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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
最終章 運命なんていらない
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明日も君に恋をする

 最初は、まさか私が大河っちを好きになるなんて思ってもいなかった。


 お金持ちで、背が高くて、頭も良い。ステータスだけ並べればハイスペックなのは間違いない。でも、だからこそ、こんなヤツ好きになってたまるか。世の中全部が完璧な人間なんて居るわけないんだし、どうせ性格の方は終わってるに決まってる。自分のスペックを鼻にかけているイヤミなボンボンに違いない──出会う前のイメージは、そんな感じだったから。


 そんな御曹司をダマすのはさぞ気持ちが良いだろうと思って、私は魔女になった。他の子はどんな理由で魔女をやってるかは分からないけど、多分私の動機が一番“魔女らしい”んじゃないかと思う。


 君と出会った後も、最初のうちは普通に悪意マシマシで過ごしていた。会う前のイメージよりも君はずっと善人だったけれど、そんなものは偽善に過ぎないと思っていたから。


 私が魔女かどうかを確かめるために、距離を詰めて優しくしてるだけ。きっと心のどこかでは私のことを疑ってる。魔女だってことがバレたら、どうせ簡単に掌を返してくる。いつか絶対、その善意が偽物だってことを暴いてやる。


 同居生活が始まったばかりの頃は、そういう目で大河っちのことを見ていた。


 でも、


【俺は才能が無いってだけで自分が家の名前に負けてしまうのが許せなかっただけなんだ。『勉強を教えてほしい』っていう、たった1人の女の子の頼みさえ叶えてやれない無力な自分が許せなかっただけなんだ。別に舞華が魔女かどうか、なんて関係ない】


 いつまで経っても、


【ああ、俺は皆と話したいんだ。魔女とか魔女じゃないとか気にせずに、皆と普通に話してみたいんだよ。いつか素の5人と話してみたい】


 いつまで経っても、君は真っすぐなままで。

 気づけば、自然と君のことを目で追うようになっていて。


【自分の意志でお前を庇ったとはいえ、とんでもないことになっちまったぜ。今でも刺されたとこが痛くてたまんねぇよ】


 身を呈して私のことを守ってくれた時。

 ああ。この人は本当に裏表がなくて、底抜けに優しいだけなんだな、って気づいて。

 いつのまにか、どうしようもないくらい好きになっていた。


 始まりは疑いの目だったけれど、君のことをずっと見つめ続けてきたからこそ。

 大好きな君の顔を見れば、私は君の考えていることが、手に取るように分かるんだ。


「よし。何はともあれ、アイツの居場所は分かった。とりあえず行くか」


 だから今日、どこかに向かおうとしてる君を偶然見かけた時。


「あれ、大河っちじゃん。こんなところで何してんの?」


 今ここで引き留めないと何かが終わるような気がして、私は慌てて君に声を掛けた。


「えへへ! 偶然会えるなんて、今日の私ったらもしかしてツいてる? せっかくだし、その辺でお茶してかない?」


 適当な口実でデートに誘い、大河っちの足止めを図る。


 とにかく、行かせちゃいけない。彼の覚悟を決めたような表情を見ると、その感覚はますます強まった。


「……すまん、舞華」


 そして──


「嬉しい誘いだけど、今日は一緒に行けない」


 なんとなく、そんな返事が来るような気もしていた。


「あ、あはは。そっか、残念だなぁ。何か、大切な用事があったりするのかな?」


「……ああ、そうだ。どうしても、外せない用事がある」


「ね、ねぇ、大河っち。それって──」


 私とのデートよりも優先しなきゃいけないこと?


 そう言いかけたけれど、答えを聞くのが怖くて、私は言葉を飲み込んだ。


「あ、あはは! そんなに緊急の用事だったら、仕方ないよね! じゃ、お茶するのはまた今度にしよ?」


 震える唇を誤魔化すように、気丈に振る舞う。


「ああ、そうだな。いつかまた、みんなで一緒に話そう」


 いつもと変わらない笑顔で告げると、彼は私に背を向けて走り始めた。


「あ、あれ? なんでだろ。涙が止まんないや……」


 彼の姿がみるみる小さくなって、やがて見えなくなった時。

 気づけば、私の頬には涙が伝っていた。


 ただデートに誘って、相手の都合が悪かったから断られただけ。

 私たちの言葉には、それ以上の意味なんてなかったはずなのに。


 でも、たったあれだけの会話の中で、私は痛いほどに気づいてしまった──もう大河っちの心に、私の姿は映っていないのだと。


 ずっと大河っちのことを見つめてたからこそ、さっきの顔を見て分かってしまった。大河っち自身は気づいてないかもしれないけど、もう大河っちの中では誰を選ぶか決まってるってことに。


 それに、もし大河っちが私のことを好きなんだとしたらさ。

 あんな一瞬で、迷いなく私の誘いを断るわけないじゃん?


 もう、その時点でさ。

 なんだかなぁ、だよね。


「行かないでって、言えなかったなぁ」


 私と君の始まりは、全く綺麗なものなんかじゃなかった。

 誰かの策略で無理やり引き合わされて、最初は印象も最悪。

 この歪な出会いはきっと、運命なんて言えない。


 でも、私はこれまでの日々を何一つ後悔していないから。


 魔女になったことも。

 君を好きになって、魔女をやめたことも。

 

 その全てが、今の私を形作っているから──


「──今日はダメでも、いつか絶対振り向かせてやる」


 この涙がいつか、輝かしい未来に変わると信じて。

 私はめげずに、明日も君に恋をする。


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