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この中に1人メインヒロインがいる  作者: Taike
第六章 ずっとそばにいた
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後の祭り

 魔女ハウスにはルールがある。


 良くも悪くも。俺たちはルールがあるからこそ曖昧で複雑な関係性を維持し、今日までシェアハウス生活を続けることができているのだろう。


『魔女は岩崎大河に告白してはならない』


 特に、このルールの影響は大きい。魔女側からのアプローチに制限があるおかげで、俺はなんとかここまでやってこられたのだと思う。毎日毎日グイグイこられたら、たまったもんじゃない。


──しかし、そのルールがあると分かった上で、芦屋凪沙は告げたのである。


「ずっと、あなたに会いたかったから……!」


 それは彼女自身の言葉ではないのかもしれない。

 あくまで劇中のヒロインとして、物語を締めくくる言葉を口にしたに過ぎないのかもしれない。

 厳密に言えば、魔女ハウスのルールはなんら破っていないのかもしれない。


「ああっ! いや、これはその……ごめんなさいっ!!!」


 だが、その行動はどうしたって意味を持っていた。


 わざわざ観客席まで降りて、その言葉を俺に伝えた理由。

 演劇が最後の最後で台無しになると分かった上で、その言動に至った理由。

 その頬に、微かに涙が浮かんでいた理由。

 慌てて俺の前から立ち去った時、両耳が真っ赤に染まっていた理由。


 彼女はその答えを決して口にしていない。

 言葉にしていないから、心の底にある真意は彼女にしか分からない。


 だが、その言動に何も感じないほど、俺もバカじゃあない。


『え、えー、これで本日の公演は以上になります! ご鑑賞ありがとうございました!』 


 突然のハプニングに取り乱し、ナレーターが動揺混じりに舞台の閉幕を告げる。

 会場のムードは最悪。

 最前列に座する魔女ハウスの面々も、ただの一言も発さずに沈黙を貫いている。

 かくして学園祭は、思いもよらぬ形で終わりを迎えていく。


「……そうか。もう、こんな時間か」


 会場外では、場違いなフィナーレの花火が鳴り響いていた。



 帰路の雰囲気はまさしく“最悪”の一言に尽きる。


 誰も何も言わず、ただ歩みを進めるのみ。演劇サークルの面々曰く『芦屋さんは気づいたら居なくなっていた』とのことで、帰り道の人員構成は来た時となんら変わっていない。不幸中の幸いだったのは、足の手当てを受けた沙耶が自力で歩ける程度には回復したことである。


 無言の俺たちはきっと、皆同じことを考えているのだろう。

 芦屋さんが最後に見せた行動を、ただひたすらに思い返している。

 なんとなく互いにそれを察しているからこそ、自ずと会話がなくなってくる。


 祭りの帰り道だというのに、嫌なくらいに静かである。

 星が輝くこんな夜だというに、空を見上げているのは俺だけときた。

 あー、やだやだ。今くらいは嘘でも良いから、騒がしくしてもらえないものか。

 こうも静かだと、余計に色々考えこんでしまうじゃないか。


「はぁ……」


 ため息をひとつ。

 ほんの一瞬、吐き出したCO2が白く舞う。

 なんとなく嫌な形で、冬の到来を感じてしまった。


 次の春は、一体いつやって来るのだろうか。


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