5.別の方法を考えましょう
魔力専門医の先生からは無茶なことをした二人ともに説教があった。
定期的に検診に来るようにと怒られつつ、まったく気にしていない青柳と肩身が狭そうに真剣に頭を下げるあいつの対比が少し面白い。
*
青柳の家に向かう車の中。
あいつが青柳のひざを枕にして安心しきった顔で寝ているのをしっかり確認して。
「悪い!おれのミスだ」
おれは青柳に頭を下げた。
「いや、悪いのは止まれなかった俺でしょ?」
首をかしげる青柳に、そうじゃないと首を振る。
「あいつから言ってきたんだろ?その状況で止まれるならそれはもう青柳じゃないだろ」
青柳にそんなまともなことができるなら、二人で使役獣と二重契約とかわけのわからないことには絶対なってない。
「図書室にいるからって気い抜いてたのがそもそもの間違いだった。
あいつが必死こいて調べもんしてる時は妙なこと考えてる時なんだって。
前科があるんだから気を付けとくべきだったんだよな。それに女友達の件もおれが気づくべきだった」
「あなたひとりでそんなに抱え込まなくても……」
月草がフォローしてこようとするけど……でもなあ。
「だってこの中だったら明らかにおれの担当だろ」
おれの言葉に月草と青柳は顔を見合わせてため息をつく。
「……まあ……そうかもしれませんけど」
同じクラスだし群衆同士だし、あいつに一番目が届くのはおれなんだよ。
それに月草は仕事以外で女子と話すことはほとんどないらしいし、青柳には細かい女子の心理を分かれっていう方が無理だろう。
「責任もって翡翠の件はセッティングしとく。
あとはそこの地味にヘコみっ放しのやつ。やっちまったもんは仕方ねえだろ。
今回のことであいつの使役獣の能力も分かったし、対策だって進んでんだから。
まあ、気持ちはわからなくもないから、なんか他のやり方で発散するようにしろよ」
「ほかのやり方って?」
青柳は首をかしげて聞いてくる。
自分で考えろって言ってもいいけど、こいつの場合思考が読めないからな。
変なことされるくらいなら、何でもいいから方向性を指定しといたほうがいいか。
「……あー……匂いかぐとか?」
「それはいつもやってるよ?」
いいにおいなんだよねぇ……と、青柳はあいつの髪の毛をなでながら締まりのない顔で笑う。
まあたしかにこいつは、すきあらば犬みたいにまとわりついて匂いかいでるな。
他に何かあるか?こいつがいつもやってないこと。
「……かじるとか?」
言ったら青柳は困ったように眉を寄せた。
「俺はそういう意味で彼女を食べたいんじゃないんだけど」
「アホか!誰が本気でバリバリ食えって言ったよ?
指とか耳とか軽くに決まってんだろ」
……つっても青柳の場合、軽くしたつもりでもうっかりちぎれる可能性がなくもないな。
「自分で言っといてなんだけど、お前はやめとけ。シャレにならない気ぃする」
「俺は彼女を傷つけたりしないよ?」
「念のためってやつだよ。おい月草。お前は何かないのかよ?」
おれだけの発想じゃらちがあかない。
話を振ったら、青柳が飲んだ湯呑みの片付けをしながら月草は少し考えて言った。
「髪の毛いじるとか飾り立てるとかすればいいんじゃないですか?」
月草の言葉が理解できなかったのか、青柳が首をかしげる。
「何のために?」
「自分のものだって主張できるでしょう?」
「誰に向かって主張するの?」
「……なんでしょうね。世の中全部ですかね」
「それに何の意味があるんだよ?」
青柳と一緒におれも首をかしげた。
「牽制の手間が省けるじゃないですか。それでもまだ小蠅が多くて困りものですけどね」
あいつが青柳の恋人だっていうのは知らないやつの方が少ないんだから、牽制する必要性はそんなにないんじゃないか?それに何でハエがいきなり出てくるんだ?
思わず青柳と顔を見合わせる。
「……わかるか?」
「あんまり。でも髪の毛いじるのはちょっといいかも。
彼女が本読んでる間とか暇だし」
「まあ、やれることからやってみようぜ」
数日後。
青いリボンと髪を編み込んで作った花飾りをワンポイントにしたおだんご頭のあいつから、
「なんか最近本を読み終わると髪がすごいことになってるんだけど」
……と、困惑したような顔で言われた。
「かわいいし似合ってっけどこれどうなってんだ?」
近くで見ると花弁が何重にもなっていて、作りがえらく細かい。
「わかんない。司は楽しそうなんだけど。こんなの作っちゃうくらい暇にさせてるなら私、本読むのやめた方がいい?」
「そこは気にすんな。青柳が楽しそうならお前が気にならない範囲で放っといてやってくれるか?」
「うん。わかった」
……まあ、とりあえず。おれは青柳が意外と器用だってことに驚いている。




