全力全開!!!!!
※当第十四話『全力全開!!!!!』における一人称は<忌み子の少女>ではなく、<大魔女>アメルダ視点となります。その点、理解の上お読み下さるようお願いいたします。※
これこそ正に『ヒーローは遅れてやってくる』という奴かの? ……いや、そんなカッコ良くはないか。どちらかと言うと九死に一生、はたまた危機一髪ではなかろうか?
兎にも角にも、あまりにもドンピシャ過ぎじゃ。もう少し到着が遅くなっていたらと思うとゾッとする。
「アメ……アメ……ッ!」
もっと上手く立ち回りたかった、と脳内反省会をしている妾の後ろで<無魔力の忌み子>が大粒の涙を流しておった。
妾はその少女の頭を少し強めに撫で回してやる。
「すまぬが、感動の再会は後回しで頼むでの。まずはアレをどうにかするのが先決じゃ」
妾は少女が大切に握る<黒樺の杖>をひょいと彼女の手から抜き取らせて貰う。その時<黒樺の杖>から一気に力が流れ込んできたのじゃ。
「これが妾の手に戻るのは何年振りかのぉ~? やはり本来の力を無理矢理抑圧するというのは身体に毒であるな」
今正しく体内を巡る魔力こそ、妾が持ち得る本領であった。じゃが元々の魔力が戻ったとはいえ、まだ馴染んではおらぬ。少しばかり肩慣らしが必要じゃな。
「……そういうことなら、まずは手始めにあの隕石を豪快に吹っ飛ばすとするかの。それくらいが力の調整に丁度良いわい」
妾は細く長い<黒樺の杖>をクルクルと回し、それと同時に魔力を練り込む。そして杖を居合斬りの要領で構え、”魔術”詠唱を始める。
「”空間を司るマナよ、我に次元をも切り裂く力を与えたもれ”」
その後、迫りくる隕石を<黒樺の杖>で下から上になぞりつつ、
「――”次元斬”」
と、短く奥義の名を呟いた。
……その刹那じゃった。常人なら絶対に壊すことが不可能な隕石がパックリと二つに割れおった、空間毎の。
「うぉ!? こりゃまた綺麗に分断出来たのぉ~。我ながら、凄まじい力じゃ」
自分でやっておいて何じゃが、久方振りの本気に妾は驚いてしもうた。
(少々弱体化をしてしまったからどうなることかと思ったが、どうやら杞憂だったみたいじゃの~)
そう思いつつ妾は幾分か縮こまった身体をペタペタと触る。
一度身体を崩壊させその再生をしておったが、どうにも少女の安否が気になり途中で切り上げてしもうたせいで、完全復活とはならなかった。
その結果、従来の二十後半~三十歳だった身体は十代後半程度まで若返ることとなった。その影響で運動能力は軽々しくなったとは言え、その代わりに魔力量はだいぶ落ち込んでしまい、それが気掛かりで仕方なかった。
何せ”魔術師”からしてみれば、身体的スペックは”魔術”でどうとでもドーピング可能な為、どちらかというと魔力が弱まる方が深刻だからの。
(……つくづく妾はチート級の力と才能に恵まれておるな。いきなり<黒樺の杖>を使うことなったが、先の一回で完全にコツを掴んでしまった。この分ならこれから来るであろう脅威にも対抗出来そうじゃ)
妾は肩を回し遥か上空の夜空を見上げる。
それに釣られ、妾と同じ場所を見つめる少女の顔が一気に絶望感漂う物となる。
「流……星……群……」
少女のその呟き通り、数えるのも億劫になる程の隕石群が宙から舞い込んで来よった。
何故こんなにも大量の隕石が降り注ぐのか? それには思い当たる節があった。
「本当なら今日辺り<流星祭>が行われる筈だったのじゃろうな。<流星祭>当日は百を優に超える星々が流れる。それが全部、其方に吸い寄せられたみたいじゃの」
「!? ご、ごめ――」
「そう反射的に謝るでない」
相も変わらずネガティブ思考に陥る少女の頭をポンポンと叩く。
「なぁに、何の問題もあらぬわ。この事態も想定内じゃからの」
「そ、それでも……あれは流石に……」
「おいおい、まだ妾のことを信じ切れておらぬのか? それは少し悲しいのじゃ~!?」
妾は若干わざとらしく泣いた振りをする。
とは言え少女の不安も分からなくもない。じゃが、彼女にそんな顔をさせるのは不本意じゃ。そういうことならいっそのこと、ドカンと良い所を見せ付けてやるかの。
「其方は安心して妾の後ろに隠れておれ。これから見せる妾の力に度肝を抜かれるでないぞ?」
妾は少女を背後に隠し、身体に溜め込んだ魔力を一気に放出する。その拍子に足元に巨大な”魔術陣”が刻まれ、空気が一気に張り詰めた。
「――ただの無機物風情が調子に乗るで無いわ……ッ! この<大魔女>アメルダが全力全開を出すからには塵も残らぬと弁えろ……」
ドク……ドク……と”全てを破壊する魔力”が血液の如く全身を駆け巡り、それと同時に清々しい高揚感に駆られた。
(いやはや……妾はとんだ狂人じゃの。こんな、一歩間違えれば只では済まぬ修羅場に立っていても尚、心が踊っておるのじゃからな)
「クフフ……」
全く笑いを止められぬ妾はもう完全に開き直り、いっそのことこの状況を楽しむことにした。
そんな妾は満面の笑みで杖を振るい、続々と押し寄せてくる隕石をぶった切っていく。
そして、妾の妾による妾の為の一方的な蹂躙は、夜が明けるまで終わらなかったのじゃ。




