come across
白木満。夏休み中に海の家でお世話になった、リサの友達である。あの夏はドライバーとしてリサからコキ使われたり、くだらない理由で大喧嘩したり、ひょんなことからバイトをしたり、挙句の果てには全員集合してビーチバレーをしたりと、中々にイベント尽くしであった。
そんな濃い思い出を残した後。
白木さんとの別れ際に、俺は彼女と連絡先を交換していた。
『もしもし、岩崎くん? 久しぶり! 急にごめんねぇ。今、時間大丈夫かな?』
「うん、少しなら大丈夫だよ。でも珍しいね、白木さんから連絡してくるなんて」
というか、彼女から着信があったのは今回が初めてのことだった。
『えっと、なんというか、ですね。今日は岩崎くんに緊急連絡があって、お電話した次第であります』
「……もしかして、リサ関係の話だったりする?」
『え、すごっ! なんでわかっちゃうの!?』
「いや、まあ、なんとなく」
別に俺と白木さんは仲が悪いわけではないが、夏休み以降はさほど交友を深めているわけでもない。残念ながら、俺たちはエマージェンシーコールが発生するような関係とは言えないのである。
だったら、考えられるのは共通の知人に関する連絡くらいだろう。ましてや、今のリサは軽く行方不明のような状態になっている。このタイミングで白木さんから連絡が来たとなれば、アイツに関する話である可能性が一番高いだろうと考えただけだ。
『単刀直入に言うと、ね? リサ、今ウチに来てるの。正確に言うと、ウチが貸し出してるコテージになるのかな? まあ、とにもかくにも、急に私のとこに転がり込んできたのよ』
「えっと、ざっくり状況は分かったけど……なぜ、それを俺に?」
情報は非常にありがたいが、白木さんがリサの居場所を俺に伝える理由がどうにも分からない。
『いや、だってリサが“アタシがここに居るの、大河には絶対ヒミツにして!”って言うんだもん。だったら岩崎くんには、このこと教えてあげた方がいいなって思って』
「言ってること矛盾してません?」
『あはは、文脈的にはそうかもねぇ。でも、付き合いが長いとさ。なんとなく分かるんだよね。リサは何かしら岩崎くん絡みのことで悩んでで、どうしたら良いか分からなくなって逃げ出してきたんだろうなぁって』
「そ、そういうもんなのか……」
『そ。だから、このまま見過ごすのはダメな気がしたの。岩崎くんに伝えたかったのはそれだけ。あとは当人同士の問題だから、リサのとこまで来るかどうかは岩崎くんに任せるね? 一応、コテージの住所は後で送っとくから! じゃ、バイバイ!』
まくし立てるように言うと、そこで白木さんとの通話は途切れた。
「よし。何はともあれ、アイツの居場所は分かった。とりあえず行くか」
迷うまでもなく、止まっていた歩みを再開する。
どこに居るか分かったのなら、行かない理由などあるはずもなかった。
「でも結構遠いな……」
白木さんから送られてきたメッセージを確認すると、リサが居るというコテージの場所は軽く電車で行けるような距離ではなかった。
移動時間を考えると、車で向かうのが無難だろう。幸い、魔女ハウスの駐車場には我が愛車がある。今から車を取りに戻り、その足でコテージへ向かえば、なんとか日が暮れないうちには到着できそうだ。
そうと決まれば、善は急げ。俺は再び運動不足の身体に鞭を打ち、走り始める──
「あれ、大河っちじゃん。こんなところで何してんの?」
──つもり、だったのだが。
「えへへ! 偶然会えるなんて、今日の私ったらもしかしてツいてる? せっかくだし、その辺でお茶してかない?」
なんとも言えないタイミングで峯岸舞華と遭遇し、俺は再び足を止めることとなった。