祭るが祭らず
なし崩し的に参加することとなった学祭ではあるが、いざ参加してみると想像以上に浮足立って驚く。サークルの数だけ出店やイベントがあり、サークル参加していない学生たちも中央広場のステージでバンド演奏やらミスコンやらで盛り上がる。この一瞬にかける者たちの熱意が様々な形で一か所に集う光景は、なるほど、学祭ならではの雰囲気なんだろうと思う。
芦屋さんの演劇は第二体育館で17:00から公演予定となっている。それまでの間、俺たちは大盛況のキャンパスを5人で巡ることとなった。
「えっへへー、大河っちとデートだ!」
「なっ、ま、舞華! なんで大河と腕組んでんだよ! つーかアタシたちも居るんだからデートじゃないだろっ!」
「えー? 別に私が大河っちと何しようと、リサっちには関係なくなーい? リサっち魔女なんだしぃ」
「そ、それはそうだけど、常識的な距離感ってモンがあるだろ……!」
一言で表すならば、再び集った俺たちの空気はカオスであった。ブレーキが壊れた舞華がベタベタと俺にくっつき、周りの3人がやいのやいのと大騒ぎ。キャンパス全体が騒がしいおかげで悪目立ちしていないのが不幸中の幸いである。
「ま、舞華、そ、その、あ、当たってるから……少し離れてくれないか……?」
「えー! そりゃあ当たるに決まってんじゃん。当ててるんだもん」
「おっほう、会話が成立しねぇ」
あえてナニとは言わないが、ふにふにと右腕に当たっているのは慎ましやかな双丘。小さくとも柔らかなソレは確実に俺の理性を刺激して止まない。うむ、白状しよう。そろそろ限界である。
「だ、誰か、お助けを……」
「あ、そっか。最近なにかとスマートなムーブが多いから忘れてたけど、大河くんって童貞だもんね。なるほど。変に駆け引きするより直接的なスキンシップの方が効果的……?」
「ねぇ、千春さん? 現状を分析しながら俺を傷つけるのやめてくんない? どういう感情になればいいの?」
「あ、ごめんごめん。じゃあ、お詫びに……えいっ」
瞬間。今度は左腕にむぎゅりと重みのある弾力がのしかかった。
「ちょ、ちょ、千春さんまで何してんの!?」
「んー、あえて言うなら実験、かな? 普段やらないことをやったら大河くん、どういう反応するかなって」
「ええ、はい、そうですか。では、小生の表情をご覧ください。こういう反応になります。はい、実験終了。離れてもらってオーケー?」
「…………やだ」
「いやなんでよ!?」
祭りのムードとはこうも人を狂わせるのだろうか。おっぱい。
両腕を包み込んでいる弾力に全神経が持っていかれて歩けそうにない。おっぱい。
いやしかし、まだ理性は残っている。ここを耐えれば、芦屋さんの晴れ舞台を拝めるんだから。次回、『我が理性死す』。デュエルスタンバ──
「だあああ、もうっ! いつまでやってんのよアンタたち!?」
などと思考が崩壊しかけていると、見兼ねたリサが舞華と千春さんを引きはがした。
「ぶーぶー、なにすんだよリサっちー。せっかく良い感じだったのにー」
「そうだよ。せっかく人が勇気振り絞って、らしくもないアピールしてたのに」
「いやいや、冷静に考えなさいよ。混雑してる中、道の真ん中に三人で立ち往生してたらフツーに迷惑だっつー話」
「えぇー、ホントにそれだけかなぁ? 大河っち盗られてイヤだったんじゃないのぉ?」
「べ、別に、そんなんじゃないし……」
「まあ、なんにせよ助かったぜリサ。あのままじゃ色々ヤバかったからなおっぱい」
「アンタはもう少し頭冷やした方が良さそうね……」
バカバカしいやりとりを繰り広げ、祭りの空気に当てられているだけで結局どこも回れやしない。たとえ一人が魔女バレしようと、一人が魔女をやめようと、関係が変わり始めていようとも。みんなで居る時だけは、案外出会った時とそう変わっていない俺たちで。
それが良いことなのか悪いことなのかは、分からないけれど。
「ふ、ふふふ……あはははは! なんかこういうの、久しぶりですね?」
沙耶が久しぶりに心から笑っているような気がしたから。
今日のところは、全員でバカをやるのも悪くないんじゃないかと思った。