底不可能で、そこまで上がれるのはほんの一握りの<冒険者>のみとも聞きます。

 そんなとんでもない(くらい)にルフ達はあっという間に到達してしまった。……凄まじいというかなんというか、上手い言葉が見当たりません。それでも何はともあれ、上手くやれている様で一安心は一安心ですが……。

 心の中で安堵(あんど)しつつ、私めはヨゾラちゃんと向き合い話を続けます

 

「どうやらあの三人には<冒険者>の素質があったってことなんだと思う。<冒険者>として成り上がるっていうことを有言実行する辺り、物凄いや。やっぱりあの三人に任せて正解だったよ」

「これならもしかするともしかして、打倒グレンちゃん!が叶うんじゃない?」

「どうだろう。あくまで<冒険者>としての指標が同じ土俵になっただけで、必ずしも実力も拮抗(きっこう)してるとは言い切れないんじゃない? 油断は禁物(きんもつ)かもね」


 あくまで冷静な分析をする私めの言葉にヨゾラちゃんは息を呑み込みます。

 少し安直な発言を反省しつつ、ヨゾラちゃんは気を取り直します。


「けれでも最低限、以前みたく『手も足も出ない~』ってことにはならないのは確かかも! 今私達がするべきことは危ない仕事に挑む三人の安全を祈願することだね!」

「そうそう。級が上がる度にどんどん依頼の難易度も危険度も跳ね上がるってルフは言ってた。あの三人のことだから滅多なヘマはしないだろうけど、用心に越したことはないと思う。ヨゾラちゃんの言う通り三人の帰りを座して待とう」


 あの三人なら何ら問題はない。そう考えたのも束の間、待てど暮らせどルフ達は一向に【学院(カレッジ)】に帰還しませんでした。

 時折遠征がてら外泊して帰ってくることはあっても、精々三日程度でしたが、今回は一週間経っても一切音沙汰(おとざた)がありませんでした。

 それはあまりにも異常だ。そう(おのの)いた所で状況は変わらず、最終的に【冒険者総合組合事務所】から残酷な宣告がなされます。


『<A級冒険者>ルフ・スモー・トールの以下三名の行方不明を認知。その事態を重く受け止め、直ちに捜索隊を編成し、三名の救助に向かう』


 それを聞いた途端、漏れなく<ひよこ組>全員が膝から崩れ落ちたのでした。

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