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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第二章 砂浜アゲイン
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眠りの森のギャル

 岩崎家は教育に厳しい家庭である。


 余計な物を買わないよう、俺に与えられる小遣いは常に一般家庭とそう変わらない金額。遊びたい盛りの小学生の時は、爺が俺につきっきりで勉学を厳しく指導。逃げ出そうとすれば、容赦なく鉄拳制裁が飛んできていた。


 周りから『金持ちは良いな』と何度も言われたことはある。だが、別に俺自身はそこまで大きな恩恵を受けてきたわけではないのだ。学費とか、食事とかには恵まれていたが、1人の子供として甘やかされたことはほとんどないのである。


 そんな中で唯一、俺が家庭の裕福さを実感する瞬間があるとするなら、それは親父が乗らなくなった車を俺が直接譲りうける時だった。


 飽き性の親父はとにかく車をコロコロ変える。そのため、新車を買うたびに『いらなくなったから』と、古い車を俺に譲渡するのだ。


 その結果、俺は大学生としてはそこそこ珍しい『車持ちの男』となったわけだが──


「スゥー……スゥー……」


 ──まさか早朝からギャルの送迎をやらされることになるとは思っていなかった。


「すげぇな。運転手である俺に感謝する様子もなくグースカ寝てやがる」


 早朝から車を走らせている俺の横に居るのは、限界まで助手席のシートを後ろに倒し、さらにアイマスクまで装備しているTシャツ短パン金髪ギャル。一応『海の家に連れて行ったら一つだけ何でも言うことを聞く』という条件でコイツのために運転をしているわけだが、ここまで露骨に睡眠体制を取るのはいかがなものかと思う。なあ、リサさんよ。 1ミリくらいは運転手へのリスペクトを見せたらどうなんだい。


「しっかし、コイツは本当に警戒心ゼロだな」


 一応俺も男なのに、よく隣でこんなに無防備に寝られるものだ。リサの頭には寝ている間に俺から襲われるという発想は無いのだろうか。


 ある意味、俺を信用してくれているような気もする。が、どちらかというと『オマエにアタシを襲う度胸なんか無いだろ?』という意思表示のような気もする。なるほど無性に腹が立ってきた。目的地に着いたら目覚まし代わりに爆音でアニソン流しててやろう。


『次の信号を左折してください。500メートル先、インターチェンジです』


 カーナビの指示に従い、ウィンカーを出してハンドルを左に切る。どうやらここからは1時間ほど高速道路に乗らなければならないらしい。


 やれやれ、まだまだ道のりは長そうだな。



「あの車、なんか妙な動きしてんな……」


 そんな疑念を抱いたのは、高速道路を走行し始めてから20分ほど経った頃だった。


 眠りの森のギャルと俺の後方を走っている黒のワンボックスカーが、先ほどから明らかにおかしな挙動をしている。俺が車線変更をすれば、必ず向こうも車線変更をして後ろをピッタリとくっついてくるし、なぜか高速道路であるにも関わらず若干蛇行気味に運転をしている。


 最初は『煽り運転か?』と思ったのだが、別に車間距離を詰めてくるわけでもないので、その線は薄い。が、自分の車の後方で妙な運転をされると、それはそれで良い気持ちはしない。はてさて、どうしたものか。


「ん、電話か」


 と、ちょうど困っていたところでポケットのスマホから着信音。誰からの連絡かは分からないが、運転中に通話するわけにもいかないので、とりあえずスリーピングギャルを起こすことにする。


「おい、リサ。一瞬でいいから、ちょっと起きてくれねぇか? 俺の携帯鳴ってんだよ。ポケットからスマホ抜き取って、応答ボタンだけ押してくれ」


「……」


 チクショウ、うんともすんとも言いやしない。


「おい、ギャル。パツキンギャル。頼むから一回起きてくれ。一瞬で良いからさ」


「……」


「なぁ! 頼むよ、おっぱいギャ───」


「誰がおっぱいギャルだクソ童貞!!」


「ぐおぁっ!?」


 突如、アイマスク女によるギャルキックが炸裂した。


「お、お前、なんでさっきまでビクともしてなかったのに、急に起きるんだよ!? つーか、運転手蹴るなよ! 危ねぇだろ!?」


「あ、ゴメン、なんか反射的に足が動いちゃった。でも今のはアンタが悪いからね? 誰がおっぱいギャルだっつーの」


 アイマスクを外しつつ、隣で悪態をつく乳房ギャル。


「ていうか急に起こすのやめてくんない? 一体何の用だっていうの?」


「いや、俺のスマホ鳴ってるからポケットから出してくれないかなーって思って。スピーカーモードにしてテキトーに俺の足の上に置くだけでいいからさ」


「あー、そういうこと。分かった分かった。それポチっとな」


 リサはスリに慣れているかのような手つきで俺のポケットからスマホを抜き取ると、通話ボタンを押して俺の太ももの上に置くやいなや、即座にアイマスクを付け直してスリープモードへ戻った。


「え、えーっと、もしもし? どなた様ですか?」


 リサの言動に思うところはあるが、とりあえず電話に応答する。


『そ、そこの車! 今すぐ止まるです! 私たちに内緒でドライブデートなんて、私の目が黒いうちは絶対に許さないです!!』


「ん?」


 なんだろう。この敬語とハイテンションボイスはすごく聞き覚えがある。


『にゃはは、やっほー大河っち! ねぇねぇ! リサっちと2人でどこ行くつもりなの? もしかして2人って私たちが知らない間にそういう関係になっちゃったの?』


『うふふ、やっぱり怪しいと思ってたんですよ。リサちゃんったら、やっぱり抜け駆けしてたんですね……』


『ご、ごごごごごめんね、大河くん。なんか凪沙と舞華と沙耶がうるさくて、訳あって今まさに大河くんたちの後ろを運転してる感じなんだけど……わ、私ペーパードライバーだから高速道路とかホント無理なの!! だからお願い! 次のサービスエリアで一回止まってぇぇぇ!!』


「……」


 いや、何事だってばよ。

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