【神都】からの来訪者
――魔力や魔術、魔法といった超常現象が今や当たり前となったこの世界で私めは<忌み子>として人々から忌み嫌われておりました。
なにせ私めはそんな世界において決して数は多くない魔力を宿さぬ<無魔力>の異端児なのでございますから。
また私めは、生きる厄災と評され、知らず知らずの内に周囲に不幸を撒き散らす悪魔でもありました。
(そのせいで私めはとんでもないこと……街に巨大な隕石を招き寄せ、街一つを跡形もなく消滅させることとなったのです)
ですが、そんな未曾有の危機であっても誰一人としてお亡くなりにはなりませんでした。
その奇跡に一役買ったのは魔女の中の魔女――<大魔女>アメルダ様でした。
(そんな隕石落下事件に一段落がついた後、アメルダ様は私めに”エメルダ”という素敵な名を授け、これから一緒に暮らすことを提案して下さいました。……こんな幸せを享受できるなんて、人身売買の場で売れ残り処刑されそうになっていたのが嘘みたいです)
何はともかく、いくつかの紆余曲折を経た私めはアメルダ様との共同生活を始め、未だ慣れない人生初の幸せを噛み締めつつ、約二年の月日が流れることとなりました。
その最中、私めは自分の責任を負うかの如く、降らせた隕石で滅茶苦茶にしてしまった街【コミティア】の復興に尽力し続けたのでした。
●
そして本日、その街【コミティア】にとってとても重要な出来事が起ころうとしておりました。
それを目の当たりにした私めは、緊張でソワソワとしてしまいます。
「うぅ~……失礼な態度だけは絶対しないようにしなければ……」
押し寄せる緊迫感に若干過呼吸気味の私めに、隣に立つ少女|(正確には違いますが)が声を掛けます。
「一旦落ち着くのじゃ。大役を任されて不安になる気持ちも分からなくはないが、そう重く考えるでない。相手はただの【神都】から派遣される視察団じゃ。別に粗探しをしに来る訳じゃないのだから、堂々としておれ」
その少女のお言葉通り、先の隕石落下事故で大きな傷を負った【コミティア】は約二年の歳月を経て、最低限の復興がなされました。
とは言えまだまだ発展途上なのも事実。少々生々しい話ですが、これから先の作業は今まで以上のお金や支援が必要不可欠となります。
【コミティア】のそんな救援要請に応えたのが先程出てきた【神都】――つまりこの世界における首都でした。
どうやらそこから【コミティア】の再建具合を確認する方が来られ、その願いを聞き入れるかどうかを判断なさるようです。
そして、そんな【神都】からの来訪者を直接案内する街の代表として、何故かこの私めが選出されたのです。
「ですが、もし私めが失敗してしまったらこの街の信用を無くすことになるのですよ? 仮にそうなって『【コミティア】には援助する価値無し』とされれば、皆様に多大なご迷惑が……」
「はぁ……相変わらず筋金入りのマイナス思考じゃの~」
少女は私めの内情を把握しつつも呆れた素振りを見せ、不意に頬をつねります。
「い、痛いです、アメルダ先生!」
「いつも言うておるが、そんな弱気でどうする、エメルダよ? まさかお主、この街は他人にお見せ出来ぬ程、酷い有様とでも言うつもりかえ?」
「!? そ、それは違います! この街は街の皆様で再び創り上げた立派な場所です!」
「そうであろう? にも関わらずそんな自信無さげな態度を見せてみい? それこそ、この街の再建に携わった者達を侮辱することに他ならぬぞ? そんなのお主の本意では無かろうに?」
「た、確かにその通りです……」
「なら自分のすべきことは自ずとわかるのではないかえ?」
アメルダ先生のどこか急所を突くような問いに、私めははっきりこう答えました。
「――少しずつでも元の姿を取り戻している街の素晴らしさを全力で伝え、私め達の頑張りを【神都】の方に精一杯お伝えすること、ですよね?」
「うむ、正解じゃ。やはりエメルダは自信ありげの表情をしていた方が似合っておるわい」
そう言ってアメルダ先生はいつも通りの優しい手付きで頭を撫でて下さいます。
「くすぐったいですよ、先生……」
何だかこそばゆい気分になっているその時でした。
「あのさぁ、来賓客を前にしてイチャコラしないでくれる?」
いきなり横から顔を出す人物が現れたのです。
そんな謎の人物の登場にアメルダ先生は目を見開きます。
「サ、サンディ!? どうしてここに? まさかお主が【神都】から派遣された人員であるか!?」
「ご名答。こう見えてワタシ、二年もの間アンタに会うのをずっと我慢してたのよ? その意味、わかってるわよね?」
にっこりと笑うサンディと呼ばれた人物とは対照的に、アメルダ先生は何とも言えぬ冷や汗を流しておりました。
(これ程までに焦っているアメルダ先生を初めてお見受けしました。この御方は一体……?)
突然の出来事に動揺した私めは、不安ありげな表情でサンディ様とアメルダ先生をただ見つめることしかできないのでした。




