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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第三章 First Flavor
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一番星

 普段よりも少々浮足立っている千春さんに連れられてたどり着いた場所はなんというか、『ああ、そうきたか』と、合点がいくような施設だった。


「ご来場の皆様、本日は期間限定イベント“星の海”の上映にお越しいただき、誠にありがとうございます。上映開始3分前となりました。映画館ならではの音響を活かしたプラネタリウムを、どうぞお楽しみください」


 やってきたのは、駅ビル5階の一角に位置する映画館。現在、俺と千春さんは2人並んで中央付近の座席に着席し、館内アナウンスに耳を傾けているところである。


 なんでも、今は期間限定で映画館が特別仕様になっていて、一日で3回ほどプラネタリウムを楽しめるようになっているらしい。言うならば、今日は『プラネタリウムデート』といったところだ。星好きの千春さんらしいチョイスと言えるだろう。


「楽しみだなぁ。早く始まらないかなぁ……」


 チラリと隣の席を見やると、そこには星の光にも負けないくらいに目を輝かせている千春さんの姿があった。全員揃って天体観測をした時もそうだったが、やはり星が絡んだ時は誰よりも澄んだ目をしている。こうして真横から彼女の顔を見ていると、普段はメガネ越しで見ている彼女の瞳が直接こちらの目に入ってきて、不覚にも少し鼓動が早まってしまった。


「はは、千春さんって本当に星が好きなんだね」


 魅入られないように目を逸らしつつ、隣の彼女に声をかけてみる。


「あ、ご、ごめん! なんか私だけ舞い上がる感じになっちゃって……!」


「いやいや、全然いいよ。そういう千春さんを見てるのも面白いし」


 最初は大人びていて少し落ち着いた印象だった彼女。しかし、最近になって俺はこの娘のことを『面白い』と思うようになっている。


【まあ、世の中には黒いオムライスもあるんじゃない? レシピ通り作ったし食べられるとは思うよ?】 


 なんか不思議な力が働いてオムライスを真っ黒にしちまうくらい、料理は苦手だし。


【うぅ……運転怖い……】


 過去に何があったか聞きたくなるレベルで運転恐怖症だし。


【あー、もう! いくらなんでも言い過ぎだし! 童貞大河のくせに! バーカバーカ!】


 ちょっとイジってみたら、顔を真っ赤にして子供みたいにプリプリ怒るし。


 そういうギャップを知れば知るほど、一緒に居て楽しいなーと思ったり、色々考えたりして……ほんの少しだけ、切なくなったりする。


「? どうしたの、大河くん? なんか浮かない顔だけど……あっ、もしかしてプラネタリウムとか嫌だったかな……?」


 自分ワールドに入り込んでいると、千春さんがこちらに身を寄せて俺の顔を覗き込み、不安そうに声を掛けてきた。眉毛が八の字になっている。


「いやいや、全然そんなこと無いよ。むしろ楽しみにしてるくらい。俺、ガキの頃から勉強漬けで、プラネタリウム来たこととか無かったからさ」


「あ、そうなの? なら良かったけど……ちょっとボーっとしてたみたいだから、心配になっちゃった」


「はは、ごめんごめん。ちょっと考え事してただけ。大したことはないよ」


 本当はめちゃくちゃ大したことある。まあ、魔女候補本人に「疑うのが辛い」とか相談するわけにもいかないし、今考えてたことは一ミリたりとも話せないわけだが。ああ、世知辛い世知辛い。


「そう、だよね。やっぱ大河くん的には色々考えなきゃいけないこともある……よね」


「まあ、生きてりゃ色々あるからね」


 この瞬間、『それ』を直接言葉にせずとも、きっと俺たちは同じことを考えているのだろう。今だけに限らず、何気ない日常を過ごしている中で時折、俺たちはふと思い出すのだ。


 ──やはりこの関係性は歪なカタチの上に成り立っている、と。


 各々、譲れない目的がある。各々、言えない意思がある。故に俺たちは、6人で過ごす世界の中で自己完結な思考を繰り広げずにはいられない。


「上映開始10秒前です」


 会話が途切れたと同時に、アナウンスと共に館内の暗転が始まった。


 上映が始まれば、肩と肩の間に定規がギリギリ一本入るか入らないか、くらいの距離に居る隣の彼女と話すこともしばらく無くなるだろう。少し気まずい雰囲気で会話が終わってしまったのを後悔しつつ、視線を頭上に移しながら、架空の星が輝き始めるのを待つ。


 しかし、その瞬間。


「実はね、さっき私も少し考え事してたの。だから、大河くんに1つだけ聞いてもいいかな?」


 なんの脈絡もなく、突然。気づいた時には甘い香水の匂いと共に、彼女の吐息を耳元で感じていて。


「え? き、聞きたいこと?」


 なんて、動揺丸出しで聞き返した刹那──


「ねぇ。大河くんにとっての一番星って、一体誰なのかな?」


 ──いずれ出すべき回答を、彼女は唐突に迫ってきたのだ。

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