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6.観察してみたけれど

 さて、冬休みが近い季節です。

 私が群衆として誕生したのが九月半ばだったので、二ヶ月近くが経過しました。

 青柳と同じクラスで毎日ひやひやしていますが、何とか生き延びています。


 ……というか青柳、ほとんど最初の二時間しか教室にいないから、思ってたより安全だったというか。

 それに青柳の中に謎の線引きがあるらしく、なぜか授業中はおとなしく一切人殺しをしない。ただし休み時間や放課後は例外なので注意が必要だけど。

 本格的にピンクちゃん避けられてるなあ。というのがこの二ヶ月での感想。ちなみに攻略対象なのに姿を見かけなかった現国の黒木先生はピンクちゃんのアプローチに精神的に参って休職しているらしい。


 ……ピンクちゃんは何をやっているんだろうか?


 見かけるたびに目つきが凶悪になっていくピンクちゃんが心配になる今日この頃です。



 さて、群衆の立場をフル活用して観察をしてきたわけですが。実際、群衆って色付きからは見分けがつかない分、観察がかなりしやすい。もしも気づかれそうになっても他の生徒にまぎれてしまえば、追いかけられることもない。

 ピンクちゃんと攻略対象たちを付かず離れずじっくり観察した結果、ゲームの記憶を持っているピンクちゃんは全攻略対象から愛されるハーレムエンドを目指していることがわかった。


 今は十一月。時期的には誰かの個別ルートに入っているはずだけど、あちこちを走り回り、攻略対象をまんべんなく好感度上げしているようだ。

 まあ、この世界がゲーム通りなら個別ルートに入ったらほぼ確実に殺されるからね。

 好感度八十以上で選択肢をひとつだけ外すとかそういう細かい調整ができないこの状況で、確実に生き残ろうとすればハーレムルートが一番妥当だ。

 このルートでは攻略対象同士が牽制しあう展開になるため、命の危険は少なくなる。


 ……本当にゲーム通りなら、だけど。


       *


「……なんで最近教室によくいるんだろうね?」

 眠っているのか机に突っ伏したままの青柳をぼんやり見ながら、隣の席の男子に話しかける。

 前は二時間目が終わったあたりから教室を出て帰ってこなかった青柳が、ここ最近昼休みが終わるとまた帰ってくるようになった。

 しかも放課後もなかなか席を立とうとしない。

「ウザいのが生徒会にいりびたってるらしいから行きたくないんじゃね?」

 隣の男子は何気に情報通だ。

「そうなんだ?最近すごくイライラしてるのもそのせいかな」

「さあどうだかなー」

 話していると、放課後になってしばらくたったのに動こうとしない青柳を呼びに従者くんがやってきた。

 ……高位の色付きになると従者や取り巻きがいるんだよ。すごいよね。

 だいたいみんな主と同じクラスに固まってて、人によっては五人とか十人とかいる。身の回りの世話とか護衛とかも兼ねてるみたい。

 従者が常にそばにいないのは青柳だけだ。しかも同じクラスじゃなくて、一年下に一人だけ。他の人たちと比べると異様さがわかる。


 まあそもそも、このクラスに色付きが青柳ひとりしかいない理由が、『色付きでも気にせず殺そうとするから』だっていうのが、青柳らしいというかなんというか。

 そんな人の従者をしないといけないのは気の毒としか言いようがない。

 そんなことを考えていると、突然こっちを向いた従者くんと、ばっちり目があった。


 ……これはバレてる。


「次代」

「ほっといてくれる?」

「っ!……わかりました」


 ……今、従者くんのこと攻撃したよね?

 色付きでも簡単に殺せる青柳の攻撃を防げるとは、従者くんは防御特化と見た!

 それにしても話しかけただけで死にかねない攻撃されるって、労働環境が過酷すぎる。

 何事もなかったかのように教室を出て行く二人を見送りながら、私は穏やかな環境で働きたいとしみじみ思う。

「主があれだと大変だよな」

 私と同じことを考えたのか、隣の男子もしみじみつぶやく。

「何が原因なんだかわかんないけど、早くイライラが収まってくれるといいんだけどね」

 ……そういえば、青柳の変化がもうひとつあった。

「前はイライラした時に不機嫌を隠すみたいに笑ってたんだけどさ。最近は目元がゆるんでから思い直したみたいに不機嫌になるんだよね。何か変わったことでもあったのかな?」

「そこまで詳しく見てねぇからわかんねぇって。ただまあ、イライラしてるのに殺さないってのは、たしかに異常だな」


 そう。青柳はここ最近群衆を殺さなくなった。

 ものすごく、見るからにイライラはしているけど、なぜか殺さない。

「まあとりあえず、お前は死なないように気をつけとけ」

 隣の席の男子は群衆としてはおかしな言動をする私の目標を馬鹿にしない、いいやつだ。

「そういやいっつも図書室行ってるんだっけ?」

「うん。そうだよ」

 青柳もいなくなったし、そろそろ行こうと思っていたところだ。

「ちょっと興味あるからついてっていい?」

 おお、珍しい。

 だがもちろん大歓迎だ。


 色付きに遭遇しにくいルートを選んでふたりで図書室に入ると、隣の男子は珍しそうにステンドグラスや並んだ本棚を見回す。

 わかるわかるその気持ち。まずは見ちゃうよね。

「今日は少し遅かったですね。何かあったんですか?」

「あ、おじいちゃん先生。今日は友達も一緒に来たんですよ」

 奥からにこにこと出てきてくれたおじいちゃん先生と話していると、

「ちょっ、おま……っ!」

 隣の男子が信じられないという顔でこっちを指差してくる。

 ……うーん。やっぱりおじいちゃん先生って言うのはまずいのかな。自分の中では当たり前になってたけど、男子の様子からすると非常識っぽい。

「いいんですよ。年経ているのは確かですから」

 にこにこ笑ってくれるから、安心して笑い返す。

 まあ一応、おじいちゃん先生って呼ぶのは他の人がいないときだけにしたほうが無難かな。

「ご所望の本を持ってきましたよ。持ち出しできませんからここで読んでくださいね」

 やった!使役獣の与える加護について調べたかったんだよね。

 青柳の従者くんも防御と探知持ってるっぽいし。使役獣ごとにどんな傾向があるかがわかれば対策も考えられる。

「ちょっ、それ禁書じゃねぇか!」

「そうだけど?」

 内容が色付きの能力に関わることだから図書室に置いてないんだよね。

 もちろん貴重な本だからなくしたり破損したりしないよう、図書室からは持ち出さない。

 さっそく近くの椅子に座って読み始める。内容が内容だからメモも取れないし、寮の門限までに少しでも読んでおかないと。

 しばらくすると、

「おれ帰るわ。お前も気をつけろよ」

 隣の男子が声をかけてきた。

「うん。また明日ね」

 軽く手を振って別れる。

 さてと。時間内に読みきれるかな。聞きたいことも出てきたから切りのいいところでいったん切り上げようか。


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