【神都】へと向かう汽車の中で
ひょんなことから私めは、【神都】からの使者であるサンディ様と行動を共にすることとなりました。
サンディ様が仰るには【神都】へは特別な移動手段を使わなければならないそうです。
そして、その特別な方法を用いている今、私めは信じられない光景を目の当たりにしておりました。
「す、凄い……景色がどんどん離れて行きます」
今まで感じたことの無い速さによって、目の前の風景がめくるめく変わり続けていたのです。
それに驚きを覚えていると、目の前に座るサンディ様が微笑みを浮かべます。
「もしかして汽車に乗るのは初めて?」
「はい。もっと言えば【コミティア】の外に出るのも人生初の体験で御座います」
「へぇ、そりゃ良かった。ワタシ、アナタのそんな楽しそうな顔を見れてとってもハッピーよ」
サンディ様は子供の様に無邪気に笑うと、手に持った紙に文字を走らせます。どうやらこれからの行動表をまとめておられるようです。
「それにしても良かったの? 【神都】の案内をワタシ任せにしちゃってさ。あそこ行きたい! あれ見たい!って気軽に言ってくれれば付き合うのに」
「そ、そんな申し訳ないです! い、一応私めは罪人として【神都】へ赴くのです。なのでとてもじゃないですが、遊ぶ気には一切なれません……」
やはりこれから行われる異端審問のことを考えると、どうにも気持ちが落ち着きません。
(きっと【神都】のお偉い方々は例の【コミティア】隕石落下事故を口実として、私めを処罰したいと考えている筈。……それに私めは<無魔力の忌み子>。世界に災厄をもたらす<悪魔の子>を野放しにするなんて温情は決して掛けられぬでしょう」
「…………」
そんな私めの不安を感じ取ったかは定かではありませんが、サンディ様は短い溜め息を吐きつつ、私めのデコを小突きました。
「イタッ!?」
「何考えてるかは知らないけど、アナタみたいな小さい子は楽しいこと以外考えちゃダメ。確かにエメルダちゃんを良く思わない人がいてあれこれ罵詈雑言浴びせるだろうけど、所詮直接手を下さず外野からピーチクパーチク言うことしかできない臆病者の戯れ言に過ぎないから、そんなの意に介す必要なし。それでももし手を出そうものなら、ワタシとアメルダが黙っちゃいないわ」
そしてサンディ様は『面倒事はさっさと片付けて、素敵な旅をしましょ♪』と、再びガイドブックを手渡します。
私めからしてみれば、そんなサンディ様の態度が理解しきれませんでした。
「あの、不躾なことをお聞きしますが、何故そこまで私めに親身にして下さるのです? 何せ私めは――」
「ストップ、エメルダちゃん。ここは個室だけども、声は完全に遮断しないから、その先の言葉は言わない方が身の為よ?」
サンディ様はシィ~……と縦に立てた人差し指を口元に添え、そして音量を抑えた声でこう仰います。
「正直な所、ワタシはエメルダちゃんに”魔術”の才があろうがなかろうがそんなの関係ないと思ってるの。それが例え、人々から忌み嫌われる要因だったとしてもね。その点に関してはアメルダと同じ気持ちよ。……アイツと思考が被るってのはどうにもしゃくだけども」
「どうしてです……? そんなお優しい方、アメルダ先生以外いらっしゃらないと思っていたのですが……」
「ふふ、それは残念だったわね。世の中、案外捨てたモンじゃないのよ?」
ニシシと歯を見せ笑うサンディ様を、ポカンとした何とも言えぬ表情で見つめると、その言葉の真意を説明し始めます。
「かくいうワタシも似た様なモンだったわ」
それは一体? そんな感情を込め首を傾げると、サンディ様は苦笑いを浮かべます。
「ワタシもワタシでさ、こと”魔術”に関して言えばてんで落ちこぼれで、腫れ物みたいな扱いを受けてた過去があるんだ」
「そんなことが……」
「だからさ、出来ないことはいっそのことキッパリ諦めて、唯一成長の芽があった”これ”を極めることにしたの」
そう述べつつ、右脇に差した金色色に輝く剣の柄を撫でます。
「そしたらさ、運が良い事に大成功。”魔術”の才に恵まれなかった凡人が一転、【神都】の雇われ剣客にまで登り詰めたの。だからこそ断言できる。魔力の有り無しがなんぼのもんじゃい、ってね」
溢れんばかりの自信とそれを裏付ける実績から導き出された堂々たる物言いをサンディ様がなさったその時です。汽車がゆっくりと停止し始めました。
「ん? どうやら中間駅に着いたようね。数分停車するし時間も時間だから、昼食用のお弁当を買ってくるわ」
そう言ってサンディ様は席を外します。
(確かにそろそろお腹が空いてきましたね)
そう思い腹をさすると、
「――なんともざんこくであさはかなかんがえだったね。ばかだなぁ、おねぇちゃんとあのきしはこんぽんからちがうのに、おなじようにできるわけないじゃない」
「!?」
さっきまで誰もいなかった目の前の席に、全身真っ黒のレースをまとった幼女がいつの間にか鎮座していたのでした。




