リメンバー&リセット
東条リサの追放という岩崎家の企みを防ぐにはどうすればいいのか。海の家に到着するまでアレコレと考えた結果、俺の脳内には1つ解決策が浮かびあがった。
して、その解決策とはズバリ。俺がリサとの協力関係を解消することである。
おそらく魔女候補4人は正体がバレているにも関わらず、ちょくちょく俺の部屋に来たり、漫画を読んだりしているリサに不満を持っている。ならば俺とリサの関係性を元の状態にリセットすれば、自ずと彼女たちの不満は無くなるはずだ。そうすれば、リサと4人が対立関係になることもなくなり、リサは何の問題もなく魔女ハウスで生活することができる。
協力者を失うってのは痛手だが、仕方ない。全てはリサの追放を防ぐためだ。よくよく考えると距離感が近過ぎた気がするし、そろそろ適切な関係性に戻る頃合いなのかもしれない。遠過ぎず、近過ぎずといった、普通の同居人くらいの関係性に。
『目的地に到着しました。長時間の運転、お疲れ様でした』
結論を出すと、図ったかのようなタイミングでカーナビの機械音がドライブの終わりを告げた。サービスエリアでなんやかんやあったものの、無事、海に到着である。
駐車場と砂浜との間には、結構な距離があって、海の全容を見渡せるとまではいかない。けれど、照りつける太陽の元で砂浜を駆け回っている子供たちや、海面のきらめきは車内からでも十分に伺える。運転席の窓を開けているため、波のさざめきも耳に入って心地よい。
ああ、なんだか懐かしい気分だな──ふと、そんな感覚になった。
この景色は夢にぼんやりと出てくる、あの海とは違う。助手席に乗せているリサも、"あの子"ではない。だが、朧な幼少期の記憶の中で、海という存在が、砂浜という場所が、俺にとって大切だったのだろう。
そして、なぜだか顔が思い出せない"あの子"も。きっと俺にとっては、欠けがえのない存在だったのだ。
何を話したか、とか、何をして遊んだか、とか。そんなことはハッキリ覚えていないし、もしかしたら、彼女との思い出は消えてしまいそうなほどに色褪せてしまっているかもしれない。
でも、それでも。
気を抜けば忘れてしまいそうなものなのに、それでも大人になった俺の心に"あの子"が深く刻まれている。それはきっと彼女が俺にとって、決して忘れてはいけない存在だからなんだろうと、不意にそんなことを考えた。
「大河? なにボーッとしてんの? 着いたんだから一旦エンジン切りなよ」
「あ、ああ、そうだな。ガソリンがもったいねぇよな」
物思いに耽っていた俺の思考が、リサの声によって瞬時に現実へと引き戻される。
今は過去を振り返ってる場合じゃない。リサの追放を防ぐために、まずは協力関係の解消を持ちかけねば。
「じゃあ、アタシは海の家行ってくるから。サークルの友達と泊まり込みでバイトすることになってるから、大河は明日の夜にまたアタシを迎えに来ること。いい? 分かった?」
いつのまにか車の外に出たリサは、半開きになった助手席側のドアからピョコリと顔を覗かせる。
「いや、リサ、すまない。残念だけど、それはできない。面倒かもしれないが、明日の夜はバスなり電車なりで、自力で帰ってきてくれ」
協力状態を解消して関係性をリセットすると決めた以上、二人きりで帰るわけにはいかないだろう。
「は? 大河? アンタ、急に何言ってんの? なんでも言うこと1つ聞く代わりに、アタシの送迎をするっていう約束だったでしょ? 話が違うじゃん。え、なに? ワケ分かんないんだけど?」
「なぁ、リサ。やっぱ俺たちの関係って普通じゃなかったんだよ。みんなのターゲットである俺と、正体がバレてる魔女が協力するのなんて、やっぱおかしかったんだ。お前が当たり前のように俺の部屋に来るのも、やっぱ皆の目には良く映らないんだと思う」
「は? え、なになに。マジでどうしちゃったの、アンタ? 何が言いたいの? マジでワケ分かんないんだけど?」
「なぁ、リサ」
そうして、困惑と苛立ちが入り混じる彼女に向けて俺は──
「"相棒ごっこ"はもう終わりにしよう。俺たちは元の関係に戻るべきなんだよ」
彼女の立場を守るため。これからは彼女の手を借りず、1人で魔女たちに立ち向かっていく覚悟を決めた。