苗字を同じにしたんだからね。
結婚、それは「俺と同じ苗字になってくれないか?」と言っているようなもの。(まあ、例外は存在するようですがね。)この名字を変えるという行為自体に特別感があるかどうかによってまた変わってくるものなのです。
高校3年生で分け合って結婚!してしまったものです。ハハハ・・・いいかい?俺は決して後悔していない。むしろ幸せでいっぱいである。しかしながら幸せが生まれれば新たな悩みができてしまうのが人間というものであり人の思考というものでもある。何に困ってるかって?
妻がむすっとしてる。
哀昏 明18歳既婚。しっかりはしていないが努力は惜しまんぞ。平成の魂を背負った平和を求める一般男子。論理的思考ってのは持っていて損はないと考えすべてをロジカルシンキング。今の状況を論理的に説明すると・・・妻が「結婚したから言わなくても伝わってる。」みたいな思考に走って行ってしまったみたいな感じだ。結論から言うと「無理に決まっている。熟年夫婦と新米夫婦の差を考えなかったのかあの者は。まあそれを含めてもかわいいのだが。かわいいが困らせてくれる。あれだな、猫だな。
まあよい。とりあえずコミュニケーションをとって解決策を練らねば。
「天野ーーーかまってくれんとさみしいぞ。」
必要最低限のことだけをしゃべることによって地雷を踏む確率を減らす作戦だ。
妻の名は天野 雪。手先はあまり器用ではないが頑張り屋さんでとてもやさしい。俺より相当立派な人だと俺は思う。
「明君。嫌い。」
ああ・・・振られた!?早くね!?この前婚姻届け出したばっかりですけれども!?
なぜだ!なぜ嫌われた!
こんなことが家のリビングダイニングキッチンで行われている。マジでどうしましょ。
俺はここで「ネットで検索をする!」という方法を考えてしまった。しかしそれはおろかな行為。もしネットの手段を使ってしまえば後々ばれた瞬間絶対後悔することになる。後悔するとわかっていることをわざわざするのは合理的ではない。自分で考えねばならんのだ。
うむ・・・しかしどうすべきか。俺は素直に理由を聞いてしまおうかと考えている。やはり本人の不満は本人にしかわからない。俺が今口内炎で苦しんでいること自体俺しか知らないように。
「天野よ。すまない・・・俺がふがいないばかりに。不満があるならばズバズバ言ってほしい。俺は、天野に避けられているということに耐え切れない!」
正直な気持ちをぶつけることによって相手も本気で来てくれると信じてみた。
「明君・・・私哀昏になったの。わかる?」
・・・どゆこと?しかしせっかくくれたヒント!「わからん!」と答えるのはちょっと・・・。
「えっと・・・まあ、天野の言ってることはちょっとはわかる気がする。」
天野はおでこにしわを寄せた。イライラさせちゃった!
「わかってないよね。」
天野はそう言って外に行ってしまった。やばい!急いで追いかける!一か月も持たずはさすがに嫌じゃ!
「天野!」
そういいながら玄関を飛び出たが誰もいない。もう見逃してしまった!とりあえず探さんと!
どうすればいいんだ・・・俺は天野の好みではなかったのでは・・・確かにちょっと断りずらい雰囲気でプロポーズしてしまったが、どうしよう。離婚は絶対ヤダ!
全力で天野を探した!もう死に物狂いで。狭い道から大通りまで。
家の周辺を探しまくってたら雨が降ってきやがった。だんだんイライラしてきた。イライラの相手は雨だ。決して天野にイライラしているわけではない。
ビショビショでボロボロになりながら探しまくる。天野傘持ってなかったよな!濡れているかもしれない!しかし俺も傘持ってない。
傘を取りに家に帰ってみると、リビングに天野がいた。
「・・・よかった。」
膝から崩れ落ちた。そして顔面からバタンと倒れた。
「明君・・・大丈夫?まあまあ出血してるけど。というか結構血が・・・。」
多分だれかの私有地に入ったときにバラのとげとかが引っ掛かったのだろう。しかし俺は別にこれぐらいじゃどうもせんかった。痛くもないし。
「天野・・・俺じゃダメなのか・・・。」
なんだか心も湿っぽくなってきた。
「明君。このままじゃ風邪ひいちゃう。あとね、私が起こってる理由だけど・・・」
天野が俺の顔を両手でつかんで天野の顔に近づけて言った。
「苗字はやめなさい!」
・・・確かに。俺の知っている天野雪は存在しないのだ。哀昏雪・・・なんだか照れる。
あれ?そういえば・・・。
「外に行ったとき、どこにいたんだ?見つけられんかったんだが・・・。」
気になっていた。行方不明になるまでの速度が速すぎる。
「隣の先輩方の部屋に。知人だらけのアパートって便利。」
ああ・・・室内か。そりゃ見つからん。不法侵入はよろしくないから家の中の創作はできんからな。
う・・・寒気が。雨に当たったからか。着替えてくるとしよう。
「じゃあ俺着替えてくる。」
「まって。」
呼び止められた。寒いんだけど・・・。
「まだ読んでもらってない。」
あ・・・そうでした。結局どう呼べばいいんだっけ?よーく思い出せ!ここで選択を間違えればまた怒られるぞ!
