ジ・エンド
音崎千春。俺より1つ年上の大学4年生である。少々ボサついた短髪と大きなメガネが特徴的であり、普段はあまり派手に着飾ったりしない女の子だ。
だが顔のパーツ自体はかなり整っており、もう少し身なりに気を使えば、とんでもない美女に化ける予感もする。いやはや、俺個人としては千春さんには是非このままファッションに目覚めずにいてほしい。もうこれ以上自分の心を惑わせたくない。
そんな彼女の性格はどちらかというとクール寄りと言える。舞華、芦屋さん、沙耶とは違って、俺に猛アプローをかけてくるわけでもない。そういった点を考えれば、彼女は魔女候補の中でもある意味異質な存在と言えるだろう。
と、分析してみたはいいものの。
「アカン。結局なんも思いつかん」
情けなく独り言をこぼしつつ、横になっていた身体をベッドから起こす。
作戦立てようと意気込んでみたものの、全然アイデアが浮かばない。仮にも日本一の大学に通ってるというのに、ビックリするくらい何も思いつかない。
「なんか腹減ってきたな」
良い考えが浮かぶずとも、頭を回せば腹の虫が鳴る。悲しき人間の習性である。
「今日の昼飯どうすっかな」
いつもは昼食の時間になると、調理係の沙耶が『ご飯できましたよー!』と俺たちに呼びかけて招集をかけるのだが、今日はその沙耶が居ない。朝は適当にパンをトースターにブチ込んで2人で食ったが、さすがに昼はそういうわけにはいかないだろう。さて、どうしたものか。
「ここは無難に千春さんと相談か」
『魔女ハウス』とかいう物騒な名前のシェアハウスではあるが、それでも千春さんは同居人だ。テキトーに何か買ってきて1人で食う、ってのも出来なくはないが、さすがにそれは寂しいだろう。
とりあえず、千春さんの部屋まで行ってみるとしよう。
◆
「なんか緊張するな……」
廊下を歩き、千春ルームの前に到着。特に深く考えずにここまで来たが、そういえば女の子の部屋を訪ねるのは今回が初めてだった。なんかよく分かんない汗が出てくる。
だが、いつまでも緊張して扉の前で立っているわけにもいかない。ここはとりあえずドアをノックしてみるとしよう。
そう考えて、扉に手を伸ばした時だった。
「ふふふ……ふふふ……」
なんか、いきなり扉の向こうから不気味な笑い声が聞こえてきた。
「大河くんは……ふふふ……ボクが……ふふふ……」
いや、ちょっと待って。怖い。怖いって。なんで俺の名前呼んでんのよ。
「よし、ここは一旦回れ右だな」
ま、まあ、人間ってのは誰しもがヒミツを抱えているものだ。うん、今はドアをノックするのはやめておこう。女の子のヒミツを探るのはとても良くない。怖い。
現実から目を背けつつ、俺は「何も聞いていない。何も聞いていない」と自分に小声で暗示をかけながら、くるりとUターンして一時撤退を試みる。
が、その直後。背後から無情に鳴り響いた『ガチャリ』という効果音によって、俺の歩みは止まることとなった。
「え、大河くん? 私の部屋の前で何してるの?」
「……」
あ、終わった。