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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第四章 わたしのホンモノ
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急転

 状況を整理しよう。

 

 夏休みが明け、新学期。先日までの猛暑が嘘だったかのように肌寒い風がひゅるりと頬を掠め、道行く人々の袖が伸び始める季節。黄や紅の葉が踊るように散る中、我らの住まう魔女ハウスには、変化の兆しが見え始めていた。


 能天気金髪ギャルこと、東条リサは変わらず普段通りだ。しかし他の四人──芦屋凪沙、漆原沙耶、音崎千春、漆原沙耶──は、ここのところ浮かない表情を見せているように感じられる。彼女らの真意は未だ定かではないが、各々が口に出せない悩みを抱えているような気がするのである。あくまで「気がする」だけではあるのだが、彼女たちとは今や切っても切れぬ関係になってしまったため、「気のせいだろう」と簡単に割り切れないのがどうにももどかしい俺である。


 特に、舞華の様子は深刻だ。


 歪な同居生活が始まって以降、いつだって悪戯な笑みで俺の心を惑わせ、常に余裕の表情を見せてつけてきたはずの彼女。だというのに、ここ最近は明らかに顔色も表情も優れないときた。とってつけたような微笑と、気の抜けた生返事を返すばかりで、本来の彼女は彼方に消え去ってしまっている。舞華の周囲で何か起きているというのは、ほぼ間違いないだろう。


 本人は「だいじょぶだいじょぶ」の一点張りだが、リサ曰く女が言う「大丈夫」は大丈夫ではないらしい。なので現状、大丈夫ではないと思うことにしている。なんだかんだで、俺はあのギャルの言葉をすんなりと信用してしまっているらしい。


 しかしながら困ったことに、なぜ舞華の様子が急変したのか俺には皆目見当がつかない。リサとストーキングまがいのことをしてまで舞華を観察してはみたものの、収穫はほぼゼロ。なんとなく舞華の周囲に怪しい男の影が見えるような気はしたものの、その男が舞華を悩ませていると断定できるほどの情報が得られているかと言えば、それはノーである。加えて、これ以上舞華観察を続けようものなら今度は俺がストーカーの変態認定されかねないため、迂闊に調査を続けるわけにもいかない。正直、八方塞がりである。


 そんなわけで、猫の手を無理やり引っ張ってでも借りたい今、この現状。俺は付き人のような幼馴染のような、さらには女のように見えて男のようにも見えなくない容姿をしているグレーゾーン白髪ハーフ、秋山シオンに相談を持ち掛けた。魔女ハウス外部の人間ならではの意見も一度くらい聞いてみようという試みである。


 だが、ところがどっこい、この付き人。


「うーむ、なるほど。ここが大河くんの愛の巣こと魔女ハウスか」


 ──なぜか今、魔女ハウスに上がりこんでいる。


「何が愛の巣だ。ハニートラップだらけの監獄だっつの」


「お、気持ちの良いツッコミ」


「つーか……なんで来たの、お前」


 秋の夕日が差し込むリビング。サラサラと白髪を揺らしながら、テキトーに部屋を見回しているシオンに問いかける。


「いや、なんていうかアレだよ。六人で一緒に暮らしてるとこを見れば、なんかビビッと良いアイデアが思いついてババッと大河くんの悩みを解決できるんじゃないかって思ったんだよ。あはは、でもダメだ! なーんも思いつかないや!!」


「なるほど。お前を頼った俺がバカだったわけだ」


 そんな俺の小言など気に留めることもなく、ペロリと舌を出しながら「テヘ☆」などとヌかす童顔白髪ハーフ。男のくせにこういう仕草をしても違和感が無い見た目をしてるので、なんか余計に腹が立ってくる。


「ていうか、女の子たち全員居ないけど、どうしたの? 仲良くおでかけでもしてるの?」


「あー、確かに言われてみれば誰も居ねぇな……おかしいな、今までこんなことは無かったんだが」


 大学から帰れば大体誰か一人くらいは家に居て、「おかえり」と出迎えてくれるのがいつもの光景だ。がらんどうの魔女ハウスを見るのは意外や意外、初めてかもしれない。


「まあ、偶にはこんなこともあるか」


 とはいえ、彼女たちには彼女たちなりの予定であったり、生活がある。今日は偶然全員が外出の予定を入れていたとしても、別段おかしなことはない。むしろシオンと五人が出くわす方が面倒なことになりそうなので、誰も居なくてラッキーだったかもしれない。


「ちぇっ、つまんないのぉ」


 ほらな。コイツ、絶対五人が居る前で俺のことを冷やかす気マンマンだっただし。つーか、そのために魔女ハウスまで付いて来ただろ、お前。


 だがまあ、とりあえず面倒なイベントは回避できた。これ以上コイツを家に置く理由も無いし、さっさと追い返すとしよう。ダラダラ居座られてるうちに五人が帰ってこようものなら、絶対面倒なことになる。


 などと内心ホッと胸を撫でおろしつつ、俺は「帰れ」という意思を込めてシオンの背中を押そうとしたのだが──


「あ、大河くん、スマホ鳴ってるよ? 出なくていいの?」


「……チッ、タイミング悪いな。一刻も早くお前を追っ払いたいところだってのに」


「ひどいこと言うなぁ!?」


 付き人のオーバーリアクションを華麗にスルーしつつ、ポケットの中で鳴動するスマホに手を伸ばす。


「もしもし我岩崎」


 俺に電話をかけてくる相手なんて、執事の爺くらいしかいない。通話相手の表示を見るまでもなく、俺は即座に通話ボタンを押してテキトーに応答した。


 しかし……受話器の向こうから帰って来た声は、俺の予想していた人物とは違っていた。


「はぁ、はぁ……! も、もしもし! アタシだけど……!」


「は? リサ?」


 ……思えば。この瞬間から、嫌な予感はしていた。


 なに、考えてみれば簡単な話である。


「な、なんだよ。お前が電話してくるなんて珍しいじゃねぇか」


 ──俺とリサのやりとりなど、普段はメッセージで事足りている。


「はぁ、はぁ……! た、大河……!」


 ──けれども今、リサはこうして息切れ切れに、俺と遠隔で会話をしなければならないと判断した。


「一旦落ち着け。深呼吸だ。とりあえず用件を聞かせてくれないか」


 ──それは一体、なぜか? 


 答えは単純明快だ。


「舞華が……! 舞華がヤバいかもしんない……!」


 緊急事態──エマージェンシーコールである。


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