相棒②
魔女ハウスに参加した動機は半分が義務感で、もう半分は罪悪感だった。
アタシのせいで大河の時間が止まっているのなら、せめて時計の針がもう一度動くまで大河のそばにいたい。何もできないかもしれないけれど、せめて再び前に進み始める姿は見届けたい。その過程で、もし大河がアタシを必要としてくれるのだとしたら、どんな形でも良いから力になりたい。
そのためには、『最後まで正体がバレてはいけない』という特別ルールを絶対に守る必要がある。
だから、アタシは同居生活が始まった段階で正体を隠すための布石を打つことにした。
「やっほー、遊びに来ちゃったっ!」
「へ!? な、なんでリサがここに!? つーか、ここってオートロックだよな!? どうやって入ったんだよ! あとなんで服着てないの!?」
初夜に大河の寝込みを襲って、イカニモな色仕掛けをする。
我ながら大胆過ぎるとは思うけれど、そうすれば大河がアタシを“あの子”だと思うことはなくなると思った。
「ちぇっ、童貞相手だし、ちょっと触らせとけば告白してくると思ったのになぁー。やっぱ簡単にはいかなかったかぁー」
「な、なぁ、リサ、お前って──」
「あー、うん。アタシは魔女だよ。もう隠すのも面倒だし言っとくね」
加えて、魔女ハウスに『正体を偽ってはいけない』というルールはない。念には念を入れて最初に「自分は魔女だ」と宣言することで、しばらくの間は大河がアタシを魔女だと決めつけてくれるんじゃないかと思った。
「あのー、リサさん? なんで俺の部屋で優雅に漫画を読んでるんですかね?」
「いやー、だって1人で部屋に居てもつまんねーし? そんで、昨日アンタの部屋に来た時に結構漫画あるなーって思ってさ。だから昨日みたいにちょちょいとピッキングして部屋に入れてもらって、漫画を拝借してたってわけ」
あとは『魔女にも関わらず同居生活を続ける面倒な女』を演じれば、アタシは完全に“あの子”の候補から除外されるだろう。そう考えて、アタシは敢えて大河の部屋に居座って漫画を読んだり、ちょっかいをかけたりした。
「とにかく交渉成立だな。つーわけで、これからよろしくな、相棒」
──だからこそ、大河がアタシを相棒扱いし始めたのは想定外の出来事だった。
一度魔女認定を受けた後は、嫌われ過ぎない程度に距離を置くつもりだった。傍観者的な立ち位置になって、陰からコッソリと大河の様子を伺うつもりだった。それで他の女の子に惹かれるようだったら大河の恋を応援するつもりだったし、そうならない場合でも大河が最善の選択をとれるようにサポートするつもりだった。
けれど、あろうことか大河は、自分からアタシとの距離を詰めてきたのである。
「……ふふ、なんだよ相棒って。変なのっ!」
──思えば、アタシの自己矛盾はこの時から始まっていたんだろう。
適度に距離を置くつもりだった。
でも、また距離が近づいたのが嬉しくて、反射的に大河の相棒になってしまった。
「あ? なにニヤニヤしてんだよ。相棒は相棒だろ。これから魔女3人に立ち向かっていくんだから」
「ふふ、相棒ね……まあ悪くない響きじゃん」
ずっとそばにいたら、また好きになってしまう。
心のどこかで分かってたはずなのに、それでもアタシは大河の隣を自分の居場所にしてしまった。
──その選択をしても辛い想いをするだけだって、知ってたはずなのに。