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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第四章 わたしのホンモノ
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君と出会ったから

 手紙の差出人に、心当たりがないわけではなかった。


 思えば、これまで私は人から恨まれるようなことばかりして生きてきた。『男が苦しむ様を見たい』なんていう、勝手が過ぎる自分の欲求に従って、その結果何人もの異性を傷つけてきたのだと思う。私のことを恨んで、今回の行動に至る人が居てもおかしくない。


 このシェアハウスが始まる前は、誰がどんなに苦しもうと私には関係ないと思っていた。どうせ世界には見た目ばかりで私を判断して、下心を持って近づいてくる男しかいない。私のことを知りもしないくせに、嫉妬してくる女しかいない。だから、彼らにかける容赦なんてない。そう、思っていたから。


 でも、魔女ハウスの皆と出会ってから、それが間違いであると気づかされた。大河っちはもちろんのこと、他の四人だって、私と仲良くしたって何の得も無いのに、友達としてたくさんの思い出を作ってくれた。


 如何に私が今まで偏見を持って、勝手に『誰も本当の私なんか見ない』なんて決めつけて生きてきたのか。それを思い知らされた。


 誰も本当の私を見てくれない。今まで、私はそんな文句ばかりを並べていた。でも、誰も私を見ない原因は、紛れもなく私自身にあったんじゃないかと思うようになった。


 だって私は今までずっと、誰かのことをちゃんと見ようなんて思わなかったんだから。


 誰かに見て欲しいなら、まず誰かのことを見ないといけない──魔女ハウスで過ごすうちに、私はそう考えを改めた。


 だから、人の気持ちが少しだけ分かるようになった今の私には、現状がはっきりと理解できる。まさに今、私に恨みを持った誰かが、私の周囲を巻き込んで、私に何かしら復讐をしようとしているのだろう、と。


 本音を言えば、そりゃあひどいことなんてされたくないよ? でも、私は今まで誰かにひどいことばかりをしてきたから、そんなことを言う資格は無いっていうのも事実で。だから、私が何かされるのは、まあ甘んじて受け入れなきゃいけないんだと思う。いや、マジでチョー嫌ではあるんだけど。


 ──でも、魔女ハウスのみんなは絶対に巻き込むわけにはいかない。


 色んなものをくれて、私の間違った考えを変えてくれた。そんな五人に迷惑をかけることだけは、絶対にあっちゃいけない。


 隠し事だらけの私たちだけど、きっと過ごした日々は本物だから。その輝かしい思い出を、汚すのだけは絶対にイヤだから。


 私は、一人で私の罪と向き合わなきゃいけないんだ。



 不審な手紙が来てから、明らかに私の生活は変化を遂げた。


「っ……また来てる……」


 毎朝毎朝、同じ手紙が届く。それをみんなにバレないよう回収する日々。


「……誰かに、見られてる?」


 街を歩いてる時、どこからか視線を感じる。でも、一体それが誰なのか分からない。そんな、悶々とする日々。


 直接的に危害を加えられるわけじゃない。でも、常に何か起きるんじゃないかという不安を感じて、それを誰にも打ち明けられなくて。


 一時も落ち着けない、精神的疲弊が積み重なる日々が続いた。


「どうした、舞華? 何か悩み事か?」


「えっ? あ、いやっ! 全然大丈夫っ! 個人的に、ちょっとアレなだけで! 全然大したことないから!!」


 そして、最近は平静を装えなくなってきて、大河っちを心配させてしまったりもした。


 あはは、君にはずっと、笑顔だけ見せるつもりだったんだけどなぁ。



 そして迎えた今日、大学の授業を終えた放課後。


 今、私はかつてない危機感を抱いていた。


「……ぜったい、つけられてる」


 視線を感じるとか、そのレベルじゃない。魔女ハウスまでの帰路、人通りの少ない道に入った途端に、背後から足音が聞こえ始めたのだ。


 ザッ、ザッ、ザッ。


 靴が地面を踏みしめる音が、私の歩行ペースに合わせるように耳に入ってきて気持ちが悪い。


「早く……早く、帰らなきゃ……」


 歩幅を広げる。足の回転を早める。


「っ……」


 それに合わせるように、背後の足音も加速し、距離が更に縮まったように感じる。


 助けて。大声で、そう叫ぼうとする。けれど、恐怖で喉が委縮して全く声が出せない。足が震えて、全然身体が前に進まない。


「ふーっ……ふーっ……!」


 背後から、荒れた息の音が聞こえてくる。間違いない。どう考えても、誰かが私を狙っている。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ──


 でも、怖くて、もう身体が動かない……!


 大きな気配を、背中のすぐ近くに感じる。瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れる。


 あはは、絶対に許さないって言われてたしなぁ。もしかしたら私、死んじゃうのかなぁ。


 恐怖でワケが分からなくなって、諦観と悲観が混じり合ったような感情を覚え始める。


 そうして、気力も体力も無くなって、足が止まりかけた瞬間──


「──おい、そこの怪しい兄ちゃん。一旦止まりな」


 泣きそうになってた私の前に、大河っちが現れた。


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