<【神都】でちょっと名の知れている剣士>サンディ
二年前の隕石落下事故にとって大きな傷を負った流星の街【コミティア】。
そんな災害にも屈することなく、最低限の復興を成し遂げた街の様子を一目見ようと、世界の首都である【神都】から視察団の方が参られました。
その団体の代表――とてもお綺麗な黄昏色の髪をたなびかせる女性|(年齢的には十代後半~二十過ぎでしょうか?)はアメルダ先生に挨拶を交わします。
「やぁ、アメルダ。”あの時”話した以来会ってなかったから、大体五年振りの再会かしらね?」
「そ、そうじゃのぉ~……」
「けど、なんかおかしいわね。なんでアンタの身体小っこくなってんの? 見た目だけだったらワタシより若いんじゃない?」
「い、色々とあったのじゃ。あまり詮索せんでくれ……」
アメルダ先生は何故か表情を引きつらせつつそう応えます。
そんなどこか覚束無い先生の応対に、女性は平然とした態度を取ります。
「ふ~ん、わかったわ、別にどうでもいいし。だけどさ、なんでそうビクビクしてるの? なんか悪さをしたことを誤魔化してるように見受けられるんだけど?」
「!? ま、まさかの~ッ! 何かの勘違いではないかえ~?」
「へぇ、成程。今回の件は隠し通すスタンスで行くんだ。まぁ構わないわ、それでも。時間が経てば経つ程、アンタの立場が悪くなるだけだし。せいぜい、無駄な足掻きにでも勤しんでることね」
「ひゃうぅッ!?」
満面の笑みながらもドスの効いた女性の言葉に、アメルダ先生は震え上がり、あろうことか私めの背後に隠れてしまわれました。
まるで怯えた小動物の如く、足元をガタつかせる先生のことがどうにも不憫で、思わずこうお尋ねしました。
「この御方はどなたですか……? どうやら知り合いの様で御座いますが……?」
そんな私めの疑問を聞いた女性はハッとし、軽く自己紹介をなさります。
「おっと! そういやまだ名乗ってなかったわね。初めまして、お嬢さん。ワタシはサンディ。【神都】でちょっと名の知れている剣士よ」
パチリと片目ウィンクをするサンディ様に、アメルダ先生は眉を釣り上げます。
「ちょっとじゃと? 嘘を吹き込むでないわ」
「えぇー、別によくない? ほんとのこと言っても信じて貰えそうにないし。それに建前上は身分を隠しておかないといけないんだけども?」
「やれやれ、相変わらず難儀じゃの。自身のことを胸張って主張できぬのは中々にしんどいのでは無いかえ?」
「心配ご無用、もう慣れっこだし。それにもし正体がバレたら面倒じゃない? ワタシは<大魔女>であることを不用心に公表してるアンタ程、おおらかな性格じゃないのよ。アンタにはアンタなりの、ワタシにはワタシなりのスタンスがある。口出しは元より不毛よ?」
アメルダ先生の言葉をぶっきらぼうに突っぱねるサンディ様。
サンディ様の反論にどこか思う所があるのか、アメルダ先生はそれ以上の追及をしませんでした。
サンディ様は続け様に、先生との関係性を話して下さいます。
「ちなみにアメルダとは十年来の間柄で、ワタシが小さい頃からコイツのことは見知ってるわ」
「そうなのですか。ですが、あまり良好な関係とは感じられません。お二人は不仲なのですか?」
「最低限、アメルダはワタシのことを嫌ってはないんじゃない? さっきまで余所余所しい態度してたのは、今はちょっと間が悪くて、負い目を感じることがあるからよ。けれど、今も昔も天敵としては見られてんじゃない? だって、アンタの力を真正面から退けた数少ない強者な訳だし?」
「!? この娘の前でその話はせんでくれ! 妾の威厳がどうにも霞むでの!」
「いやいや、ワタシを怖がってそのお嬢さんを盾にしたし、日常生活の中でもみっともない所を散々見られてるんだろうから、今更威厳も減ったくりもないでしょ? ねぇ、お嬢さん?」
目配せでそう尋ねるサンディ様に、私めは無言の首肯を返します。
「お主よ! そこは嘘でもよいから妾を立ててくれねば困るでの!」
「うわー、無情~……。でも正直なのは良いことよ。お嬢さん、この<大魔女>の優位を取れるなんて滅多にないからとことんやっちゃいないさい。ワタシもワタシで、やっとこさアメルダより年上――見た目だけだけども――になったから、これからは遠慮なしでいかせて貰うわ」
「ぐぬぬ……お主が言った通り嫌悪感は抱いてはおらぬが、そういう捻くれた性格と物言いだけは前々から気に食わぬのぉ」
「そりゃそうよ。ワタシはアンタのこと、全く信用してないし」
するとサンディ様は『くれぐれも気を悪くしないでね』と前置きしつつ、厳しいお言葉を発します。
「正直ワタシはアメルダのことが大の苦手よ。けど、それは嫌いって感情じゃなくて、むやみやたらとベタベタしたいよう注意を払ってるだけ。だってアンタは得体の知れない<大魔女>でしょ? 変に隙を見せて背中を刺されたー!、じゃ洒落にならないもの」
サンディ様のどこか冷めた物言いに私めは困惑の色を見せします。
