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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第四章 わたしのホンモノ
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明晰夢

 夢を見ている時に『これは夢だ』と自覚する。その現象は、明晰夢と呼ばれるらしい。


 おそらく、俺は明晰夢を見やすい体質である。昔から『あの子』の夢ばかり見てきたのだから、確信を持って、そう断言できる。


 それに今だって、明晰夢を見ている最中なのだ。


 魔女ハウスでの思い出が、ドキュメンタリー映画のように眼前で再生されてゆく──朧な意識の中、そんな夢を見ている。


「ふぁー……あ、おはようございますです、岩崎大河さん。具合の方は大丈夫ですか?」


 そういえば、最初は芦屋さんが毛布の中に居て、すっげぇ驚いたんだっけ。


「あー、うん。アタシは魔女だよ。もう隠すのも面倒だし言っとくね」


 はぁ。リサはいきなり夜這い仕掛けてきて、シェアハウス始まってすぐに魔女宣言しやがったなぁ。うん、これも驚いた。


「ふんふふーん♪ 岩崎っちとお勉強〜♪」


 舞華は舞華で、勉強会とか言いながらなんやかんや誘惑してくるし。


「大河さんは、私とデートに行くのは嫌ですか……?」


 沙耶は大人びた見た目の割りに、時々恥ずかしそうにしてる仕草とかもあったりする。一緒に居ると、結構ドキッとして困る。


 思い返すと、本当に心休まらない日々だった。


 正直、この生活が始まった時は不安しかなかった。金目当ての美女軍団に紛れている『あの子』を探し出すなんて、簡単にできることじゃない。最初は五人のことを疑ってばっかだったし、希望なんて持てやしなかったさ。


 けど人間ってのは不思議なもんで、どんな状況にも適応していく。こんなフザけたシェアハウスだってのに、俺は気づけば五人との生活に慣れていった。


 リサとは海の家で派手に喧嘩した。なんとか和解して、まあ結構仲良くなったつもりではある。今や俺の相棒であり、勝手に親友のような関係になったと思っている。


 沙耶とのデートは、調理用具の専門店に行った時のことをよく覚えている。沙耶には兄弟が大勢いるのだと聞いて、家族のために料理を作っていたから、沙耶のメシは美味いのだと知った。正直、岩崎家の調理師よりよっぽど料理が上手いと思う。


 芦屋さんは、いつでもどこでも元気いっぱいだ。俺だけじゃなく、魔女ハウスの住人みんなが彼女に癒されていると思う。正直、芦谷さんが魔女だったら俺は超泣く。涙で大洪水を起こし、涙の海で溺死する。


 千春さんはミステリアスで、まだ人柄を掴み切れてない部分もある。料理と運転が超下手で、星が大好きなお姉さん。今俺が抱いているイメージはそんなもんだが、まだ俺が知らない一面もあるような気もしている。


 舞華のことは、ぶっちゃけ最初はクソビッチなんじゃねぇかと思っていた。なんか見た目軽いし、ボディータッチ多いし。けど……共に過ごすうちに、少しずつ軽薄なイメージは無くなっていった。なんとなく、魔女ハウス生活の中で一番変わったのは舞華のような気がしている。


 まあ、前よりは五人のことが分かったのではなかろうか。


 じゃあ、俺自身はどうだろうか。こうして明晰夢の中で思い出を反芻して、彼女たちへの印象を再確認して。その上で俺は、どんな感情を抱いているのだろうか。どんな気持ちになっているのだろうか。


 もうじき、この夢は覚めるのだろう。そして彼女たちとの日々も、いずれは夢のように終わっていく。ならば全てが終わる時、俺はどんな決断を下しているのだろうか。仮に彼女たちの正体が分かったとして、俺たちはどんな結末を迎えるのだろうか。


 なんてことを考えたところで、未だ先行きは予測不能。結局のところ、今後俺たちがどうなっていくのかなんて、どうあがいても分かりやしない。


 しかし、一つ確実に言えることはある。


 女に騙されやすいバカだって思われても良い。お人好しのマヌケだと思われてもいい。それでも、一つだけ俺は確信できるのだ。


 ああ、そうだ──


「大河!」


「大河っち!」


「大河さん!」


「岩崎さん!」


「大河くん!」


 ──この先何が起ころうとも。きっと俺は、彼女たちを嫌いになれない。


 そう結論付けた瞬間、走馬灯のような夢は終わり、俺の意識は現実へと戻ってゆく。


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