<医学科>の天才、マザー・テレサナ
アメルダ先生との電話の後、ふと私めの背後に現れた謎の人物。かの者は顔の前に可愛い顔?である(´-ω-`)が添えられた文字が記された画用紙を掲げており、いかにもやれやれといった具合を醸し出しておりました。
いきなりのことに動揺を隠せず、ポカンと突っ立っていると、謎の人物は、画用紙で顔を隠したまま何かを書き記します。そしてそれを書き終えるとそのままこちらに見せました。
『久し振りに先生と話せて良かったね(*^-^*)』
「え? あ、はい、ありがとうございます、お陰様で」
『今ちょっといいかい? 君に用があって来たんだ|д゜)』
「それは構いませんが、そもそも貴方は誰ですか?」
『はぁ~!? それマジで言ってる!?(;´Д`) この【学院】に在席しておいてママの存在を知らないなんてどうかしてるぞ!?(≧◇≦)』
「マ、ママ!?」
いきなり突拍子のないことを言われ、驚愕の表情を浮かべてしまいます。それと同時に恐怖心も芽生え、ジリッと一歩後ずさってしまいます。
そんな反応と行動を見た相手は画用紙を顔の前に掲げたままつんのめります。
『ひ、酷い……。あんまりだ(ノД`)・゜・。』
「この状況はどう考えてもそちらの方が悪いのではないでしょうか……」
『そりゃそうだ。色々と説明を省き過ぎたね、ごめんごめんm(__)m』
ぐうの音も出ない反論に目の前の人物は項垂れながら自身の非を認めます。
そんなこんなで気を取り直した私めは改めて本題を聞き直します。
「それで一体どういった要件でしょう?」
『その前に確認。一応君が<ひよこ組>の頭目で間違いないかい(。´・ω・)?』
頭目? そういえば<ひよこ組>の代表はどなたなのでしょう? 今まで全く協議していない内容でしたね。まぁ一つ言えることは、最低限私めではないのは確かでしょう。
そう見切りを付けた私めは首を横に振ります。
「それでしたらヴァンナさんあたりをお尋ね下さい。彼女は組の中で最も聡明で身分も高い方ですから」
『うーん、そうなの? 一応<ひよこ寮>のみんなに『誰が<ひよこ組>の頭?』って聞いたらこぞって『エメルダ!』って返ってきたんだけども?(・_・;)』
「!? まさかそんな! 本当に皆さんそう仰ったのですか?」
『(*-ω-)ウンウン♪ ってな訳で付いて来てくれる?(*'▽')』
何から何まで予想外のことばかりですが、どうやらこの人の話に乗らなければならないみたいです。私めは渋々といった具合に、名も身分も知らぬその人物の後ろを歩き始めたのでした。
●
そうして訪れたのは【学院】内にある巨大な昇降機の前。
普段は高くそびえ立つ【学院】を行き来するもので、いつも通り上に行くと思いきや……
『ここをこうしてと( `ー´)ノ』
謎の人物は1より上の数字が刻まれている突起物の下部――明らかに凹みがあり何かがあると言わんばかりの箇所を指で引っ掛けそのままパカッと開けます。その先にあるのは-が添えられた1から10の文字。見るからにそれは……
「もしや地下階層があるとでも?」
『正解\(^o^)/ これから下へ向かいま~す(^^ゞ』
そうして昇降機がガクンと揺れ動き、一階層から下へと動き始めます。
いつもなら透明の窓から外の景色が見える筈が、今回見えるのは真っ黒な壁のみ。いつもとは違う感覚に酔ってしまいそうになります。
『さて目的地まで少し時間が掛かる。その間に軽く自己紹介といこうか(*´з`)。わったくしの名はテレサナ。一応<医学科>の代表生徒で、教授長の<聖母>マリアンヌ先生から直々に<マザー>の名を授かった生粋の天才さヽ(^o^)丿』
