みんなの先生
(前回のあらすじ)パンツ。
魔女ハウスに放り込まれて以来、初の週末。今日はいよいよ峯岸舞華との勉強会の日である。
勉強会という体裁ではあるが、おそらく今日は俺と舞華が互いの腹を探り合うこととなるだろう。夏休みド真ん中のこの時期に勉強会をすること自体がおかしな話だ。きっと舞華は俺と2人きりになる状況を作りたかっただけに違いない。多分『勉強会』なんてのは建前でしか無いだろう。
「おっす、岩崎っちー! 約束通り来たよっ! 部屋開けてー!!」
そして時刻は午前9時。今日の展望について軽く思案していると、部屋のドアから、ノック音と共に舞華の元気な声が聞こえてきた。
「おっけ! すぐ開けるからちょっと待っててくれ!」
そしてベッドに腰掛けていた俺は、努めて明るく声を掛けながら、舞華を招くべく扉へと向かう。
さぁ、『岩崎大河vs魔女候補』round2の開始と行こうじゃないか。
◆
舞華を部屋に招いた直後。今日は一応勉強会ということになっているので、俺は部屋の中央に折りたたみ式のテーブルを広げ、彼女とテーブル越しに向かい合う形となった。
「にゃはは、ごめんね岩崎っち。夏休みなのに勉強なんて。でも、どーしても東大生から勉強を教えてもらいたくってさ! まあ、とりあえず今日はよろしくね! 岩崎っちセンセ!!」
「はいはい、よろしくさん」
そして、なぜかやたらと薄着な舞華は、俺に一言告げると、机上に勉強道具を広げ始めた。
というか、服装が色々とキワど過ぎる。なんでそんなに胸元ユルユルなんだ。勉強道具置くために舞華がかがむたんびに、ちょいちょい視界がR15になるんだが。
「よいしょ、よいしょ……よし、準備できた!!」
「……ゴクリ」
チラリズムたまんねぇな。
「岩崎っち? どうしたの? ボーッとしちゃって?」
「あ、いや、別になんでもない。準備出来たみたいだし、勉強会始めようぜ」
ガバガバの胸元から視線を逸らしつつ、半ば強引に勉強会の開始を告げる。
「じゃあさ、早速このページの問題の解き方を教えてくれない? 『二重積分』の問題なんだけど」
そう言うと、教科書を手に持った舞華はテーブルに身体を乗り上げて、さらに俺との距離を詰めてきた。なんかよくわからんが、良い匂いがする。
って、ん? ちょっと、待て。二重積分? ニジュウセキブン? なにそれ、全然知らない人なんですけど。
いや、まあ『積分』って言葉自体は分かる。高校で習う数学の分野だし。なんなら大学入試の時も普通に使ったし、むしろ積分は得意な方だ。
でも『二重積分』ってなんなの。そんなの全然聞いたことないんだけど。つーか、文系の俺に計算のことを聞かれてもチョット困るんだけど。
「あ、あのー、もしかして舞華さんって理系の学部でいらっしゃいますか?」
「え? そうだよ。ウチは工学部。えへへ、まあガリガリ計算するばっかで全然つまんないんだけどね」
「な、なるほど……」
いや、お前その感じで理系なのかよ。テニサーの陽キャは私立の文系だって相場が決まってんだろ。変なタイミングで知性発揮してくんのやめろよ。
「ん? どうしたの岩崎っち? 急に固まっちゃって。もしかしてどこか具合が悪いの?」
「え、あ、いや、べ、別にそんなことは無いぞ。うんうん、ニジュウセキブンね、ニジュウセキブン。あはは、難しいよね、ニジュウセキブン」
え、どうしよ。舞華のヤツ、完全に『東大生なら分かって当たり前だよね?』みたいな目で俺を見てやがる。そんな目で見られたら、ここで今更『俺と舞華じゃ勉強してる分野が全然違うから教えられません』なんて言えない。
──ふむ、ならば仕方ない。ここは奥の手を出すしか無いみたいだな。
「Hey, Siri。『ニジュウセキブン』について調べてくれ」