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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第二章 砂浜アゲイン
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ミッチー'sアドバイス

 開店直前、海の家のテーブル席。キッチンで料理の仕込みを始めた白木さんを尻目に、俺はこの状況の打開策を考えるべく、こめかみに手を当てて頭を回す。


 あれやこれやと考えたが、まずは思考をシンプルにするべきだろう。心を落ち着け、頭を冷静に。リサが俺を強制連行してきたことに腹を立てていないと言えば嘘になるが、まずは直近の目標を定めなければならない。


 というわけで、まずはここまでの状況を一旦整理だ。


 あくまで俺の推測ではあるが、今回の岩崎家の目的は魔女候補4人の嫉妬心や対抗心を煽ってリサとの対立関係を作り、リサを追放すること。


 そして俺は、その対抗策としてリサとの協力関係を解消し、元の関係に戻ることを決意。そうすれば俺とリサが共に過ごす時間が減り、彼女たちのリサに対する悪感情が無くなるだろう、と踏んでの考えである。


 しかし協力関係解消を持ちかけられたリサは急に機嫌を悪くし、何を思ったか俺を海の家に強制的に引きずりこむというワケの分からん行動に出た。結果、俺は彼女とマトモに話すことすらままならず、まるで喧嘩しているかのような状態になっているというのが現状である。


 と、なると。直近の目標はやはり、リサと話せる程度に和解することだろう。そうしないと何も始まらない。


「うーん、でもなぁ……」


 そうは言っても、アイツが怒っている理由に皆目見当がつかないというのが正直なところではある。そこが分からない以上、俺はリサとどう接すれば良いのかも分からないし、仲直りなんて論外だ。はてさて、一体全体どうしたものか。


「とりゃぁっ! せやっ! ふんっ! うーん、ダメだ、届かないよぉ……」


 1人でウンウン唸っていると、不意にキッチンでピョコピョコ揺れる白木さんのポニテが視界に入った。どうやら彼女は棚の上の調味料を取るべく一生懸命に腕を伸ばしてジャンプをしているようだが、どうしても届かないらしい。


「えいっ! えいっ! うーん、やっぱり届かない……」


「白木さん、棚の上のボトルを取りたい感じ?」


 数少ない取り柄である高身長を活かせそうな場面に遭遇した俺は、足早に白木さんの元へ駆け寄った。


「お、岩崎くん! ちょうど良いところに来てくれたね。あのね、あの醤油のボトルを取ってくれると、とってもありがたいのです」


「オッケー、それくらいならお安い御用だよ。はい、どうぞ」


 低身長女子を助けるくらいは、容易いことである。俺はスマートに醤油のボトルをキャッチし、白木さんに手渡した。


「ありがと、岩崎くん。えへへ、やっぱり身長が高い男の子って頼りになるね!」


「っ! お、おっす」


 不覚にも白木さんにときめきそうになってしまった。家庭的なエプロン姿から放たれるスマイルにグッと来てしまった。


 いいや、待て待て岩崎大河。こんなことでほだされてはいけない。この子はこうやって笑顔を見せつけることで俺を誘惑して……


 誘惑して……誘惑して……ん? 誘惑? 


 ああ、そっか。そういや白木さんって魔女じゃないんだったな。


「あはは、疑わなくていいんだぁ……」


「ん!? ちょっと、どうしたの岩崎くん!? なんか涙出てきちゃってない!?」


「いやー、こうして白木さんという普通の女の子と普通に話せているのが嬉しくてね。うっかり感動の涙が出てしまったんだよ……」


「えぇ……岩崎くんってそんなに女の子に飢えてるの……?」


 そうそう、コレだよコレ。普通の青春ってのはこうあるべきなんだよ。


 彼女が欲しいとまでは言わない。こうやって女の子と何気ない会話を交わせるだけで、それは俺にとって十分青春なんだよ。別に多くを求めてるわけじゃない。本当に、ただそれだけで良いんだ。


