君と”あの子”と4人の魔女
女らしさを捨てたつもりだったものの、出会ってから少しの間は大河くんが普通にボクを怖がっていた。自分で言うのもどうかと思うけれど、どうにもボクは美少女過ぎたらしい。
でも、大河くんは昔から度が過ぎるほどのお人好しだった。だから、君は怖がりつつも少しずつ心を開くようになってくれて、そんなに時間をかけることもなく友達になることができた。今の関係を構築するのは、さほど難しいことでもなかったように思う。
それからはいつも一緒に居たから、ボクは意識せずとも岩崎大河という人間を深く知ることになる。
「けほっ、けほっ。ごめんな、シオン。いつも看病してくれてありがとう」
「はは、何言ってんのさ。これがボクの仕事だよ」
病弱だった君の世話をするのなんて、付き人として当然のこと。
だというのに君は、毎回欠かさずボクに『ありがとう』と言ってくれる。
御曹司という立場を一切鼻にかけることもなく、常に周囲への感謝を忘れない。
そんな、誠実さを知った。
「ねぇ大河くん、勉強し過ぎじゃない? たまには遊んでもいいんじゃないの?」
「いや、ダメだ。俺は努力なしで岩崎を継げるほどの才能はない。だから、一分一秒でも人より頑張らなきゃいけないんだ」
自分が天才ではないと理解した上で、それでも絶望せずに努力を重ねる。
大企業の跡継ぎというプレッシャーに負けず、常に理想の自分であろうとする。
そんな、ストイックさを知った。
だから……そんなの、応援したくなるに決まってるじゃん。
ずっと隣に居て、心が動かないわけないじゃん。
報われてほしい、って。
幸せになってほしい、って。
そう思わずにはいられないじゃん。
──でも、ずっと“あの子”に縛られてたら、大河くんは一生幸せになれないじゃん。
会えもしない女の子の夢を見続けて、ずっと初恋を忘れられないなんて可哀想だよ。
だからボクは、君が過去にケリをつけられるような舞台を用意すればいいと思ったんだ。
でも、ボクの力だけで大それたことは出来ない。
だから、ボクは「大河は女っ気が無さ過ぎるんじゃないか?」と悩んでいた君の父親に付け込んだ。
「であれば、旦那様。私から提案がございます」
岩崎家を納得させるために、表面上は『御曹司に女性への耐性をつける』という理由で。
真の目的は、『君の初恋をちゃんと終わらせる』というボク個人の野望で──
「題して、“魔女ハウス計画”。御曹司の弱点を克服するには、もはや異性と同居していただく他に方法はないでしょう」
──ボクは、君と“あの子”と4人の魔女を集めた。