口の悪いギャルがババアと子供を泣かす話
「バカじゃん!死ねよ!!」
(ああ。姉さん。あんたどんな教育したらこんな子に育てられるのよ?)
焼き鳥屋の店主の和子は久しぶりに会った姪のジュリを宇宙人を見る目で見ていた。
ジュリはロングの金髪にサングラス。長いつけまつげ。舌ピアス、この季節にヘソだし短パン。その上から高そうな毛皮のコートを羽織っている。
「てめぇ!どんな教育受けてきたんだぁ!?」
ジュリと言い合いになっているのは近所の主婦とその子供。和子は心のなかで二人を『ババアとクソガキ』と呼んでいる。
「おめーのガキよりはろくな教育受けてんよぉぉ!」
「ふんぎゃあぁぁぁ!」
でっぷりと太ったクソガキは人目をはばからず泣いている。もう小5だというのに恥ずかしくないのかと和子は思う。
和子はこの二人に『たかられて』いた。
始まりは店の開店初日。和子は焼き鳥5本のセットを近所の住民何人かに配った。
その何人かに二人はいた。
『まずは味を知って貰おう』としたサービスだったが、それ以来週に二度店にやって来ては『子供がとっても美味しいって喜んでぇ~。ねぇ~?』と言ってお代を払わず焼き鳥を持っていく。
一度お代を払って貰おうと『あの。お代を』と言うと『子供がねぇ~』『子供がどうしてもってぇ~』『子供の笑顔って何よりの報酬よねぇ~。お金じゃ買えないわよねぇ~?』と子供を盾にし結局金を払わない。
今日もタダで焼き鳥を持って帰ろうとした所をジュリが引き止めて喧嘩になった。
「だーかーら!ガキだろうとババアだろうと関係ねーっての!おばちゃんの焼き鳥タダで食ってんじゃねーぞ!」
ああどうしよう。と思いながらも和子は心の中でジュリに拍手を贈っていた。
胸がスーっとする。
「てめぇ!子供が飢えてもいいってのかよぉ!?」
「おめーの責任だろーがー!親子でデブのくせに!」
(いいわ。もっと言いなさい)
「焼き鳥だべだぁぁい!!」
「ほら見なさい!この子供のピュアな涙が見えないの!?」
「るっせーな!今の内に無料と有料の区別ぐらいつけさせろ!おからと豆でも食わせとけや!」
(素晴らしい!)
「週に二回ぐらいいいじゃない!」
「あぁん!じゃあてめぇ。これから一生週二回680円あーしに寄越せよ!?」
「なんでそんな酷いことするのよ!?」
「それをてめーらが今やってんだよ!」
「くぅぅぅ!……あなたはどう思うの!?お客に対して何なの!?この子!」
油断していたところを急に振られて和子は少し動揺してしまったが、ジュリに十分すぎる勇気を貰った和子は凛として答えた。
「お金を払わない人をお客とは呼べません。これまでの焼き鳥代は請求致しませんが、今後当店の焼き鳥を召し上がりたい場合正規の料金をお支払い下さい。でなければ無銭飲食で警察に相談させていただきます」
「ふんぎゅぅぅぅ!?」
自分でも信じられないほどスラスラと言葉が出て来た。
『警察』という言葉が余程効いたのか親子は
『人でなし!』『ケチンボ!』と捨て台詞を残して去っていった。
ジュリは親子の背中に向けて中指を立ててその後
親指で地面を指した。
「10キロ痩せてからまた来いっ!ヴァァァァァァァァァカァァァ!!」
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「……おばちゃん。ごめんねー」
怒りが収まり正気に戻ったジュリは居間でションボリとうなだれている。
その姿を見て和子は幼い頃のジュリを思い出していた。
「一回怒ると止まんなくてさー。お店に悪評とかつかない?ヤベーよぅ」
和子は黙って焼き鳥を焼いてジュリの前に差し出した。
「?」
「お食べ。今日はありがとう。スッキリしたわ」
「……おばちゃんサンクス!」
嬉しそうに焼き鳥を頬張る。見た目は派手なのによく噛んでゆっくり食べるのが微笑ましかった。
「お金払うね」
「えっ?サービスよ。姪っ子からお金なんて……」
「いいから!」
唐草模様のがま口から小銭を取り出して渡してきた。
「良い物にはお金を払う!常識じゃん!私はコミケでこれを学んだの!」
(姉さん。あんたい~~い教育したわねぇ。すごくいい子に育てたわねぇ。うん?)
「……コミケって何?」
「ひゃばっ!?」
ジュリは顔を真っ赤にして手足をバタバタさせた。
がま口をまだ閉じていなかったので小銭がバラバラと地面に落ちた。