 しかし、まさか女の子を疑わずに話せるだけで心がこんなに軽くなるとは思っていなかった。ああ、恐ろしや、魔女ハウス生活。いつのまにか疑心暗鬼が当たり前になっちまってしまっていた。


「えっと、なんか、岩崎くんってちょっと変わってる?」


「ん? あー、なんというか、ここ最近色んなことがあり過ぎてね。信じたいものを信じられないというか、なんというか。まあ、とにかく色々あるのさ」


「その"色々"っていうのには、リサのことも含まれてたりするの?」


「それは、まあ……含まれてるかもね」


 というか、現在進行形で悩んでるまである。


「俺さ、よく分からないんだよ。なんでリサが怒ってるのか。元の関係に戻ろうとしただけなのに、どうしてそこまで怒る必要があるのか。それが、分からないんだ」


 いきなり俺は何を言っているのだろうか。魔女ハウスの事情を知らない白木さんにこんなこと言っても、意味なんて無いというのに。


「ごめんね、白木さん。急に変なこと言っちゃって」


「うーん、まあ、確かに岩崎くんが言ってることの意味はあんまり分かんなかったけど……リサがなんで怒ってるのかっていうのは私、なんとなく分かったかも?」

 

「え、マジ?」


「うん、マジで」


 いや、マジか。これだけ考えても俺は見当すらついていないというのに、白木さんはリサが怒ってる理由が分かるっていうのか。


「えーっと、白木さん? それで、君が思うリサが怒ってる理由っていうのは……?」


 期待半分、不安半分といった心持ちで俺は白木さんに尋ねてみる。


 すると彼女は確信めいた表情を浮かべながら、こう答えた。


「リサは岩崎くんと元の関係に戻りたくないから怒ってるんだと思う」


「……へ?」


 元の関係に戻りたくない? アイツはまだ俺と協力関係を続けたいってことなのか……?


「まあ正直、私はリサと岩崎くんの関係は詳しくは知らないし、無理に聞こうとも思わないよ? でも、多分人と人の関係をリセットすることって出来ないんだと思うなぁ。出会って一緒に時を過ごしていたら、色んな感情が芽生えるでしょ? そういう気持ちとか、一緒に過ごした思い出とかを全部無かったことにして、関係を"はい、元通り"ってやるのはチョット無理があるんじゃないかなーって思う」


「な、なるほど」


「あ、えっと! 私的に! あくまで私的にそう思ってるだけだからね! つまり裏を返せばリサは岩崎くんのことを悪くは思ってなくて、むしろ一緒に居たいと思ってるんじゃないかなー、みたいな!」


「はは、そういう考え方もあるんだね。ありがとう、白木さん。参考になったよ」


「あ、そう? なら良かったけど……」


 ホッと胸を撫で下ろす彼女の返答は、どちらかと言えば信じ難いものではあった。リサが俺と一緒に居たいと思ってるなんて、まったく想像することができない。


 だが一方で、その言葉を妄言だと切り捨ててはいけないような気がした。


 確かに俺はリサの気持ちが分からない。しかしよくよく考えてみれば、俺は一方的に協力関係の解消をアイツに持ちかけていたようなものだったのではなかろうか。


 アイツを救うために必要なことだから、と。アイツの気持ちなど考えずに、俺は軽々しく「元の関係に戻ろう」なんてことを口走ってしまったわけである。何も知らないリサにしてみれば、それは唐突な絶縁宣言に近いものだったのかもしれない。


 『漫画をいつでも読みに来ていい』という交換条件つきではあるものの、リサは俺に協力すると誓い、力を貸してくれた。だのに俺は、無意識のうちにとはいえ、彼女の厚意を無碍にするような発言をしてしまっていたわけだ。


「人間関係はリセット出来ない、か」


 はは、確かに白木さんの言う通りだな。いきなり縁切れなんて言われたら、そりゃあリサだって怒るわけだ。


 さて、こりゃあ後でタイミングを見計らってアイツに謝らないとな。許してくれればいいんだが……

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