14 最後
(14)
静かな夜だった。ロボ男は砂に埋もれたまま、空を見上げていた。空に美しい月が見えた。
ロボ男は砂から半身を起こし、両手を広げた。僅かだが、影の有機生命体としての最後の熱量が残っていた。
それを名残惜しそうに見つめると四本の腕を伸ばしてヘリコプターのように空へと浮かび始めた。
やがて傾斜度のある砂漠の坂を沿うように上昇し、影も到達できなかった32.6度まで来ると360度周囲を見た。砂漠の傾斜は大きく湾曲に緩やかに曲がっている。
ロボ男はひたすら上昇し、やがて傾斜の終わりまで行くとその傾斜の終わりの先の世界を見た。
打ち寄せる波が見えた。輝く月がその波に反応して揺れている。ロボ男はその波打ち際に静かに着地した。
するとロボ男の感知機能が反応してデジタル音声が流れだす。
――水分中に塩分反応あり。また規則的な波もあり、水中に動く魚影が見えます。この魚影は淡水に生息できない種です。タケル隊員へ報告。結論から申し上げますとこの場所は『海』と結論できます。またこの湾曲した地形を過去の日本の地理情報と照らし合わせると、この場所は『富士』と言われた休火山と断定できました。
するとそこでロボ男の頭部がゆっくりとずれて、中から影が出て来た。その影は波打ち際に飛び降りるとゆっくり少年の姿になった。
黒い髪をした少年の瞳に打ち寄せる波に揺れる月が見えた。
ピピ、ロボ男の音に少年が反応する。
#海上に一層の箱舟を確認しました。またこちらに向かう一層のボートが見えます。
少年の髪が風に吹かれて揺れる。やがてその風に運ばれるように一層のボートが少年の目の前に着いた。そのボートから金髪の美しい若者が降りた。
少年の側まで来ると手を伸ばした。
「初めまして。私はアダムと言います。人類未来計画で核爆発から箱舟ノアで生き残ったアメリカの隊員です。あなたは?」
聞かれた少年は黒い瞳でアダムと言った若者に言った。
「僕の名はタケル。同じようにシマノエレクトロニクスのシェルター型ロボットで生き延びた日本の隊員です。生きてお会いできて光栄です」
少年が若者の手を握る。
若者が顎を引く。
「あなたはどうやら外の世界から来られたようですが、外はいかがでしたか?」
問いかけに首を横に振った。
「外は砂漠だけでした。・・そのほかには・・」
言ってから少年は自分の手を見つめた。
「手が何か?」
それには小さく首を横に振り、「いいえ」と言った。
「何でもありません」
「そうですか。それでは箱舟へ向かいましょう。ノアには沢山目覚めた仲間たちが集まり始めています。さぁタケル、これから私達が新しい人類の祖であり、神話の人物になるのです。さぁ行きましょう。人類の新世紀へ」
頷いてボートに少年が乗り込んだ。それがゆっくりと岸を離れて箱舟へ向かって進んでいく。
「ところであのロボットはどうします?」
アダムがタケルに言った。
「そうですね・・」
タケルが目を細めて言う。
「いつか外の砂漠世界を美しい田園に変えなければならない時が来ると思うのです。あのロボットは農業用で米作に適したロボットです。四本の腕を上手に使い、苗を植えるでしょう。それだけでない、小麦を育てるのに畝を作るにも適している」
「成程」
ボートが静かに進んで行く。
「タケルは農業の神になるかもしれないね」
それにふふと少年が笑った。
「アダム、もしよければ僕の事をタケルではなくてこう呼んでもらえないですか?」
「何と言えば?」
アダムに言われて離れて行く岸に残されたロボットを見つめて、少年は言った。
「そう大和タケルと」
「ヤマトタケル?」
うんと少年は小さく頷いた。
「僕はこの新しい人類の新世紀を・・・いつまでも、いつまでも・・彼と一緒に生きたいのです。だからこれから僕をそう呼んで下さい」
「分かったよ、タケル」
少年は頷くと静かに箱舟に入って行った。
「ようこそ、ヤマトタケル、きっと君は日本の新しい神話の神になるでしょう」




