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<仔竜組>代表マリネット

 マザー・テレサナが切り出した話題。それこそ正に、(わたくし)めが所属する組である<ひよこ組>にとって今最も重要なお話でした。


「テレサナ様! これは一体どういうことですか!? 何故この場で”竜剋祭(りゅうこくさい)”の名が!?」

『どうしてって言われても、そりゃわったくしがその”竜剋祭”を取り仕切る管理委員会の会長も務めてるからさ(^ω^)』

「で、では、ここに集まっている他の四名の生徒はまさか……ッ!」

「そのまさかですよ、<無魔力の()み子>エメルダ――否、<ひよこ組>代表のエメルダ。ここにいる者は、<神竜組>・<古竜組>・<成竜組>・<仔竜組>の代表に他なりません」

「…………」


 まさかこの様な形でこれから相対(あいたい)する組の代表と顔を合わせることになろうとは……。そう考えると圧巻の一言です。

 <神竜組>代表は言わずもがな【学院(カレッジ)神都(しんと)校の学年首席たるアーシャー様。

 そして……


「…………」


 私めの視線の先にいるのはこの中で唯一、顔全てを虚無僧笠(きょむそうかさ)で隠す素性が一切不明の人物。

 しかしながら私めはあの方のことを良く存じております。丁度一・二ヶ月前、アヤメ様を襲撃した”夜叉”家の方に違いありません。ですが、良くも悪くもそれ以上のことは知らない。今ここであの事件の事を追求するのは情報も証拠も足りな過ぎます。

 ここは我慢の(とき)ということで押し黙っていると、


「無駄ですよ、<無魔力の忌み子>エメルダ。彼女……セツナはわたしめを含め、誰もその声を聞いたことがないのですからね」


 若干苛立(いらだ)ち気味にアーシャー様が口を挟みます。


「そうなのですか?」

「えぇ、嘘は言っていません。普通だっらそんなことは許されませんが、ここは【学院(カレッジ)】神都校。どこかの誰かさんみたく実力さえあれば筆談でも容認されるのですから致し方無いでしょう」

『え? それって褒めてる?(´艸`*)』

「別に誰もテレサナ先輩のことを言った訳ではありませんよ。……とは言え、<無魔力の忌み子>エメルダ、先に忠告しておきますが、この程度のことで驚いていては身が持ちませんよ? <古竜組>代表のセツナだけでなく、<成竜組>・<仔竜組>の代表もそれはそれは個性的ですから」


 そう諭され動かした視線の先には、二人の少女。

 一人は何とも棘があると言うか何とも近寄り難い改造制服――確か半グレの方々が着る特服(とっぷく)と呼ばれる物でしょうか?――を着込み、口には四つ葉のクローバを(くわ)える真紅に染まる髪をしている少女で、もう一人は両手で巨大な熊のぬいぐるみを抱える如何(いか)にも気弱そうな黄色髪をした少女でした。


『グレン、マリネット、一応自己紹介頼めるかいm(__)m』


 テレサナ様にそう諭され、まず最初に特服を着た少女が大きく飛躍し、机の上で仁王立ちをしました。そして歩く度に音が鳴りそうな下駄をダンと踏み鳴らし、大声を張り上げます。


天上天下(てんじょうてんげ)唯我独尊(ゆいがどくそん)!!!!! 夜路死苦!!!!!」

「は、はい……? もしかして今のが自己紹介ですか? それによろしくとも(おっしゃ)いましたか?」

「気にするだけ無駄ですよ。グレンからまともな言葉が聞けることは期待しないことです」

「は……はぁ……(かしこ)まりました」


 アーシャー様の事前の忠告通り、本当に個性的な人物だと思いつつも、気を取り直し今度はぬいぐるみを()(かか)える黄色髪の少女の方を向きます。その刹那(せつな)のことでした。


「ひっ!」


 黄色髪の少女は一気に顔を青ざめさせ、わなわなと震え上がります。

 明らかに普通ではない反応。それには思わず困惑し、条件反射的に彼女に近付いて手を差し伸べようとしましたが、


『触んじゃねぇ! その汚らわしい手でよぉ!』

「痛ッ!」


 彼女が抱き寄せる熊のぬいぐるみがその鋭くも獰猛(どうもう)な牙を振るい、私めの手を(はら)()けます。

 一瞬ぬいぐるみが独りでに動いたかとも思いましたが、それは違います。明らかにマリネット様がマリネット様の手で動かしており、口元もぼそぼそと動かしさながら腹話術のように言葉を発していました。

 何故いきなりこんなことをするのか? 困惑しつつ尋ねます。


「な、何をするのですか、いきなり!?」

『うっせぇ! ○すぞ?』

「…………」


 今この人形とんでもないことを言いませんでしたか……? 私めの聞き間違いで無ければ相当()()()()()()を口にしたのでは?

