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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第六章 ずっとそばにいた
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もう逃げない

 ずっと、自分の気持ちと向き合うことから逃げ続けてきた。

 

 今自分が誰を好きなのかなんて、考えないようにしていた。


 俺が誰かを選んだら、彼女たちとの日々が終わってしまうから。

 終わりの先にある未来が、クリアに想像できないから。

 

 まずは5人の正体を明らかにしよう。その上で、全員と向き合おう。そうすれば、きっと俺たち全員が納得できる結末を迎えられるはずだ──そんな甘い考えを抱いて、俺は『誰を選ぶか』という己の迷いから目を逸らし続けてきた。


「さあ、どうする大河くん? もはや、魔女ハウスのルールは完全に崩れたと言って良い。今や君と結ばれたくない女の子なんて、一人もいないだろうからね。誰を好きになるか、あるいは誰も好きにならないか。自由に選ぶと良いさ」


 だが、シオンにここまで言われてしまっては、もう逃げ続けることはできないだろう。

  

 俺は、誰に心惹かれているのか。

 俺は、誰と一緒に居たいのか。


 選択の時が、ついにやってきたのだ。


「俺は……俺は……」


 “あの子”への執着は既に消え去り、いつしか昔の夢を見ないようになった。もう一度会いたいという気持ちは今でも変わらないが、その感情が恋心なのかは分からない。


「岩崎……さん……」


 芦屋さんはソファに座ったまま、不安げにこちらを見つめている。


 状況的に考えれば、彼女が“あの子”ということになるのだろう。

 十年以上もの時を経て、ついに俺たちは互いを認識した上で再会を果たしたわけだ。

 魔女ハウス内の謎は全て消え去ったと言って良い。


 だというのに──まだ頭の中で、何かが引っかかっている。


 感動の再会だというのに、なんで芦屋さんは何も語ろうとしないんだ?

 随分と時間が経ってるのに、なんでリサはまだ起きてこないんだ?

 まだ時間に猶予はあるはずなのに、なんでシオンは俺に選択を急かすんだ?


 この期に及んでもなお、拭えない疑問が浮上する。


「……はぁ、こりゃダメかなぁ。ここまでやっても即決でボクを選ばないあたり、君らしいというかなんというか」


 溜息交じりの言葉と共に、シオンがこちらの思考を遮断した。


「その、すまん。今の気持ちを上手く言葉にできるか分からないが……ここでお前を選べば、俺は幸せになれるのかもしれない。お前が付き人として隣に居てくれたから、これまでの日々は幸福だった。だったら、これから先も一緒に居てくれたら、きっと未来も幸福になるんだと思う」


 たとえ男だろうと、女だろうと。

 シオンが大切な存在であることに変わりはない。

 それは揺るぎない事実だ。


「俺も多分、お前が想ってくれるのと同じくらい、お前のことが大好きだ。お前が望むなら、俺はここでお前を選びたい。でも、お前の望みは『俺自身が納得のいく選択をすること』なんだよな?」


「ああ、そうだとも。仮に君がモヤモヤしたまま、これまでの感謝とかヘンな義務感でボクを選ぶんなら、その時は君をブン殴る。ボクに惚れてない君から選ばれたって、ボクはちっとも嬉しくなんかないからね」


「分かった。だったら……この感情に名前をつけるために、少しだけ時間をくれないか?」


 もう自分と向き合うことから逃げるつもりはない。

 でも、だからこそ、中途半端な気持ちで決断するわけにはいかない。


 俺がシオンに抱いている感情が親愛なのか、恋慕なのか。

 芦屋さんは今、何を想ってここに居るのか。

 

 それを明らかにしなければ、きっとシオンの望む『俺自身が納得する選択』は実現しない。


 そのためには、今ここで三人の全てをぶつけあう必要がある。


「シオン、芦屋さん。もう隠し事は無しにしよう。今まで言えてなかったことがあったら、ここで全部ぶちまけよう。探り合いは、もう終わりだ」


 全てが明らかになった時。

 その瞬間に芽生えた感情が、俺の答えになるだろう。


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