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”円卓”

 【コミティア】から汽車に乗り揺られること約三時間程。(わたくし)めは世界の首都たる【神都(しんと)】の地に立っておりました。

 感覚的に神聖な気配が漂っている様な【神都】の空気をゆっくりと吸い込みます。


「一応<四大精霊>の問題解決を報告することを想定していたとはいえ、まさか【神都】に二度訪れることになるなんて夢にも思いませんでした」

「そう? 別にそんな特別な場所じゃないでしょ、ここはさ。ワタシとしちゃ、ただの形だけご立派な張りぼての都にしか見えないわ」

「ほーれ、サンディや。そんな罰当たりなことを漏らすんじゃないさね。もしそれが<万象の始祖>様の耳に入ったらどうするさね?」

「そうよ、そうよ~。下手をすれば()()()()()()されてしまうわ~」

「あのねぇ、そんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話を信じろって言うの?」

「? 御三方、一体何の話です?」


 どことなく蚊帳の外感を感じ取った私めの素直な疑問に<聖母>マリアンヌ様が応えます。


「ここ【神都】にはちょっとした噂話があってさね、不敬や犯罪を犯した者が突如としてその行方をくらます現象が度々(たびたび)起こるさね」

「しかも不思議なことに、その人物がどういった者かすら思い出せない怪奇現象付きでね~。だからこそ人知れず消えてしまうからこそ、(まさ)しく神の手によって存在そのものを抹消された、読んで字の如く”神隠し”と(ひょう)しても差し支えないわ~」

「え? それって……?」


 存在そのものの抹消。その話を聞いて思い浮かべられる人物がお一人いらっしゃいます。まさか、()()()はその影響を……? いや、まさか……。

 ふととある女性のことを考え、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていると、サンディ様は呆れ顔で肩を(すく)めます。


「ほら、見てみなさい二人共。エメルダちゃん、困惑しちゃってるじゃない?」

「そ、そういう意味で唖然(あぜん)としていたのでは……」

「あ~、いいのいいの、遠慮しなくて。逆にそういうのに過剰にビクビクすること自体が相手――<万象の始祖>とやらの思う壺になるもの。ワタシは絶対にそんな権威に屈するつもりは無いわ」

「その<万象の始祖>というのは?」

「平たく言えば、この【神都】を一から造った<神>ね~。そしてそれと同じくして、我々”円卓”の第一席に座する人物よ~」

「”円卓”、ですか?」


 詳しいことは知らなくても、一度だけその単語を聞いた覚えがあります。確か<四大精霊>の問題を見過ごせない構成員のことを指すんでしたっけ?

 私めの疑問顔にマリアンヌ様が補足を付け足します。


「”円卓”。そりゃ(そなわ)ち、【神都】の運営と管理を一任された選りすぐりの十人のことを指す言葉さね。お察しの通り、<聖母>こと(わし)・<陽光の剣士>・<大賢者>、そして先に話題に出た<万象の始祖>の他に六人、同じ様な強者がおるさね」

「ちなみにアメルダも元構成員だったのよ。序列的に、バァさんの下に当たる第四席だったかしら?」

「何となく一席には<万象の始祖>が座っていると考えられますが、あの先生(師匠)やマリアンヌ様ですら第二席ではないのですね」

「序列の基準は単なる力の優劣だけを現す指標ではないわ~。どちらかというと世界に対する影響力――第二席の場合は、滅多に表舞台に姿を現さない第一席の代理人みたいな感じ(ゆえ)、その位置にいるのよね~」

「それもあるが、一番彼女が重要視されているのは、【神都】の中で流れる基金をほぼ一人で調達してる点さね。やはり財政支援を一手に担う者の声は無視出来ないさね」


 もっと詳しく話を聞くと、その第二席の方は【神都】にある教会の<総司祭>をなさっているらしく、【神都】内外関わらず多くの人から(あが)(たてまつ)られるのだとか。

 そんな人も”円卓”の一員なのかと感心していると、サンディ様は一言忠告をしてきます。


「要は、”円卓”に集結してる連中は全員腹の中に 一物(いちもつ)蓄えてるってことだわ。例えば一人は海の略奪者。例えば一人は遠い東の島出身の奇術師。例えば一人は人ならざる耳長族の長。例えば一人は新人の全身鎧の騎士。例えば一人はたった一度も”円卓”会議に参加していないそもそもいるのかすら不明な謎だらけの自称<呪いの子>。――エメルダちゃん、今の内に覚悟をしておいて。これからアナタが会って、話を付けないといけないのは、そういったヤツ等よ」


 サンディ様の念押しに生唾を飲み込みます。

 話を聞いているだけでも足が震え上がりそうですが、ここに来て引く訳にもいきません。


(サンディ様が以前言っていた通り、私めは<四大精霊>の主従契約者。もう既に世間にとって無視出来ない存在に違いありません)


 ふと目を閉じ、左親指の<集いし四霊力の指輪フォース・オブ・ザ・リング>に意識を集中させ、その中に宿る<四大精霊>達の顔を思い浮かべます。

 想い通り、(まぶた)の裏にディーネ・ノムゥ・ルフ・フーリの姿が現れ、彼女達は同時に首を縦に振ります。

 それを見遣(みや)った私めは、


「――問題ありません。私めはもう一人ではないのですから!」


 (エメラルド)色の瞳を力強く輝かせ、一歩を踏み出すのでした。

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