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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第四章 わたしのホンモノ
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君と出会うまで

 ──きっと、これから起きる最悪な出来事の元凶は、自分に酔い過ぎていた私なんだと思う。



 なんというか。幼稚園に居た時から、なんとなく自分がかわいいんだろうなっていうのには、気づいてた。


「ほら、舞華ちゃん! こっちこっち!」


  男子は、やたら私と手を繋ぎたがるし。


「うぇーい! 峯岸パンツ丸見え―!」


イジワルな子にはスカートをめくられたりなんかして、よくイタズラもされていたから。


 身も心も成熟する前に、私は自分の容姿が優れていると悟らざるを得なかった。


 けれど、綺麗な顔立ちに反して、どうも私の性格は最初から歪んでたみたいで。随分と幼い頃から、私は「かわいい自分」を利用して楽に生きようと思い始めていた。


「あ、どうしよ~! 教科書家に置いてきちゃった~!」


 例えば、小学生の頃。忘れ物をした時に、大きな声を出してみたりする。


「へ、しゃあねぇな。じゃあ俺の貸してやるよ。俺、教科書とかなくても授業余裕だし?」


 すると、どうだろう。カッコつけたがりの男の子が、私に教科書をプレゼントしてくれる。


「あれ、ここどうやって解くんだっけ~?」


 例えば、中学生の頃。あんまり頭は良くない私だけど、分からない問題があったって全然ヘッチャラで。


「はぁ、峯岸ってほんと物覚え悪いよな。しゃあない、俺が教えてやるよ」


 だって、「分かんない」って言えば、秀才くんが解き方とか良い勉強法まで教えてくれたから。


 そうやって、私はあざとく上目遣いをしたり、首を傾けたりしながらカンタンに生きてきた。


 人生なんて楽勝じゃん。そう思うようにさえ、なっていた。


 けれど、高校生の頃。イージーモードの人生を過ごしてきた私は、初めて挫折を経験することになる。


「ごめん舞華。俺、好きな人できたから。お前とはもう付き合えない」


 そう。私は初めて、男の子に拒絶されたのである。


 中学生の時くらいから周りの子が彼氏を作り始めていたから、なんとなく周囲から浮くのも嫌で、私も告白してくる男の子をテキトーにOKして、何度か彼氏にしたことはあった。


 でも、向こうから別れを切り出されたのは、その時が初めてだった。


「え、えっと……なんで? 私、なんか嫌なことしたっけ?」


 自分で言うのもなんだけど、私は学年で噂になるくらいには人気があった。私をフってまで他の子と付き合うなんて、正直理解できなかった。


 だから、なんだか負けた気がしたのが悔しくて、私は彼にそう問いかけたのだ。


 別に、彼を本気で好きだったわけではないけれど。


「いや、別に舞華が嫌ってわけじゃないんだ。お前は十分可愛いよ。でも、なんか……」


 ──そして、彼が放った次の一言が、私のねじ曲がった性格を、更に歪ませることとなる。


「俺、お前に飽きたんだ」



 それ以降、男を利用して生きてきた私は、男を陥れることを目的に生きるようになった。


 飽きた。彼のたった一言は、私をそうさせるまでに衝撃的だったのだ。


 お前は空っぽで、かわいい「だけ」の女だから飽きる。そう言われたような気がして……とにかく、腹が立った。


 何が空っぽだ。アンタたち男だって、頭空っぽにして私にすり寄ってくるだけのくせに。顔だけ見て、私の中身なんて見てないくせに。かわいけりゃなんだっていい、欲望に従うだけの獣のくせに──


 彼への怒りは、やがて異性全体への憎しみへと変わっていった。プライドが無駄に高い私は、とにかく自分が否定されたことを認めたくなかったのだ。


 そんなこともあり、大学に入ってからの私は、やがて男を好きにさせてから盛大にフることに快感を覚えるようになった。テニスサークルに入ったのも、大学デビューを目論んで彼女を作ろうと息を荒げている男子が多かったからだ。少し優しくするだけでコロっと落ちるから、惚れさせるのは簡単だった。


 そして、こっぴどくフった時に見せる彼らの泣き顔を見るのが、とにかく気持ち良くて仕方が無かった。ふふ、我ながら、本当に最低最悪の性格だよね。


 そうやって、歪み切った大学生活を過ごすこと二年。なんの前触れもなく、私に再び転機が訪れることとなる。


「失礼、そこの麗しいお嬢さま。少し、老いぼれの話を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」


 原宿でスイーツを堪能して、帰ろうとしていた道すがら。突然、私はスーツ姿の老人に声を掛けられたのである。


「えっと、私に何か?」


 芸能事務所のスカウトかな? 容姿に自信がある私は、最初そう思った。


「私は岩崎グループの執事、秋山正司と申します。ええ、とても美しい貴女に折り入ってお話があるのですよ。なに、怪しい者ではありません。ほら、こうしてちゃんと名刺も持ってます」


「え? な、なんなんです? ていうか、岩崎グループってあの岩崎グループ!?」


 そして、直後。いきなり日本トップ企業の執事を名乗った彼は、狼狽える私に、思いもよらない言葉を投げかけてきたのだ。


「ええ、その岩崎グループです。そして突然ではありますが、貴女には御曹司──岩崎大河に接近していただきたいと考えています」

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