vs.<仔竜組>.④
<仔竜組>との”竜剋祭”第三回戦の鬼ごっこ。その結末は何とも一瞬の出来事で、あっけなく集結してしまいました。そして激闘を終えた二人が”特設闘技場”の壇上に戻って来ました。
あまりの疲労に疲れ果てているであろうキャルロット様はマリネットが操る”機械人形”に担がれており、その体制のままケタケタ笑います。
「いや~、しんどかったわ。<学院>式の鬼ごっこはもう懲り懲りやで~」
「お疲れ様です、キャルロット様。……惜しかったですね、もう少しの所でしたよ」
「いや~、我ながらやらかしてしもうたわ! まさか向こうも同じ手を使うなんてな! でもよくよく考えたら向こうは機械なんや。付け焼刃のワイなんかよりも上手く腕の一本や二本外せるっちゅうねん! まんまと嵌められたで!」
その言葉通り、キャルロット様は最後の最後腕を突き出しますが、それは偽物の手で、本命はその奥に隠れていました。二段構えの攻撃で勝てたと思った矢先、意外や意外相手も同じ手……つまり、キャルロット様が触れようとした部分を分離させ、躱してのけたのです。
お互いに物作りを主とする<工学科>だからこそ出来た戦術。しかし、互いに通ずる技術だからこそ如実にその実力差が表れてしまいました。
キャルロット様は負けてしまった原因を冷静に分析しますが、考えれば考える程相手が一枚も二枚も上手だったことがわかってしまい、完敗だと言わんばかりに両手を上げます。
その反応を端から見ていた対戦相手――マリネット様がほくそ笑みます。
『仮にもおれっちは<工学科>の代表生徒だ。同じ科の生徒に負ける訳にはいかねぇっての』
「せやな、今回は<ひよこ組>の一人としても<工学科>の一人としても惨敗や」
『これで一勝二敗だな。まだ勝負は分からないぜ?』
マリネット様はどことなく楽しそうな口調で言います。不思議と今のマリネット様からは以前までの我々<ひよこ組>を下に見る傲慢さは薄れており、さながら対等の相手と向かい合うような感情が見て取れました。
(だからこそ相手はもうこちらを侮ったりはしないでしょう。残り二戦はより一層の激戦が予想されます)
残り二戦、私めが出るかどうかはまだ未定ですが、今の内から覚悟を固めていた方が良さそうです。
そうこうしている内に、卒がなく”竜剋祭”の進行が進み、次に第四回戦が始まろうとしていました。
『<ひよこ組>二勝、<仔竜組>一勝。<仔竜組>にとってはもう後が無い第四回戦目の種目は、全五問の早押し知識問題勝負! つまり地頭の良さを競って貰う(^-^)』
『武力に料理に鬼ごっこに、今度は頭の良さってか? 良くもまぁ色々と考えるもんだぜ』
『これもそれも全部祭を盛り上げる為さ。で、両組は誰が出る?( ^)o(^ )』
「勿論あたくしめが出ますわ。そもそもそういう話でしたからね」
『ほぉ、ちゃんと約束を覚えてたってか? なら思う存分叩き潰してやんよ!』
「やれるものならやって御覧なさい! 伊達に一年、この<学院>で勉学に励んだ訳ではありませんことよ!」
そうしてヴァンナさんとマリネット様による一騎打ちが始まったのでした。
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『では両組の準備が整ったと言うことで早速第一問目へと参りましょうか!=^_^= ベベン! 第一問! ……神話の世界で語り継がれる三人の大魔女。<運命の大魔女>、<時空の大魔女>、そして残り一人は――』
『<次元の大魔女>だ!』
『マリネット、正解! 一点獲得だ(^^)v』
『うしっ!』
「まだ一問目ですわよ! さぁ、二問目を早く!」
『慌てない慌てない(;´Д`)。では第二問! ここ【学院】には今<四聖騎士>と呼ばれる生徒がいるが、それは総勢何人?』
『はぁ? 四聖と言うからには四人なんじゃ――』
「それはある意味で引っ掛けですわよ! 正解は五人!」
『おっ、どうやらヴァンナは知ってたみたいだね(゜д゜)!』
「あくまで噂ででしたが。ですがそれが答えということはどうやら嘘ではないみたいですね」
ヴァンナさん、凄いです! そんなことも知っているなんて!
