16.一番好きな色
「遅くなって悪い。前に言ってた女子会、準備できたぞ」
そんな蛍の言葉で女子会に参加することになった今日。
ついさっき月草さんに呼ばれて出て行った司が帰ってきたんだけど、どうしてだかものすごく機嫌が悪い。
「……何かあったの?」
近くにいた蛍にこそっと聞いてみたら、
「ああ……まあ、ちょっとな」
苦笑しながら答えにもならない答えを返される。
「次代。デザインや細工に問題はありませんし、効果自体は折り紙付きです。現在も石の手配は続けていますから、今日のところはこれで納得してください」
月草さんが困った顔で司にお願いしているけれど、司は嫌そうな顔で返事もしない。
……一体、何があったんだろうか?
「ねえ、司。何かあったの?問題か何か?」
思わず聞くと、司は眉を下げて私の近くまで来た。
「問題……うん。問題といえば問題なんだけど。
……前に、君に俺の色の装飾品を贈る話をしたのは覚えてる?」
「覚えてるよ」
ものすごく高い物を渡されそうで怖かった覚えがある。
もしかして……完成したんだろうか?
おそるおそる見上げると、司がポケットから細長い箱を出してくる。
深い青のベルベットに金の箔押し。箱の時点ですでに高級感が漂っている。
顔が引きつりそうになりながら渡された箱を開けてみると、そこにはペンダントが入っていた。
細い銀色のチェーンの先には青みがかった銀色の葉と、朝露のようにきらきら光る大粒の青い宝石がついている。
「わあ……綺麗」
高価そうとか色々を吹き飛ばして、思わず感嘆の声が出た。
金属でできた葉は葉脈部分だけが透かし彫りになっていて、ものすごく繊細なつくりだ。親指の爪くらいの大きさの宝石は、角度によって鮮やかな青色にも深みのある青にも見える。
「ほんとだ。司の目の色だね」
「……俺の目はそんな鮮やかな青じゃないよ」
不本意そうに返してくる司に首をかしげる。
「光が入った時はこんな色になるよ。私の一番好きな色だけど……何か駄目だった?」
私は好きだけど、司が嫌なら返した方がいいだろう。箱を閉めようとしたところで、
「駄目じゃないよ!……ありがとう」
いきなり抱きしめられてお礼を言われて、さっぱり意味が分からない。
「えっと……これ、本当に大丈夫なの?」
よくよく考えてみれば、これはかなりの高級品だろう。私が持っていていいものじゃない気がする。ほとんど無意識にペンダントを自分から遠ざけたら、
「君以外誰にも付けられたくなんかないよ」
司が箱からペンダントを取り出して、向かい合わせのまま私の首にさっさと付けてしまう。
細い銀の鎖が首をくすぐり、胸元で銀の葉と司の色の宝石が揺れる。
「守護の術もかけてあるから、ずっと身に付けててね」
「えっと……ありがとう」
「どういたしまして」
にこにこと笑う司は満足そうで、いつの間にかさっきまでの不機嫌はどこかに行ったらしい。
かなり存在を主張するペンダントを見ていて、ふと気が付いた。
この、銀色の葉脈だけの葉には見覚えがある。青柳本家での完全誓言の時に先代からもらった葉にそっくりだ。
もらった時はつやつやとした緑色だったけど、数日後に見てみたら色が銀色に変わっていてしかも葉脈だけになっていた。さわってみた感じも植物というより金属っぽくて、改めてここが元いた世界とは違うんだと認識させられた。
「……ねえ、この葉って、完全誓言の時にもらったのと同じ?」
「そうだよ」
精巧な細工物のような葉はお守りになるというので、前に司が髪の毛を結ってくれた時に使っていた青いリボンを結んでしおり代わりにしている。
私の分の葉はきちんと持っているはずだ。……ということは、これは司の分じゃないだろうか。
「これって司のじゃないの?」
「俺は大丈夫だから。お守りは君に持っててほしいんだよね」
当たり前みたいに言う司。
……私の方が弱いのはたしかだ。だけど、当たり前の顔でもらうわけにはいかない。
「前に司に自分のこと大切にしてって言ったよね。これはもらうけど、代わりに私のを持ってて」
少しでもこれが司を守ってくれるといい。
願いを込めて、本に挟んでいたしおりを司に渡す。
「……ありがとう」
司は少し戸惑った顔をした後で、嬉しそうに笑った。
「大事にするね。肌身離さず持ってる」
「私も。大事にするね」
ペンダントなら外したりすることはそんなにないし、なくしたりもしないだろう。
しおりは持ち歩きしづらいかもしれないと思った私の前で、司がポケットから取り出したハンカチでしおりを大事そうに包んでそのまま胸ポケットに入れた。
「上がちょっと出ちゃってるね」
「そうだね。内ポケットがある服に着替えてくるから先に車まで行ってて。月草と蛍も彼女についてて」
「わかりました」
月草さんは即座にスマホを取り出して、どこかに指示を飛ばす。
どうやらこのまま女子会に出かけるらしい。
「え、私何も持ってないけど」
どこに行くのかわからないけど、お土産的なものとかいるんじゃないの?
「手土産はこっちで用意してるから安心しろよ」
内心を読んだようなタイミングで蛍が言ってくる。本当に、至れり尽くせりだ。
……私、もし使用人になったとしてもこんな風にてきぱき仕事できる気がしない。
「すごいなあ……」
思わずつぶやいたら、
「青柳の機嫌を一瞬で回復させられる方がすげえよ。マジで助かった」
冗談でもなさそうな顔で言われて、そんなものなのかなあ……と思う。
……とにかく今は、もらったペンダントをなくさないように注意しながら、女子会に挑もう。