「えっと・・・ただいま、哀昏雪。」
「フルネーム!もう!なんで哀昏君はスッと言えないの!?いい?乙女心というのはね、」
「だって天野この前「乙女扱いするな」って言ったじゃん。」
「あ!また天野って言った!ちゃんと名前で呼びなさい!」
ああ・・・そうだったな。
「雪、好きだ。」
「そういうのずるいと思うの。」
これがあっていたらしい。極限の状態で出てきた言葉。そしてもうすぐ俺は風邪をひく。めっちゃ極限状態だ。
高速で部屋に戻り、着替えてリビングに戻ってきた。
「哀昏君。傷見せて。」
おや、雪が救急箱を持ってきてくれた。ありがたい。
ほっぺと腕と足と首と肩の止血。いやー自分じゃできんからありがたい。
「気にしないの?」
ん?けがのことか?まあ、黙ってりゃかさぶたで止まるし気にはせんかなぁ。
「まあ、気にはならないかもな。」
「・・・しらない!」
雪が消毒中の傷口に綿棒突っ込んだ。痛いしグロい。感情的になるのは構わないが痛くない範囲がよかったな。とりあえずここで俺が気づいたことは何かが食い違っているということ。俺は食い違いに敏感である。
「天野、俺は「傷口が気にならない。」という意味で話をしていたのだがなんだと思ったんだ?」
「だから天野じゃなくて雪!」
もっと綿棒がめり込んだ。だから痛いって。
「私は・・・明君のことを哀昏君といったことについて・・・。」
やっべ、気づかなかった。ここはごまかすべきだろうか。
「俺は・・・うーむ・・・困ったなぁ。」
言い訳が思いつかなかった。ここは正直に言おう。
「俺は天野からの呼び方に関しては「哀昏君」で慣れてしまっているんだ。そしてその呼ばれ方が好きになってしまったんだ。ごめんな。これじゃ本末転倒だな。何とか努力はしてみる。」
明君というのに呼ばれなれていないということも含まれているがな。
「じゃ、じゃあ「天野」って呼ぶのも好きなの?」
そう来たか。そうだな・・・
「もちろん好きだ!ずっとそう呼んできたからな。しかし天野が言う通り苗字で呼びあるのはよろしくない。うむ・・・どうしたものか。」
「・・・あだ名なんて・・・どうでしょうか。」
天野からの意外な提案。なるほど。
「じゃあ天野だからAちゃん?」
「哀昏君だから・・・A君?」
何か匿名訳あり少年少女みたいになっている気がする。
あだ名を考えてみるとある一つの結論にたどり着いた。きっと天野は俺のことを名前で呼ぶときかなりの覚悟があったのだろう。しかし俺はそれを踏みにじってしまった。だから天野は怒ってしまった。そう、すべては俺が悪いのだ。
「雪・・・雪ちゃん・・・雪さん?雪っていい名前だから呼ぶことにするぞ!」
俺の突然の決意に天野がびっくりしている。そんなに!?悪かったよ今まで。
「じゃあ、明君。」
「うん!雪君!」
「やめて。」
早速雪に怒られた。君はダメだったみたいだ。うむ・・・。
「雪ちゃん?」
「う・・・うん。」
「雪さん?」
「ちょっと遠く感じる。」
おい、さん付けで呼び合ってる夫婦に謝りやがれ。
まあ、雪が「雪ちゃん」という呼び方を気に入ったのならば俺が雪ちゃんと呼べばいい。
問題は無事解決した。春休みはまだまだ続く。悩みの種もまだまだ存在するのであった。
結局最後まで妻をイライラさせてしまう夫ですが、夫はこれでも全力。いったい気を抜くとどうなってしまうのか。恐怖でしかありませんね。