リベンジ勉強会(前編)
「昨日の夜といい、今日の朝といい、なんか忙しなかったな……」
芦屋さんが去った直後の自室。舞華との勉強会に備えて電子教材と向かい合ってはいるものの、寝不足やら愛してるゲームによる疲労やら、ここ最近の慌ただしさやらを感じて、なかなか集中することができない。
特に昨日と今朝は密度が濃すぎた。まさか沙耶からデート誘われた翌朝に芦屋さんが部屋に来るなんて思わなかった。しかも2人ともスゲェ真剣な顔してたし。誰が魔女なのか全然分かんなくなってくるからホント困る。
「っと、いかんいかん。今は集中せねば」
さっき芦屋さんが出て行った後に、俺から舞華に連絡して『12時から勉強会やる』って決めちまったからな。あと3時間くらいしか無いし、今は勉強の総仕上げをせねば。
「今日こそは、ちゃんと先生役になんないとな」
◆
「おっす、岩崎っち! えへへ、まさか岩崎っちの方から誘ってくれるなんて思ってなかったぁ! 誘ってくれて嬉しいよ!!」
そんないつも通りの元気な挨拶と共に舞華が俺の部屋を訪れたのは、時計の針が12時ちょうどを指した頃だった。
「この前は結局Siriに頼ってばっかりで本当に申し訳なかった。まあ、今日こそは東大生の本領発揮するつもりだから安心してくれ。じゃ、その辺にテキトーに座ってくれよ」
「うん、分かった!」
ニッコリ笑いながら返事をした舞華は、俺が元々用意していた折り畳み式のテーブルの方へパタパタと移動し、カーペットの上にちょこんと座る。
それにしても舞華は今日もキワどい服装である。
露出された太ももをこれでもかと言わんばかりに強調している、丈の短いホットパンツ。そして、シンプルな柄がプリントされた白のTシャツを見てみると、うっすら下着が透けそうになっているような──って、いつまでもピンク色に染まってんなよ俺。
「よし、じゃあ早速始めようか!」
気合を入れ直す意味も込めつつ、俺は勉強会の開始を宣言した。
◆
勉強会開始から約1時間後。
「あ、そこ計算ミスってるぞ。多分計算の順番が違うな。2行前からやり直したら上手くいくんじゃないか?」
「あ、分かったー。やり直してみるね」
「おう、頑張れ」
完全に付け焼き刃の知識だが、なんとか舞華に教えられるレベルになっていたようである。昨日の朝からブッ続けで勉強した甲斐があるってもんだ。
まあ、テーブル越しに甘い匂いがフワフワ漂ってるってのは昨日と変わんないし、距離もいつもより近いから、ずっと緊張しっぱなしではあるのだが。たまーに手とか触れ合ったりするし。それを表に出さずに勉強を教えるってのは、なかなかハードでメンタル的にもキツい。俺も一応男だし。しかも昨日からほぼ寝てないわけだし。
「って、アレ? やっべ、なんか目が霞んできたな……」
あれ、おかしいな。急にどうしたんだ、俺。なんか急に頭がクラクラしてきた。
「はぁ、はぁ……」
あ、アカン。これは本格的にヤバいやつ──
「え? 急にどしたの岩崎っち!? ねぇ! 岩崎っちってば!!」
そんな舞華の叫び声が聞こえた瞬間。突如として、俺の意識は途絶えてしまった。