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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第六章 ずっとそばにいた
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ファイナルアンサー

 思えば、最初から違和感はあったのだ。けれど違和感の正体が分からないから、その違和感を気のせいだということにして、見て見ぬフリを続けてきた。これまでは、誤魔化していてもそれなりに上手くやってこられたから。


 だが、結局のところ最後まで誤魔化しを通すのは不可能なのである。だから最近は自分なりに己の違和感と向き合い、その解消を目指す日々を過ごしてきた。


 ──そして、困難を極めたその“違和感の解消”は昨夜、偶然に偶然を重ね、達成に至ったわけである。


「これから話すのはあくまで推測の域を出ないことだ。だから、もし事実と異なることがあったり、心外だと感じたことがあったら遠慮なく否定してほしい。俺は魔女を見定めたいだけであって、君たちを傷つけたいわけじゃないからさ」


 俺はあくまで真実を明らかにしたいだけであって、魔女を糾弾するつもりはない。

 ソファに座る芦屋さんと千春さんの前に立ち、まずは今の心情を告げた。


 二人がコクリと頷くのを確認し、俺は早速話を本題へと移す。


「これまでの生活で、俺は何度か違和感を覚えることがあった。その中でも特におかしいと感じたのは──やたらと、俺たちの生活が岩崎家側に筒抜けだったってことだ」


 例えば、夏休みの一件。

 俺は同居人たちに秘密でリサを海の家へ車で送り届ける予定だったが、出発して間もなく、彼女らは岩崎家が用意した車で俺たちを追いかけてきた。


 あの時は深く考えていなかったが、今思えば準備が良すぎるのではなかろうか。『俺とリサが出かけた』という情報が岩崎家に回り、車が届くまでの時間が明らかに早すぎる。


 この前の学祭だって、そうだ。

 魔女ハウスを追放された舞華は『大河くんが学祭に行くらしい』とシオンから連絡を受け、キャンパスにやってきていた。

 

 だが、学祭に行くと決まったのは当日のことである。それにも関わらず、情報はすぐに岩崎家へ渡り、俺たちがキャンパスに着く前に舞華の元まで届いた。


 長らく暮らしてきて、監視カメラや盗聴器の類は見つかっていない。しかしながら、どう考えても俺たちの生活が岩崎家に筒抜けになっているとしか思えないのである。


 そこで俺は、とある推察を立てた。


「魔女側に一人、岩崎家の内通者がいる。そう考えれば、俺たちの生活がダダ漏れになっているのも納得できる。情報を流してる目的までは、分からないけどね」


 俺たちと岩崎家をつなぐ魔女が居れば、これまでの情報流出にも説明がつく。

 理屈としては、通っているだろう。


 となれば、次に考えるのは『内通者は誰か』である。


「内通者が一人だけ魔女ハウスを留守にして海の家に行こうとすることはないだろうから、リサの線は薄い。既に退去している舞華は論外。学業とバイトの事情で家を空けることが多かった沙耶に内通者を任せるのも多少無理があるだろう。そう考えると、内通者は君たち二人のどちらかという可能性が高い」


 二つに一つ。

 片方が内通者であり、もう片方が“あの子”である──


「──と、考えたこともあった。でも、多分それは少し違う」


 しかし最終的に、『内通者説』は部分的に間違っているという結論に至った。


「夏休みの時も文化祭の時も、魔女ハウスの情報が岩崎家に回るスピードは異常だった。だというのに、怪しげな言動を取っている人物は一人もいなかった。仮に内通者が居たとしたら、ソイツは5人の目がある中で、疑われることもなく、リアルタイムで俺たちのことを岩崎家にリークしていたことになる。そんなのは到底不可能だろう?」


 ここまでは、文化祭が終わった時点で考えることができていた。

 昨夜まで頭を悩ませていたのは、その先の考察である。


「監視カメラや盗聴器はない。内通者もいない。じゃあ、なぜ俺たちの生活は岩崎家に筒抜けだったのか……その答えを出すのが、一番難しかった」


 難しいし、そもそも考える意味があるのかすら分からない。

 だから俺は途中で考えるのを諦め、最後に千春さんと向き合うことを優先した。

 論理ではなく、自分の気持ちに従って魔女ハウスの生活に終止符を打とうとした。


【大河くんが幸せになってほしい。ずっとそう思って、私は隣に居たんだよ?】


 しかし昨晩、あの瞬間。

 口づけの衝撃と共に眠りに落ち、幼い日の夢を見た瞬間。

 散逸していた点と点が、俺の中で繋がってしまった。



 久方ぶりに見た夢の中で思い出したのは、たった二つの事実に過ぎない。


 ひとつは、“あの子”が居なくなってから、ガキの間は女の子が怖くて仕方がなかったということ。『仲良くなっても、また居なくなってしまうんじゃないか』と、過剰に異性と距離をとっていた自分を思い出した。