『マザー』。それ故の『ママ』発言で御座いますか……。話の内容として突飛過ぎる気もしなくもないですが、マリアンヌ学院長からお墨付きを頂いている以上、その実力は本物に違いありません。それにそのことで驕っている雰囲気でもない。きっとこの方はちゃんとした経緯でその地位に昇り詰めたのでしょう。
私めはそんなテレサナ様に対し、ずっと疑問に思っていたことを投げ掛けます。
「あの不躾ながらよろしいですか? 何故その様なまどろっこしいやり方で会話をなさるのです? もしかして何か事情がおありで?」
その問いにテレサナ様はピタリと制止してしまいます。やはり聞いてはいけなかったことだったかと後悔しつつもやはり気になってしょうがなかったので勇気を出して聞いてみることにしましょう。
しかしそんな気軽さとは裏腹に、テレサナ様から返ってきた答えは何とも重いお話でした。
『実はちょっと顔と声帯に大火傷を負っててね。顔は隠さないといけないし、会話はこうして筆談をしないといけないのさ(;´∀`)』
「も、申し訳ありません! やはり込み入ったお話だったのですね……」
『気にしなくていいさ。【学院】の教訓を忘れた訳じゃないだろ?(´_ゝ`)』
「確かに……。実力さえあれば何でも許されますよね、ここでは」
『そうさ。そういう点ではこの【学院】には感謝している。こんなわったくしにも人権を与えてくれたんだからさ(≧▽≦)』
改めて【学院】には様々な人がいると痛感します。
しかし何故でしょう? どうしてそんな方が私めの元に? 単刀直入にそのことを聞いてみると、
『驚かせてしまった様で悪かったね。これから向かう先は<ひよこ組>にとって重要な話なのさ(。-`ω-)』
その言葉と共に昇降機が停止します。止まった位置を示す点灯は-10。つまり最下層に到着した模様です。
『ささ、こっちおいで。足元が暗いから気を付けて(´ー`)』
そんな注意の通り恐る狭くて灯りが乏しい廊下を恐る恐る歩いた先に扉らしき物がありました。テレサマ様はそれを躊躇いなく開けます。その先にいたのは四人の少女。その内の二人には見覚えがありました。
「あ、貴女は……!?」
「おや、これはこれは……。てっきりヴァンナ様にお越し頂けると思っていましたが、<無魔力の忌み子>の方が来るとは」
その部屋の一番奥に鎮座していたのは、燕尾服を着る黒髪の少女こと――学年首席のアーシャー様でした。
『おや、もう既に学年首席と知り合いかい? なら話は早いね(^ω^)』
「いえ、彼女だけではありません。もう一人……あそこにいらっしゃる方も見知っております」
そうして目配せした先にいたのは奇妙な虚無僧笠を被る人物。丁度数ヶ月前、アヤメ様を襲撃した人物に他なりませんでした。
『それってセツナちゃんとも顔見知りってこと? そりゃ珍しい。彼女はあまり他人と関わりを持ちたがらない類の性格なんだけどな(゜o゜)』
そんなセツナと呼ばれる女性はわざとらしくこちらとは顔の向きを合わせることはせず、黙って肯定も否定もしませんでした。
それでは埒が明かないと判断したのか、テレサナ様はこれ以上追及することはせず、部屋の中心へと向かいます。
『さぁて、そんじゃま始めるとしますか。<ひよこ組>代表、空いてる席に(∩´∀`)∩』
「は、はい!」
私めは巨大な熊のぬいぐるみを抱く小柄な黄色髪の少女の隣に座り、テレサナ様の言葉を待ちます。一体これから何が話されるのか? 期待半分不安半分で耳を傾けると本題が切り出されました。
『ではこれより一年後来たる”竜剋祭”に向けた定例会議を始めるよ('ω')ノ』
「!」
『来たる”竜剋祭”は心して掛かれ』
丁度ついさっきアメルダ先生から忠告を受けた話題が持ち上がり、私めの背筋は自然とピンと立ったのでした。




