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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第二章 砂浜アゲイン
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岩崎大河は屈しない

 爆睡していたリサを叩き起こし、『ドライブデートをしているわけではない』と2人で説明することによって、どうにか"サービスエリアの乱"は鎮静化する運びとなった。


 芦屋さんは「今度は絶対私も助手席に乗ります!!」と、リサへの対抗心を剥き出しに。舞華は「帰ってきたら、いつも以上にちょっかい出すからね? 覚悟しててね大河っち?」と、不穏なセリフを言い放ち。沙耶に至っては「リサちゃんが眠そうにしてるのって、大河さんとのドライブが楽しみで昨日寝られなかったからじゃないの?」と、あらぬ疑惑を吹っかける。


 といった具合に三者三様の反応が見られたものの、とにもかくにも俺たちはドライブデート疑惑を晴らすことに成功したのであった。


 そして現在。4人と別れた俺たちは海の家への旅路を再開し、高速道路を走行中。変わり映えしない景色を車窓から眺めつつ考えるのは、専ら今後の身の振る舞い方であった。


 岩崎家が『女性陣4人vsリサ』という構図を確立し、彼女を魔女ハウスから追放しようとしている。その状況に対し、これから自分がどう行動するべきなのか。そして、なぜ岩崎家はそこまでしてリサを追い出そうとしているのか。ハンドルを握りしめ、ぐるぐるぐるぐると1人で思考を巡らせる。


「ねぇ、大河? アタシが寝てる間になんかあったの? なんかすんごいシリアスモードに見えるんだけど。あ、もしかしてソフトクリームひと口欲しかったりする?」


 一方、助手席に座る件のギャルは、先ほどサービスエリアで買った氷菓を呑気にペロペロと舐めている。自分が追放されかけてるとも知らず、なんともまあ良いご身分なことだ。


「いや、別になんもねぇよ。ちょっと考え事してただけだ。ソフトクリームは貰う」


「あっそ。じゃあ、ひと口あげるよ。ほれ、餌だぞ忠犬」


「誰がワンコだ」


 悪態をつきつつも、貰えるものは貰っておく主義な俺は差し出されたソフトクリームに躊躇なくかぶりついた。


「あ。ひと口あげた後に言うのもなんだけど、コレって間接キスじゃん。うわ、どうしよ。大河と間接キスとかマジありえないし」


「いやいや、俺なんも悪くなくね? つーか、初日に半裸で俺の上にライドオンしてるんだから、間接キスなんて屁でもなくね? 俺もあんまそういうの気にしないタチだし、別に良くね?」


 別にギャルとの間接キスなど全くもって気にしていない。ミルクとはちょっと違う甘さを感じて、ドキっとしたりなんかしていない。


 まあ、そんなことはさておき。今はリサの追放問題にどう対処するかアイデアを出さなければいけないだろう。


 まず第一に、なぜ岩崎家は東条リサを魔女ハウスから追放しようとしているのか。コレについては、実は心当たりが無いわけでもない。


 なんせリサは初日で速攻正体をバラしてしまった魔女だ。俺のハニートラップ耐性を上げようとしている岩崎家としては、今後生活費を払ってまでリサをシェアハウスに住ませておくメリットは一切無い。そもそも生活費を払ってまで魔女に俺を誘惑させるメリットも無いような気もするが、それはそれ、これはこれ、というやつだ。


 大方、岩崎家の目的はリサが魔女ハウスで住みづらい環境を作ることにあるのだろう。


 ルールに『正体がバレた魔女は退居しなければならない』と書かれてるわけでもないから、岩崎家はリサに強制退去を命じることができない。ルールに則って生活しているリサには何の否もないので、岩崎家は"4人vsリサ"の構図を作るという間接的な介入しかできないのだ。


 さすがの金髪ギャルも、自分以外の女から嫉妬あくいを向けられれば魔女ハウスから出ていくことを考えるだろう。いくら無料で暮らせるとはいえ、あまりにストレスフルな環境だ。心の平穏は金を払ってでも守るべきだし、まず間違いなくリサは退居することになるだろう。


「チッ。汚ねぇやり方使いやがって」


「ん、大河? 急にどうした?」


「あー、いや、別になんともねぇよ」


 あぁ、反吐が出る。こういうことを平気でやるから俺は自分の家が嫌いなんだよ。不要になった人材は切り捨てるっていう、その考え方が俺はどうにも気に喰わない。


 別にリサを擁護しようというわけではない。だが、リサが何をしたというのだ。確かに初夜に俺の寝込みを襲ってきたが、コイツは『岩崎大河を誘惑してほしい』という指示に従っただけである。その後もルールを破らずに生活しているのだから、コイツは何も悪くない。追い出されるようなことは何もしていないのだ。


 確かに出会いは最悪だった。これ以上に無いくらい、最悪の第一印象だったと思う。襲われかけた時はふざけんなって思ったのも事実だ。


 でも、コイツは──


【いや、そ、その……アタシ、さ。大河と居るのって割と嫌いじゃないんだよ。なんか、こう、距離感がちょうど良いっていうか。だから、まあ、ちょっとは協力してあげても良いかな、みたいな】


 この奇妙な生活が始まった時。

 俺が誰も信じられなくて悩んでいた時。

 

 コイツはそう言って、俺に手を差し伸べてくれた。口が悪くてムカつくこともあるが、それでも今のリサはれっきとした俺の同居人なんだ。


 だから俺は屈しない。家の意向になんて屈しない。追放なんてさせてたまるものか。そんな理不尽、許されていいはずがない。


 ──絶対に、岩崎家の思い通りになんてさせやしない。

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