砂浜サードタイム
◆
いつか、“あの子”と運命的な再会を果たす。
岩崎少年には、そんな未来を思い描いている時期もあった。
我ながら、痛々しい話である。
「アタシはこの砂浜で、大河と出会った。でも、家の事情でアンタとは離れ離れになった。両親の離婚を機に日本で生活を始めたけど、もう思い出の場所に別荘はなかった。ミッチーと友達になったのは、別荘の跡地に海の家が建っていたのがきっかけよ。新生活を始めてしばらくすると、岩崎グループの使用人から声を掛けられて……巡り巡って、魔女ハウスで生活することになった」
この再会は、まったくもって運命と呼べるものではないだろう。
秋山シオンの企てによって、俺とリサと四人の魔女は作為的に引き合わされたのだ。
このデスゲーム的な出会いには、明確に第三者の意思が介在している。
そんなものを、運命と呼んでいいはずがない。
「最後まで正体を隠し通す約束で魔女ハウスに参加した手前、ずっと大河に本当のことを言えなかった。言いたくても、言えなかった。そして……四人と上手くやってるアンタを見ているうちに、もう言わなくてもいいんじゃないかと思った。今更アタシが本当のことを言っても、未来に進もうとする大河の足枷になるだけだと思ったんだよ」
「だから、いきなり出ていったってことか?」
「……」
見上げれば、満点の星空。
見渡せば、星空を映す大海原。
最初に会った場所で並び立ち、俺たちは最後の問答を交わす。
「お前が俺を気遣ってくれてるのは、十分に分かった。それは素直に嬉しいし、感謝している。でも……お前だけが消えて終わるなんて、あっていいはずがないんだよ」
この期に及んで、遠慮なんていらないだろう。飾った言葉を使うでもなく、俺は思うがままに本心を告げる。
「舞華も、芦屋さんも、沙耶も、シオン……千春さんも、きっと俺と同じことを思うはずだ。このままリサと別れるなんて、誰も望んじゃいない。こんな形で俺たちの生活が終わるのに納得できる魔女なんて、一人も居やしない。お前だって、本当は気づいてるんじゃないのか?」
騙し合うはずの場所が、いつの間にか欠けがえのない居場所になっていた。
なんとも不思議なことに、絆が芽生えてしまった。
だから、俺だけでなく彼女らもリサを離そうとはしないだろう。
六人で始めた物語は六人で終わらせる──俺たちは、そんな結末を望んでいるのだから。
「バカげてると思われてもいい。理想論だと笑ってくれてもいい。それでも俺は、最後は全員が前を向いて、笑い合っていてほしいんだ。俺が未来に進んだ時、お前にも笑っていてほしいんだよ。だから、俺への気遣いなんか考えなくていい。俺は単純に、リサが“今どうしたいのか”を知りたいんだ」
舞華、沙耶、芦屋さん、シオン。四人の魔女たちは時に傷つき、時に笑い合い、時に涙を流しながら、懸命に“今”という時間を生きていた。
危ない目に遭いながらも、舞華は極度の異性嫌いを克服することができた。
なんでも一人で抱え込みがちな沙耶が、人を頼ることを覚えた。
引っ込み思案な芦屋さんが、勇気を出して中学時代のやり残しを清算することができた。
付き人として生きてきたシオンが、初めて偽りのない姿を見せてくれた。
この生活を通して、彼女たちは大いに変わったのである。
それはきっと、暗い過去に別れを告げ、前に進むために必要な変化だったのだろう。
だから、俺はリサに“これまでどうだったか”ではなく、“これからどうしたいか”を聞きたい。過ぎたことではなく、今と未来に目を向けてほしいと思った。
「今どうしたいのか、ね。それを言うなら……大河の方こそ、今どうしたいのかハッキリさせてよ」
リサは俺の問いかけに答えるでもなく、逆に質問を返してきた。
「そう言うアンタだって、いつもみんなのために動いてたじゃん。舞華のために大怪我して。沙耶のために契約書を用意して。凪沙の演劇練習にも最後まで付き合って。一歩引いてた千春のことも、常に気にかけてて。……だからアタシ、分からなかった。ずっとそばに居たのに、大河の気持ちが誰に向いてるのか分からなかったんだよ。今だって、全然大河のことが分かんないの。アンタは今、どうしたいの? 誰と、どうなりたいの? アタシがどうしたいのか聞く前に、まずは大河が教えてよ」
まくしたてるように言うと、最後。
リサは俺の真正面に立ち、勢いのままに告げる。
「──大河は今、誰のことが好きなの?」