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ハーレムエンドのその後で  作者: 雨森琥珀
その後の話
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7.幸せの定義

 朝ごはんを食べて少しした頃に、男子が司の部屋の玄関を開けて入ってきた。

「おはよう」

「おう。おはよう。飯は食ってるな?」

「うん。今日もおいしかったよ」

 答えながら、男子の着ているスーツって暑そうだなあと思う。

 制服らしいから仕方ないんだろうけど、どうしてこの世界の服ってこうもしっかりしてるんだろう。もうちょっと安物でもいいのになあ。

 自分の着ている肌触りの良すぎる服を軽くなでながら思う。

 私なんにもできてないのに、こんな高そうな服着てていいのかなあ……。

「もう司の仕事の時間?」

 私が倒れてから何日かは、心配した司がずっとそばから離れない日々が続いていた。

 最近少しずつ、仕事のために離れる時間が増えている。

 私も何か手伝えればいいんだけど、司は『そんなことしなくていいよ』と笑うばかりで何もさせてもらえない。

 つい数日前に無茶して倒れた私が言えることじゃないのかもしれないけど、本当に私はこれでいいんだろうか?

 毎日しっかり働いている男子を見ていると、私の立場って本当に中途半端だなあって思う。


「いや、今回はお前に届け物」

 男子が軽く首を振ると、大きな石の付いたピアスがきらきらと光る。

 男子の左耳の下で揺れる雫型の石は初めて司の家に行った後あたりから、いつの間にか付いていたものだ。

 月草さんの目みたいに水色に黄緑が入り込んだ色をしていてきれいだ。

「男子が付けてるピアスってフローライト?きれいな色だね」

 思わず言ったら、男子は少し目を見開いた。

「ん?フローライト?これそんな名前なのか?」

「うん多分?私もそんなに詳しいわけじゃないけど、そうだと思うよ」

「へえ。そうなんだな」

 男子は言いながら、ピアスを指の先でさわる。

「月草さんの目の色だね」

「ああ。色付きに群衆は見分けてもらえないからな。これ付けてりゃおれが月草のだってわかりやすいだろ」

「なるほどね。……司のそばにいるなら私もそういうの付けた方がいいのかな」

「まあ、お前は髪色も変わってるからわかんないやつの方が少ないとは思うけど……」

「贈らせてくれるの?」

 男子がしゃべっているのをさえぎって、横から司が私の手を取ってくる。

 ……なんかすごく嬉しそうなんだけど何?

「え。あーうん。くれるならもらうけど」

「受け取ってもらえるなら最高級のを用意するから待ってて!」

「最高級って……」

 何が出てくるのか今から怖いんだけど。

 一瞬、やっぱり断ろうかなと思ったところで、男子がため息とともに口を開いた。

「……とりあえず、時間もないからこれ渡しとくな」

 ほら、と渡されたのは分厚くて重いファイルだった。書類がぎっしり入っていて、ちょっと片手じゃ支えきれない。

 バランスが取れなくてふらついたら、司がファイルごと支えてくれた。

「ありがと」

「どういたしまして」

 それにしても、このファイルは何だろう?

 とりあえず開いてみると、表紙の下に紙の束が挟まっていて落としそうになる。

 ……余白にびっしり書き込みがあるけど、何かのリスト……かな?

 リストの下、ファイルにきっちり()じられているのは何かのもめごとの記録みたいだ。

 日付と人の名前と、もめごとの経緯と、それに対する対応と結果がそれぞれの枠の中にきっちりと書かれている。

「そろそろ飽きた頃だろうから新しい読み物持ってきた。こっちのリストは登場人物紹介な」

「ありがとう!」

 ここ蔵書は豊富なんだけど恋愛小説ばっかりだから、他のものも読みたいなって思ってたところだったんだよね。

「足りなきゃまだあるから言えよ。内容でわからないとこあったらそこらの奴つかまえて聞け」

「わかった!」

 さっそくリストとファイルを机の上に広げて読み始める。

 ……うーん、出てくる人の相関関係がよくわからないな。この感じだと先にリストの内容を読み込んだ方がよさそうかな。

「ちょっと青柳借りてくぞ」

 男子の声が言ってくるのに、ひらひらと手を振る。

「うん。行ってらっしゃい」

 ふわふわと司の手が私の髪をなでて、二人は玄関から出て行った。


        *


 新しい読み物に目を輝かせるあいつを残して青柳の部屋を出る。

「彼女に調停させる気?」

 あいつに渡したファイルを見て大体のことはわかったのか、青柳は不満そうにこっちをにらみつけてくる。

 ……まあ、予想通りの反応だな。

「いきなり放り込んだりはしないから安心しろよ。

 今後のこと考えれば知ってて損はないだろ」

 それでもまだ不満そうな青柳に、正面から向き合う。

「お前な、何もさせないのが幸せだとか思ってんなよ。

 できない辛さってのもあるんだぞ」

 そりゃ大抵のことは青柳がいれば何とかなるだろう。

 それだけの力も能力もこいつは持っている。

 だけど、あいつが青柳のために何かできないかって悩んでるのもおれは知ってるんだ。

 どれだけ大切にされたって、相手のために何もできなきゃ重荷に変わる。

 青柳もあいつもお互いを大事にしてるのはわかるけど、いつまでもこのままってわけにはいかないだろ。

 感情の読めない目でこっちをじっと見てくる青柳を無言で見返す。

「じじいみたいだよね」

 突然、青柳がぽつりと言った。

「は?」

「じじいのやり口に似てるなって」

 ……何がだ。おれのやり方がか?

「似てるわけないだろ。じいさんとおれじゃ場数が違いすぎて比較にもなんねえよ」

「年季とかじゃなくてやり方の傾向。

 相手に行動選ばせてるのに思い通りの結果に持っていく感じが似てるよ」

「そんな上等なもんじゃねえよ。

 強制されてビビりながら勉強するより、気になること調べていって気がついたら必要なことが身に付いてるっていう方がいいだろ」

「……まあ、この件に関しては任せるよ。

 俺はどうしても自分で片付けたくなっちゃうから」

 青柳は空を仰いで大きくため息をついた。

「仕事どこ?俺も頑張らないといけないから」

「とりあえず月草と合流しようぜ。今日も仕事山盛りだからな」

 青柳本家にいる分、学園にいる時とは仕事量が段違いだ。

 スマホで月草に連絡を取りつつ、青柳に投げる仕事の算段を付ける。


 さてさて。

 上手く事が運ぶといいんだけどな。


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