変わらないもの
◇
──不覚にも、アタシは大河とまた会えたことを心の底から喜んでしまった。
最初から全員の正体を知ってたのに、それを黙って大河の相棒を続けていた。そんなアタシが、これから先も大河の隣にいていいわけなんてない。
そう思って、それなりに覚悟を決めて魔女ハウスから離れたはずなのに。
大河はいとも簡単にアタシを探し出して、怒ることもなく「久しぶりだな」なんて言う。それが嬉しくて、アタシも「久しぶりだね」なんて返してしまう。
固く決めていたはずの覚悟が、こんなにもあっさりと崩れ去る。
やっぱりアタシは、どうやったって岩崎大河には敵わないんだろう。
いつも悩んだり迷ったりしてるように見えて、ここぞという時の大河はいつも強気で大胆だ。自分が傷つくのを承知の上で舞華を守ったり、いきなり契約書を作って沙耶の返済先を自分の会社に変えたりする。今だって、アタシの気持ちなんかおかまいなしに、もう一度こんなところまで会いに来ている。
そんな大河の表情を見た時、『会ってはいけない』という罪悪感よりも『また会えて嬉しい』という高揚感の方が大きくなってしまった。それが許されないことだと分かっていても、心から溢れ出す喜びを抑えきれなかった。
「せっかく海が近くにあることだし、ちょっと外出て話さねぇか? 少し肌寒いかもしれないが、狭い部屋で話すよりは綺麗な景色が見える場所の方が良いだろう」
「う、うん」
大河に誘われるがままに、即答でオーケーを出してしまった。
一体いつから、アタシはこんなにチョロくなってしまったんだろう。
「じゃ、行くか」
そう言って、階段を降りていく大河の背中を見つめる。
なぜだか後ろ姿がいつもより大きく見えて、視線が釘付けになる。
「ん? おい、何ボーっとしてんだよ。ほら、行くぞ?」
しかし最近の大河は前より少し察しが良くなったみたいで、すぐに見つめているのがバレてしまった。
「っ! わ、わかってるっての! 今行こうとしてたし!!」
対してアタシは、いつもと変わらず素直な態度を取れない。
恥ずかしさを隠したくて、ついつい口調が強くなってしまう。
……ああ。思えば、最初からずっとそうだった。
昔一緒に遊んでた男の子と久しぶりに会えて嬉しかったのに、それを素直に伝えられなかった。また仲良くなりたくて隣にいたはずなのに、素直になれなくて夏休みには大喧嘩してしまった。本当は離れたくなかったのに、変な言い訳をして魔女ハウスを飛び出してきてしまった。
はあ、まったく。なんで今更、こんなことに気づいちゃったんだろう。
今も昔も、ずっと変わらない──アタシはただ、岩崎大河のそばにいたいだけだったんだ。