「では何故、そんなアメルダ先生の前に出向いたのですか?」
「理由は四つ。一つ目は、アメルダに対する処置についてはこのワタシが一任されてるから。現状コイツの抑止力になれるのはワタシだけ。だから、少しでもアメルダが関わっていた場合、ワタシが出張ることになっているの」
「まるで猛獣扱いじゃの……」
そう肩を落とすアメルダ先生を尻目に、サンディ様は話を本筋に戻します。
「んで、二つ目は形だけでも【コミティア】の様子を確認するためよ」
「! そういえばサンディ様が【神都】からの来賓だったことを失念しておりました。今から街をご案内しないといけませんね!」
「う~ん、張り切ってる所悪いけど、その必要はないわ。【コミティア】に対する【神都】の裁定は既に決まり切ってることだしね」
「? どういう意味ですか? もしや、サンディ様のお眼鏡にかなわない部分があったと?」
もしもそのような展開になってしまったら困るのは我々【コミティア】です。何せサンディ様率いる【神都】の方々が納得いく成果をお見せしなければ、【コミティア】に対する支援が途絶えてしまうからです。
「何か至らぬことがあるのならなんなりと仰って下さい! すぐに改善しますから」
どうにかしてサンディ様の不満を解消しようと躍起になりますが、サンディ様は『そんな面倒なことしなくていい』と一蹴なさります。
「! そ、そんなの納得できません! どうか……どうかもう一度チャンスを下さい! 私め達はこの日のために努力を惜しまなかったのですから!」
その言葉は私めの全身全霊を賭けた想いでした。そして、いつの間にか気持ちが許容範囲を超えており涙も出てしまいました。
そんな私めのみっともない姿を見てサンディ様はギョッとします。
「えぇ!? なんで泣くの!? ワタシ、なんも意地悪なこと言ってないんだけども!?」
明らかに動揺なさるサンディ様をアメルダ先生が咎めます。
「サンディよ、先の言葉は明らかに言葉足らずじゃぞ? 手際の鋭いお主のことじゃ。もう既に手配を済ましておるのじゃろ?」
「えぇ、その通りよ。【コミティア】への支援願いは申告済み。直に抱えきれないくらいの物資がこちらへ搬送されるわ」
「へぇ!? どういうことですか?」
サンディ様が仰った予想外の言葉に、私めは口をあんぐりと開けてしまいます。
サンディ様が仰るには、街の状況がどうあれ『【コミティア】の復興には目を見張る物がある。その功績と努力を讃え、【神都】は【コミティア】の救援要請を承諾するべきである』という報告書を事前にお作りになられ、それを【神都】に提出済みだとか。
それはつまり……?
「【コミティア】はこれまで以上の発展を遂げるということよ、お嬢さん――いいえ、エメルダちゃん。どうやらアナタのお陰で、予定よりも相当早く街の再建が進んだと聞くわ。きっとエメルダちゃんの力無しではここまで素敵な街に戻ることはなかった。よくその小さな身体で頑張った、偉かったわね」
そう言ってエメルダ様は左手で私めの頭を撫でて下さいます。その手から感じられるぬくもりは、つい数分前にアメルダ先生がやって下さったモノとはまた違う温かみでした。
(まるでポカポカな太陽の光に包まれているみたいです。それと一緒に涙も蒸発してしまいました……)
またもや、何だかこそばゆい気分になっているその時でした。
いきなり横からアメルダ先生が顔をお出しします。
「良い雰囲気の所悪いが、お主がエメルダを泣かせたことは根に持つからの」
アメルダ先生からジト目を向けられるサンディ様は、申し訳なさそうに手を合わせます。
「それはマジで悪かったって! けどこれで確信が持てたわ。事前調査通り、アンタは本当にエメルダちゃんのことを大切な家族として扱ってるんだ。何だか面白いわ、滅多に人を寄せ付けぬアンタがこんな可愛い子を娘として……それも金貨百万枚なんていう大金を払った上で迎え入れたんだからさ。これってどんな風の吹き回しかしら?」
まるでミステリー小説において犯人を問い詰める探偵が如く問いを投げかけるサンディ様に、アメルダ先生はあからさまに舌打ちを鳴らします。
「……白々しい態度は止さぬか? 全て知っておる癖に」
「そりゃ勿論。ぶっちゃけた話、ここに来た三つ目と四つ目の目的がそれな訳だし」
その後サンディ様が一つ深呼吸をすると、
「ッ!?」
一転してこの場の空気が張り詰め、途端に息苦しくなります。
そのせいで過呼吸に陥る私めをサンディ様が見つめます。
「まさかエメルダちゃん――<無魔力の忌み子>を利用し、ワタシの許可無くして<黒樺の杖>を強奪しようとは……。さらにそれはワタシをキレさせることを確信した上での行動だった。ねぇ、この落とし前どう付けてくれるの?」
この様に仰るサンディ様の目は全く以て笑っておりません。
(こ、怖い……)
先程までとは打って変わり、明らかな敵意を放つサンディ様の豹変振りに、私めの身体は恐怖に苛まれたのでした。