 そして、もうひとつは“あの子”との時間を失い、まだまだ異性に怯えていた頃──“ソイツ”に出会った日のことだ。


『はじめまして! ボク、今日からおじいちゃんの命令で大河くんのお世話をすることになったんだ! よろしくね!』


 華奢な体躯。

 きめこまやかな白髪。

 一点の汚れもない、透き通るような素肌。

 星のように輝く碧い瞳。


 御曹司の付き人として現れた“ソイツ”はあまりに綺麗で。

 だからこそ──どうしたって、かわいい女の子にしか見えなかったから──最初は怖くて仕方がなかった。


 俺の本能が、初対面の秋山シオンを女の子であると認識した。

 実にくだらないが、それが“あの子”の素顔と共に忘れていた、もうひとつの幼き思い出である。



「繰り返しになるけど、この結論は推察の範疇に過ぎない。妄想とも言って良い。だから、反論は自由だ」


 そして、欠けていた記憶が埋まった瞬間。

 いくつもの違和感が互いに結びつき、俺の中でひとつの回答が導き出された。


「なぜ内通者が居ないのに魔女の情報が筒抜けになっていたのか? それは君たちの中に内通者が居るんじゃなくて、岩崎家内部の人間が魔女として直接潜入していたからだ」


 彼女らに告げているように、これは推察の範疇に過ぎない。


 ──『もしも、“ソイツ”が実は女の子であることを隠してたら』なんていう、我ながら正気を疑う妄想に過ぎない。


 しかし、その結論に確信を持ってしまったのだから仕方が無い。


「岩崎家に一人、戦闘も隠密も変装もなんでもござれの使用人が居る。魔女の中に紛れ込むなんて芸当ができる人間は、俺が知る限り“ソイツ”しかいない。魔女として潜入していたのが“ソイツ”なんだとしたら、すぐに俺らの情報が岩崎家に漏れたのも納得できる」


 なぜなら、そもそも“ソイツ”が魔女ハウス計画の首謀者なのだから。


「俺が舞華のストーカーから刺された時、君たちも病院で“ソイツ”には会ったことがあると思う。でも……魔女ハウスの中で一人だけ、“ソイツ”に会ったことのない住人が居るんだよ。『大学で泊りがけの実習がある』と言って、病院に一度も来なかったからね」


 俺の推察が正しければ、“ソイツ”は5人のうち1人に変装・擬態をして魔女ハウスに潜入していることになる。アリバイ的に考えれば、“ソイツ”の顔を見たことがある4人は擬態先になりえない。


 となれば、擬態先として最も怪しいのは唯一病院に居なかった“彼女”ということになる。


「君だけは、“ソイツ”と一度も顔を合わせたことがない。それは会う機会が無かったわけじゃなくて、単に君が“ソイツ”本人だから顔を合わせられなかっただけじゃないのか?」


 座ったまま俯いている“彼女”に視線を移し、俺は問いかける。


 ──改めて振り返ると、これまでの生活にヒントは散りばめられていた。


【ちがうもん! ボクの本体はボクだもん!! メガネは付属品だもん!!】


 デートウィークの後、全員で派手に酔い潰れた飲み会中の一言。

 今思えば、あの時は一瞬だけ君の素が出てしまったのかもしれない。


【でも……ずっと今のままだったら、そのうち大河くんが壊れちゃうよ。だから私は、できれば早いうちに選んでほしいと思ってる。それが大河くんにとって、一番だと思うから】


 俺を『大河くん』と呼ぶのは、“ソイツ”と君だけだった。

 君の視野はどこか俯瞰的で、誰よりも俺に選択を迫っていたのも『魔女ハウス計画の首謀者だから』という理由があれば、腑に落ちる。


【御曹司を幸せにしたい──あの子はずっと、昔からそう思い続けているはずですよ】


 そして、ウチの執事が物憂げに告げた言葉。


【大河くんが幸せになってほしい。ずっとそう思って、私は隣に居たんだよ?】


 それは、昨日の夜に君が残した言葉とほとんど一致している。


 情報漏洩の早さ。

 病院のアリバイ。

 酔った時の一言。

 俺への呼称。

 爺の証言。

 

 なにひとつ物的証拠はないし、状況証拠としても弱いものばかりだ。


 ──しかし、幼少期の記憶が導き出したこの結論を、俺は間違いでないと信じている。


「最後の魔女は君だ。音崎千春──改め、秋山シオン」


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