出会い
◇
アタシは幼少期の大半を日本ではなく、フィリピンで過ごしていた。
母が日本人で、父がフィリピン人。名前と見た目からじゃ分かりづらいかもしれないけど、アタシはいわゆるハーフというやつなのである。父に北欧系の血が混じっているのもあって、生まれた時から髪は金色だった。当時は父がフィリピンで会社を経営していた都合もあって、家族三人が日本で暮らすという選択肢はなかったらしい。
父は仕事でほとんど家にいなかったので、今となってはどんな顔だったのかもハッキリ思い出せない。けれど、アタシは特に家族に対して不満をもっていたわけではない。経済的には裕福な方だったし、母はいつも笑顔を絶やさずアタシと一緒にいてくれた。一般的に見れば、十分に幸せな家庭だったと思う。
そんなアタシに転機が訪れたのは、五歳になって間もない頃だった。
「ママ! リサ! 聞いてくれ! 日本の岩崎グループと共同プロジェクトをやることになったんだ!!」
父に関する記憶はおぼろだけれど、その瞬間だけは鮮明に覚えている。
日本のトップ企業との共同事業が決まった時、大層うれしそうに報告してきた父の声色は、今でも時折思い出す。
それから父は岩崎グループの経営層と親睦を深めていき、彼らの別荘に招待されることになった。商談の合間に家族の話をしたところ、岩崎の方から『ウチにもそちらの娘さんと同じ年くらいの子が居るから一緒に食事でもどうか』と誘いを受けたそうだ。
仕事熱心な父が岩崎グループの目に留まり、家族ぐるみの付き合いに発展するまでの信頼を勝ち取った──アタシがその出会いを果たすきっかけを作ったのは、紛れもなく父だったのである。
◇
ほどなくして、アタシたち家族三人は海を越えて岩崎の別荘へと向かった。
照り付ける太陽が眩しい、真夏の日の出来事だった。
「いやぁ、本日は遠路はるばるご足労いただきありがとうございます」
「いえいえ、とんでもない! お招きいただけて光栄です」
父は流暢に日本語を使いながら、向こうのお父様とコミュニケーションをとっていた。
「あら、奥様は日本人だったのね! 気楽に話せそうで嬉しいわ!」
「ありがとうございます。久しぶりの帰国で、私としても落ち着いた時間を過ごせそうで嬉しいです」
母も母で、向こうの奥様と無難にコミュニケーションをとっていた。母はどちらかというと、岩崎家との出会いよりも日本に帰って来たという事実そのものに安堵感を覚えているようだった。
「初めまして! 俺の名前は岩崎大河! 呼び方は大河でいいよ! 君の名前は?」
そしてアタシは、太陽のように笑う御曹司──岩崎大河に出会った。