どうやらヴァンナさんはちゃんと勝つ気があってこの勝負に挑んでいる模様です! これなら一進一退のいい勝負が繰り広げられることでしょう。
ヴァンナさんとマリネット様の二人が放つ熱気が醒めならぬまま次の問題が出されます。
『第三問! 伝説の勇者様が持つとされる<神器>”エクスカリバーナ”。実は勇者様が持つに値する<神器>はもう一個あるのだが、その正体は何?(゜_゜)』
「そ、そんなものがあるのですか!? 初耳ですわ!?」
『ならこの勝負貰った! 正解は<神器>”永劫の盾”だ』
『大正解!(`・ω・´)』
「な、なんで貴女がそんなものを知っていますの?」
『そりゃまぁ、ここじゃ有名な話だぜ? 何せその持ち主がこの【学院】神都校にいるんだからな!』
多くの者が知らない衝撃の事実に、私め<ひよこ組>だけでなく観衆の大半もどよめき始めます。
「ねぇ、誰か知ってた? そんな話?」
「いや初耳や。そもそも勇者はんの有名な<神器>がもう一本あるっちゅう話も聞いたことないで」
「<四聖騎士>といい先の話といい、つくづく凄い人材が集中しているでゴザルな。”竜剋祭”で関わらないことを切に願うばかりで候」
「そんなことよりも今はヴァンナさんの応援に注力しましょう。次の一問を落としたら終わりですから」
その言葉通り、ヴァンナさんにはもう後が無い。例え敗けてしまっても二勝二敗で最終戦があるとはいえ、<ひよこ組>の方が圧倒的に不利ですから勝てるのなら勝っておきたいのが本音です。
<ひよこ組>総出でヴァンナさんに願いを託すこと第四問目。今度は早押しではなく○×問題のようです。
『では第四問。この【学院】神都校には<異世界の放流者>が在籍している。○か×かどっち!( `ー´)ノ』
『異世界の放流者って……』
「なんですの!? こんな頓珍漢な問題出さないで下さいまし!」
どうやら二人はこの問題について確証は無いらしく、悩む素振りを見せながらも二択の内の一択を当てずっぽうで決めます。そして出された答えは……
「あたくしめは×」
『おれっちは○だ』
『綺麗に別れたね。そして当然二人の内一人が正解をもぎ取ってる訳だ。じゃあ答えを言うよ、見事正解を言い当てたのは、マリ――』
「――ヴァンナさね」
『!? ちょ!? 学院長!?(;'∀')』
突然マリアンヌ学院長が割り込んできて、テレサナ様が驚愕します。
『ま、待って下さいよ。勝手に正解を捻じ曲げないで――』
「ん? 誰が何と言おうとそんな<異世界の放流者>なんてものは【学院】にはいないと言ってるさね。まさかこの儂に楯突くつもりさね?」
『そ、そんなつもりは……(-_-;)』
「あの結局どちらが正解でしての?」
ヴァンナさんの問いにテレサナ様は渋々といった具合に答えます。
『ヴァンナの方だね……(~_~)』
「ということは二体二ですの? 何とか最終問題まで漕ぎ着けられましたわ!」
そして泣いても笑ってもこれが最終問題。これまた二者択一の形式で問題が出題されます。
その内容を聞いたヴァンナさんは、
「――正気ですの? これをあたくしめに答えろと?」
その瞬間、ダン!とヴァンナさんは回答用紙の紙を地面に叩き捨てます。
「……こんな問題を答えるくらいなら……同じ寮の仲間を侮辱するくらいなら棄権した方がマシですわ」
そう言い残し、ヴァンナさんは物凄い形相でその場を去り、勝負の匙を投げてしまったのでした。