 いきなりのことに動揺し言葉を見失う中、ぬいぐるみはテレサナ様の方を向き文句を垂れ流します。


『ったく、<ひよこ組>が何だか知らねぇが、こんなやつに下剋上されるこっちの身にもなれってんだ!』


 グチグチネチネチ恨み辛みを隠そうともしないぬいぐるみは乱雑に両手を回し、その激情を惜しげもなく(あらわ)にします。


『本来ならよ、そこのふざけた格好をした野郎が取り纏める<成竜組>に喧嘩売ろうと思った矢先に、おれっち達の<仔竜組>の下にさらに下位組がいるだと? じゃあ先にそっちの相手をしねぇとじゃねぇか!』

『しょうがないじゃないか、それが”竜剋祭”の規則な訳だし……(´-ω-`)』

『だからって<ひよこ組>の開設は四年振りだって話だろ? 何でよりにもよって今年なんだ!』


 いつまで経っても怒りが収まる様子のないぬいぐるみの激昂にテレサナ様はたじたじ。全体を管轄(かんかつ)する役として何とか()(つくろ)うとしますが、正直その兆しは見えません。

 完全に場が乱れている。収束が付かないと思ったその時、特服のグレン様が鼻で笑います。


笑止千万(しょうしせんばん)!!!!! 呵々大笑(かかたいしょう)!!!!!」

『あぁん? グレン、おめぇさんは何が言いてぇんだ?』

「説明するまでもありませんよ、マリネット。今ここで愚痴をこぼしても誰も聞く耳は持ちはしません。言いたいことやりたいことがあるのなら言葉ではなく実力で示すことです。<ひよこ組>の存在が鬱陶(うっとう)しいのなら力で説き伏せれば良し。そうは思いませんか?」

『言われるまでもねぇ、最初っからそうするつもりさ! だがおれっちが言いてぇのは、勝負にならねぇもんに本腰入れたくねぇだけだ』

「!」


 聞き捨てならない。そう反論をしようと思いますが、あくまで立場はこちらが下。きっと発言は潰されるでしょう。

 だからこそ奥歯を噛み締めつつマリネット様の次の一句を待っていると、熊のぬいぐるみはやれやれと肩を(すく)めます。


『”竜剋()”って言うからには、【学院(カレッジ)】側としては盛り上げねぇといけねぇだろ? そうして【学院(カレッジ)】の宣伝をする。違うか、テレサナパイセン?』 

『うん、”竜剋祭”はあくまで【学院(カレッジ)】内だけに留まる(もよお)し物じゃないよ\(^o^)/』

『じゃあ出来んのか? そんな高尚な芸当が<ひよこ組>によ?』

「……それは挑戦と見てよろしいのでしょうか?」

『はっ! そもそも挑戦になるってのかよ? おれっち達が本来の最下層組だからって舐めやがってよー。<仔竜組>の生徒は皆、これでも【神都(しんと)】外の【学院(カレッジ)】なら十分に神童扱いされる才覚の持ち主達なんだぜ? ぶっちゃけて言うが、<ひよこ組>との実力差は月とすっぽんだ。それでもやるってのか?』

「……元よりそれ以外の選択肢はありません」

『はっ! 言ったな! なら精々足掻(あが)くんだな。一年後、おめぇらを完膚なきまでに捻り○せるのを楽しみにしとくぜ!』


 またしても言葉にしてはいけないであろう台詞(セリフ)を言い残し、マリネット様|(正確にはぬいぐるみ)はこれ以降押し黙ります。

 言い方はあまりにも乱暴ですが、<ひよこ組>が格下に見られている事実は間違いない。やはりこの点も先生(師匠)の言う通りだと痛感しつつ、私めは現状の不甲斐なさに(さいな)まれ拳をギュッと握ったのでした。

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